コロナとアニメ

 これは今日、Twitterで早稲田大学文学学術院准教授の石岡良治先生がアニメについてツイートしたものに、私がリプライを送ったところ、石岡先生が反応して下さったので、アーカイブとして残しておこうと思い、作った記事です。コロナウイルスの影響により、アニメの「日常風景」にファンタジー要素を感じるようになったというところから、2020年代における日常系アニメの展望、アニメ視聴者の性愛の感覚についてなど、多くの 論考を語ってくださいました。ちなみに石岡良治先生は、「最強の自宅警備員」という愛称を持っておられます。フランス現代思想からアニメ研究へと移った方です。


石岡:あらゆるアニメの「日常風景」にファンタジー要素を感じることができるようになってしまった。絵柄ではなく、例えば入学式といったイベントでみんなが集まる場面を見るたびに。数年後はどうなっているだろうか。


私:コロナ禍をきっかけに、「終わらない日常」の終わり、そして「母性のディストピア」からの脱却の可能性も見えてくるかもしれません。

石岡:日本文化における「まとわりつく母性的権威と権力」はなかなか強力だと思います。その現れはもちろん変わっていきますが。

私:日常系アニメに男性を登場させないことで性愛を隠蔽し、母性的なものを隠しつつ実は母性が強力に支配していたことがゼロ年代及び10年代の一諸相だとすれば、20年代はその一方で強まっていた決断主義がさらに前傾化していくのでしょうか。

石岡:わたしはさしあたりアイドルなりバンド要素を含むアニメの変貌に注目してます。他方、その問いに関しては、個人ではなく「世帯」単位で人々を把握しようとする現政権の意向が改めて確認されたため、「個人の決断」が状況を打開する物語の役割も問い直されるかもしれません。

私:アイドルやバンド要素を含むアニメの日常感が変貌し、もう少し殺伐としてくるかもしれませんね。「個人」から「世帯」へとしますと、アニメでは「世帯」が「グループ」へと読み替えられて、気心が知れた仲間と状況を打開する話が増えそうです。他者があってこそのそれぞれのキャラの映えといいますか。

石岡:もう一点、「あらゆるアニメの「日常風景」」なので、日常系アニメにも関わってきますが、それだけではない含意をもつと思います。そしてとりわけきらら系作品では「異性愛的ロマンス」は隠されがちですがそれ以外の性愛はむしろオープンに展開されているようにも思うので改めて考えます。

私:そうですね、「日常風景」でした。「日常系」だけに意味を絞って見てしまっていました。きらら系作品の性愛については、確かに同性愛的なものがオープンかもしれません。そのオープンさがさらに明確になり、同性同士で交際を始めたりすると表現として転換点になるのかもしれないと思います。

石岡:それもそうですが、さらに「アセクシャル」な傾向性も、同性集団の物語だと表に出やすいように思います。これは主として女性向け「とみなされる」一見BL的なホモソーシャルなフィクションにも言えます。

私:アセクシャルな傾向性については意識にありませんでした。同性同士の関わり合いを見守るお兄さん、お姉さん的な存在(そして彼/彼女は恋愛的なことをしない)がアセクシャル的な傾向を持っているように言えそうです。もしくはコメディリリーフ的なキャラクターが、アセクシャルな傾向性を持っているとも考えられるでしょうか。恐縮ですが、具体例としてどの作品があるのか、教えていただけませんか?

石岡:作品に該当キャラがいなかったとしても、異性愛ロマンスだと性愛を強く喚起させられる(がゆえに入り込みにくい)人にとって、その要素が希薄化されているようにみえるだけでも「アセクシャルな作品受容」が促される側面があるのではないか、ということです。

私:なるほど、視聴者の作品受容の観点だったのですね。異性愛ロマンスだと性愛を強く喚起させられるがゆえに入り込みにくいという感覚、分かる気がします。「アセクシャルな作品受容」こそ深夜アニメ特有の「ノリ」かもしれません。ここから連想するのですが、「オタクがメカと美少女が好き」という言説の裏には、アセクシャル的な作品受容があったのではないでしょうか。ロボットアニメでロボットを中心とすることで、性愛はサブの立場になり、性愛への入り込みにくさを軽減するという効果があったのでは、と。ロボットアニメが振るわないのは、「ロボットで異性愛ロマンスを薄める」かわりに「異性愛ロマンスを出さない」という表現が確立されたからなのかもしれません。

石岡:拙著『現代アニメ「超」講義』では、主として富野アニメの系譜を想定しつつ、逆の問題(性的描写への忌避感が下がるのでどんどん描かれる)を考察していますが、すべてのロボットアニメがそうだとは思っていないのでここも引き続き考えてみます。

私:『現代アニメ「超」講義』読んでみます。ご教授ありがとうございます。

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