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ぐいっと男前、女前

シドニーで出会った友達でフラットという人がいる。

ネイビー出身で、ぷくっとしてて陽気で幸せそうな雰囲気を漂わせてる。

そんな彼は今、「シドニーに移り住む」夢を現実にしようとしている。
(今はコロナが立ちはだかっているけれど、それでも、彼はこの夢を実現すると思う。)
シドニーに降り立ってから2週間で、カナダからの移住を心に決めたのだ。

彼がその時見せてくれた快活さや行動力、とても愉快な性格で、潔く太っ腹なところは、今でも私に 爽やかに夢を叶える人であれ ということを思い出させてくれる。

・  ・ * ・  ・

フラットとは、Couch Serfingのハングアウトを使って偶然知り合った。(気の合う人たちで集まってドライブやビーチ、パブクロールなど好きなアクティビティを楽しめるCSのサイドメニュー)

ハングアウト当日、Bondi Beachで5−6人と待ち合わせるはずの"Beach Gathering"が、蓋を開けたら、集まったのは私とフラットの2人だけだった。

大黒様のように幸せな笑顔を見せるこの友人は、自分が生まれ育ったカナダの海は冷たいから・・・とトロピカルな街に旅行に行っては、海で思いっきり遊んでるらしい。

そんなわけでこのフラットとは、初対面でお互い水着姿というなんとも滑稽なシチュエーションの中、快晴のBondi の海を見渡しながら 身の上話を繰り広げたり、近くのマーケットを散策したりと、ユニークな昼下がりを過ごした。

その2週間後、「俺にとってはシドニー最後の週末になるから会おうぜ。」と彼から連絡が入り、待ち合わせ場所を任された私は、
うる覚えで「いつか行きたい」と思ってたRose Bayを選んだ。

それがどっこい・・・
私がRose Bayだと思い込んでいたビーチは、まったく違う名の別な場所だったようで、「シドニーのくせに」とでも言いたくなるくらい、とても閑散としていた。(これはコロナ流行前の2月の事というのも付け加えておきたい。)

週末にもかかわらず、カフェもレストランもほとんどがクローズしていて、
淋しいくらい人もまばら。
雨も降り出し、シドニーで最後の週末を過ごすこのビーチ好きな友人に対してなんとも申し訳ない気分になった。

2人で歩きながら
「ここもシドニー?週末なのにこんなにDeadなエリアは初めてだぜ」
と驚きながら、かろうじて空いていたお店で軽くランチを済ませ、
次をどうしようかと うだうだ雨の街を歩いていた。

すると通りの角に若干おしゃれめのBARを見つけ、
入ってみよう!と友人の息が弾む。

"I like people!" と賑やかな人混みを発見した嬉しさで、ものすごい勢いで入り口に吸い込まれていく(笑)
どうやら人好き、カクテル好きの直感が当たったらしい。

友人の顔を見ると、いつも幸せそうな その両目尻と口がさらにくっつきそうなくらい、文字どおり満面の笑みになっていた(笑)

フラットは、歩くカクテル辞典とでも言っていいほどで、
私の好きなフレーバーを伝えるだけで、それにぴったりのものを注文してくれていた。

ヨーロッパに「In vino veritas」(ワインは真実を明るみにする、ワインは人をおしゃべりにする..)という言葉がある通り、私たちのカクテルトークも止まらない。
話題は人生や恋愛観、仕事や旅を巡り、一歩踏み込んだことを面白がりながら愉快に話す楽しい時間になってた。

「あと30分でRose BayからCircular Quay行きのフェリーが出るから、
もう少ししたらここを退散しようぜ!」

いつの間に。

楽しいほろ酔いのカクテルトークを繰り広げながら
しっかりフェリーのタイムテーブルをチェックしている
この人の攻めの冒険心には、笑いながら脱帽だ。

・  ・ * ・  ・

フェリーがCircular Quayに着くと、次はDarling Harbourへ。

たしか花火があるらしいからと、ツアーガイドよろしくズンズンと私の前を行く友人の足取りは止まらない(笑)

辿り着いた先はWater Taxi乗り場。

「まさか、これに乗って行くのか?」

プカプカと揺れ動くボートを眺める私を脇目に
フラットはドライバーに値段を聞いていた。

"$40 each."

あんちゃんがボソッとそう言うと、

戸惑う私をよそに、

「ええい こうなったらしょうがない、旅の最後だ。他にお金を費やすこともないだろう!」

そう言って、私の分までWater Taxi $80を払ってくれたのである。

このいさぎよさには脱帽するしかなかった。

結局、私はこの日

この清く太っ腹な友人のおかげで
Water Taxi という乗り物に生まれて初めて乗ることになった。

この初めての経験に私の心の中のぞくぞくが止まらない。

ドライバーのあんちゃんがエンジンをかけると、
その、荒くちょっと鈍めの音がボート全体に響き渡る。

運転席から聴こえてくるラジオのザラついた音のヒットチャートを聴きながら、私は人生初のWater Taxi Rideを噛み締めてた。

ほろ酔いの頭に冷たく爽快な海の風

だんだんと遠くなる夜のシドニーの摩天楼

真っ暗な海にキラキラと波打つ光の模様・・・

全てが最高で、私の身体中の細胞が一つ残らず、喜びの歓声をあげていた。

夜のシドニーの街を、真剣にカメラに収めようとするフラットを真似て
iPhoneを取り出すも、Taxiは揺れるし、本物が100倍も美しいから
半ばバカバカしくなりバッグに引っ込める。

すかさず横から

「写真なんていらないぜ!ちゃんと自分の目に焼き付けな!」

カメラモード全開の大きなAndroidを握りしめながら、エンジン音に負けじと声高にそう叫ぶ友人(笑)

なんとも刺激的なWater Taxi Rideから降りた私たちは
 Darling Hourbarの花火を見物した後、

また、「いつの間に?」と言いたくなるくらい
いつの間にか出来ていた彼のBar友コミュニティを駆使した
Bar Crawlに繰り出すのだった。

本当に彼は旅の達人である。

私がマイペースな「滞在」を悠長に楽しんでる間、
彼は2週間で、地元の友人をつかまえBlue Mountainsに行き、
Opal Cardのヘビーユーザー割引を駆使して数々のビーチを堪能し
地元のBar友ネットワークや、シドニーNight Lifeの知見を広げていたのだから。

・  ・ * ・  ・

「俺、決めたんだ。」

弾むような力強い声でフラットが言う。

「ここに移り住むことにした。」

とても嬉しそうだった。
垂れた優しい目の中に、力強さを感じる。

「やっと自分の夢が見つかった」

そんな風にも聞こえた。

探していた自分の夢がはっきりとわかった時の
安堵感や、自信、わくわく感。

そんなものを、彼の声や表情から感じ取れた。

・  ・ * ・  ・

私の中でフラットは、

大胆、思い切りの良さ、潔さ、太っ腹、気前の良さ、
行動力、優雅な決断力、自分の夢への素直さ、
今を愉快に明るく楽しむこと、人生を謳歌すること

そんなエレメントを思い起こさせてくれる。

そして私は、それをとっても「男前」だと感じる。

彼のことがふと浮かんでくる時はいつでも、
私もそんな「女前」でありたいと、思い出させてくれる。

あらめて、旅で得た出会いはどれも宝であり、最高だ。

もともとは備忘録のような位置付けでブログを始めましたが、すっかり自分の心の拠り所になっていました。サポートいただけるなんて夢のまた夢ですが、もしそれが叶ったとしたら、めちゃくちゃうれしいです☆