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助手席の異世界転生(バレエショートショート)

藍は、今奨励さんの運転で先生の友人が主催するホールまで、舞台用のくるみ割り人形を貸しに行っている。直前のリハーサルで壊れたらしい。大道具も一部壊れたらしく力持ちの井伊野もついてきた。公演直前の張り詰めた空気の中、藍たちは本番に間に合うように、人形を調整し、道具を直してあげた。その帰り、事故渋滞に巻き込まれ、遠回りの道を通る。レッスンに間に合わず、がっかりした藍は奨励さんの慰めや井伊野の鼻歌に反応せず、助手席にもたれて景色を見ていた。

と、そこへ突然西洋のお城が現れて藍はびっくり。夕暮れの中で燦然と輝いて美しい。藍の頭の中でくるみ割り人形のメロディーが流れた。本物の中世の城の中で王子とパドドゥを踊る。そういう異世界転生ならうれしい。

素敵ね、あそこで踊りたいわ

そうつぶやいた途端、空気が凍りついた。奨励さんは藍を見ず、井伊野も歌うのをやめ耳を赤くして俯いている。

あれはラブホテルだ…
そう気づいた藍は違うのよ!と叫んだ。


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たらはかにさまの企画に参加中です。
今週のお題は「助手席の異世界転生」でした。


ありがとうございます。