天-あの人-

今こそその名を呼ぶ

あの人は現れている

道端のぺんぺん草のつぶつぶを踏みながら

たんぽぽの綿毛を散らしながら

とんびの旋回を空に見ながら

あの人は近づいてくる

間にある川も谷も

もはや埋めてある

霧が充満する

朝露が靴を濡らす

あの人は十万里の彼方に

もうじき目の前にいたはず

かさかさに乾いた唇から声を

通らない声で呼び出す

それは言葉になる前に蒸発していった

あの人は蜃気楼のように

名を呼ぶのは百万年先

手に持ったコップの水をあおる


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