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【中国史記から】人間の魂の三区分。目標を達成するために大切なことを中国故事とプラトンを掛け合わせて考えてみた。

さて、斉への侵攻を命ぜられた楽毅ですが国力を蓄えたとはいえ現状の燕の力では難しいと考えます。(前回のお話はコチラから)

当時、斉は湣王(びんおう)の元で天下に覇を唱えるほどの強盛を誇っていました。一時は西方の強国秦とともに王号よりも格上の帝号を名乗るほどだったのです。しかし、その陰には各国を侵略し、自国の国民を酷使がありました。

斉に恨みを抱いているのは燕だけではなかったのです。楽毅は各国に「ともに斉を討とう!」と声をかけ、連合軍を編成・指揮します。

さすがの斉も名将楽毅に率いられた連合軍の前になすすべなく敗北を喫します。燕以外の国は斉に一矢報いたことで満足して引き上げますが、燕はその後も斉を攻めて遂に斉の首都を陥落させるに至りました。

斉の財宝はことごとく燕の手中へとおさまり、喜んだ燕の昭王は国境近くまで軍を慰問に訪れ、その場で楽毅に最大級の褒章を与えました。

楽毅は引き続き斉の国に軍を進めて、斉の各都市を降伏させていきます。戦いのさなか、斉の湣王は味方に裏切られて非業の死を遂げます。最後には二都市のみが残りますが、この二都市は頑強に抵抗を続けます。楽毅は様々な好条件を提示して相手を降伏させようとしますが、彼らは決して降伏しようとはしませんでした。

戦うこと数年。燕の昭王は死去し、新しい王が立ちますが、のちの世に恵王と呼ばれるこの王は、楽毅との仲が悪く、たかが二都市をいつまでたっても落とせない楽毅を不審に思い始めます。

そこに「楽毅が謀反を企んでいる」という報告が入りました。やはりそうかと恵王は楽毅を解任し、自国に呼び戻して処罰しようと考えますが、楽毅は他国へと亡命していきます。この謀反の報告は斉の手による虚報でした。

あわれ斉の地に残された燕の軍隊は、突如、信頼していた指揮官が解任され、新任は能力も人望も楽毅とは比べ物にならない小人物に率いられます。結果、まざまざと斉の計略にはまり多くの将兵たちが斉の逆襲によって討ち死にしました。燕が占領していた各都市も斉に奪い返されてしまいました。

この一連の故事に接して、私が思うことは、プラトンの魂の三区分です。人間の魂には「欲望」「理性」そして「気概」があるのだと。

人に良い王と思われたかった燕王噲
権勢を誇りたいと願った燕の宰相
強欲で傲慢あった斉の湣王

彼らは、ただ「欲望」に付き従っただけだったため、悲惨な末路を辿りました。

困難にあたって、己の欲望とも思える目標に「理性」を組み合わせて、じっと好機を狙った燕の昭王や楽毅。もちろん、この二人にも「気概」は十分にあったでしょう。

しかし、他国に攻められた際に頑強に抵抗する力には、降伏すれば身の安全や利益が得られるという「欲望」「理性」に訴えかけるだけでは跳ね除けることができませんでした。ゆえに何年経っても最後の二都市を攻め落とすことはできなかったのだと思います。

時に人は、「欲望」に溺れます。その際、「理性」を持ち出して克服しようとしますが、欲望と理性の掛け合わせでは結局のところ「打算」が生じてしまうようにも思えます。

「気概」、信念や自尊心と言い換えてもよいこの言葉。人が何かを成し遂げるために、最後の最後に必要となることは、このことなんだろうなと思います。

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