#0031【ナイチンゲール(イギリス、19世紀)】

こんばんは! 1日1分歴史小話メールマガジン発行人の李です。

今週は医療に尽くした女性特集です。まず、近代看護教育の母、ナイチンゲールを取り上げます。

ナイチンゲールは1820年5月に生まれ、1910年8月に満90歳で亡くなりますが、彼女のイメージを決定づけた負傷兵の看護にあたったクリミア戦争への従軍は僅か2年間のものでした。

実は、彼女の看護師としての活動は全体でも数年たらずのものです。

彼女の讃えられるべき業績は、看護師としての活動自体よりも、看護学の発展と統計に基づく医療衛生分野における偉大な成果です。そして、あきらめない不屈の精神と失敗から学ぶ謙虚な姿勢だと思います。

従来、看護師は病人の世話をする召使い程度に思われており、専門知識の必要がない職業だと考えられていました。ナイチンゲールはそこに専門的な知識を保有した看護士の育成を行う活動をしていきます。しかし、家族にも理解してもらえない不遇の時期が続きます。

1853年11月にクリミア戦争が勃発し、1854年にはイギリスも参戦することとなりました。

ジャーナリストの報告から傷病兵たちが後方に移送されたあとに、悲惨な状態となっていることが知られると、世論が急騰します。その状況改善のために、ナイチンゲールに対してイギリス閣僚から従軍して看護にあたって欲しいと依頼がありました。

ナイチンゲールは約40名の女性を連れて現地に赴きますが、この来訪を快く思わない人間も現地にはいました。女性の仕事など、軍隊にはないと従軍を拒否されます。

しかし、彼女たちは、野戦病院のトイレ掃除が軍隊業務に入っていないことに気付き、その仕事を始めることによって病院へと入り込んでいきました。

やがて、イギリス本国政府からの助力により徐々に活動の幅を広げて負傷兵たちの看護にあたれるようになっていきました。

献身的な看護をしたナイチンゲールは、「クリミアの天使」と称されるようになります。また、夜間に負傷兵たちの見回りをしている姿から「ランプの貴婦人」とも称されました。

ナイチンゲールは、クリミア戦争におけるイギリスの一種のプロパガンダ、広告塔となっていきます。当初は自分たちの活動が認知されることに有効だと思い、広告塔になることを厭いませんでした。しかし、戦争終結後には、有名人として扱われることを嫌います。

ちなみに、それが高じたためか、彼女の遺言によって自分の墓標にはイニシャルのみを記させました。

1856年にクリミア戦争が終結し、ナイチンゲールは帰国します。翌1857年、「軍の衛生状態に関する王立委員会」に報告レポートを提出しました。彼女は、統計図表を用いて、クリミア戦争における負傷兵の死因を統計学の観点から分析しました。

分析の結果、ナイチンゲールたちが担当していた病院が、一番死亡率が高いことが判明しました。彼女は、その原因を「すし詰めによる劣悪な衛生状態」によるものだったと記します。

しかし、この分析結果に対して王立委員会は、「既に手遅れの負傷兵が、多く搬送されていたから死亡率が高かった」と衛生状態以外が理由であるとして、報告レポートを極秘扱いにして公にしませんでした。これは、クリミア戦争中にナイチンゲールを政治的に利用した人々によるものだったと考えられます。

この提出から少し経つと、ナイチンゲールは精神的・肉体的虚脱状態に陥ります。37歳のときでした。『ナイチンゲール神話と真実(ヒュー・スモール著、田中京子訳)』での考察によると、ナイチンゲールの「自責の念」によるものとされています。以降、彼女は慢性疲労に悩まされて、90歳で死去するまでの約50年間のほとんどを執筆活動に費やします。

体の不調がありながらも、1858年に『病院覚え書』を執筆します。ここで病院における死亡率の高さに衛生状態の欠陥が大きな要因となることを指摘します。そして、1859年に『Notes on Nursing』を刊行しました。翌年に増補改訂版を発行し、近代看護学の根底を築きます。日本でも1913年に『看護の栞』として出版され、第二次大戦後の1968年にも『看護覚え書』として再訳されています。この中でもナイチンゲールは患者の衛生状態をいかに清潔に確保するかが重要であると説いています。

ナイチンゲールの看護に関する思想は、米国の看護学校で作成された「ナイチンゲール誓詞」に纏められています。

以上、本日の歴史小話でした!

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発行人:李東潤(りとんゆん)

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https://note.mu/1minute_history/m/m814f305c3ae2

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