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8番出口 2次創作小説 迷宮を打破せよ。

最近東京にできたアトラクション。
「8番出口」というらしい。
迷宮だそうだが、何かキナ臭い。

ニュースにもなったが、
「横にあった扉に入った人が入り口で倒れていた」
「早足のおじさんに捕まったと思ったら気絶した」
と報告がある。

死人が出てからでは遅いと
オレが調査に乗り出すことになった。

自慢じゃないが俺は
「時代が違ったら(本物の)勇者だったろう」と
よく同僚に言われる。

勇敢な性格を買われて
危険な調査によく派遣される調査隊員だ。

生まれつきの茶髪の無造作ヘア、
ハッキリした目つきで黒目のオレは
どこにでも居そうな少年のようだが
一応成人している。 童顔らしい。

一般人のフリをして調査をすることになった。
ラフにパーカーを羽織ってジーンズ姿。
完璧な一般人だ。

気になるのは「客に危害を加える仕掛けが
あるのか?」だ。
今は被害があっても気絶で済んでいるが、
死人が出る前に調査して片付けなければ。

目当ての8番出口アトラクション入り口に到着。
どうやら並んでいる品から選んで
1つだけ持ち物を持って行って良いらしい。

「身を守る物が良いな」

懐中電灯、何かのカギ、音楽プレイヤー…

(…音楽聴いて紛らわしたい人向け…か)

あとは…盾と剣と…エアガン。

(……)

剣を手に取る。まあアトラクションだから
予想はしていたが軽い。本物ではないと
すぐにわかる。

エアガンが許されてるのは
1人だけで入るアトラクションだからか…
(ゴーグルはあるから安全だが)

盾を持ったとしてもガードだけで
攻撃できない。
ケンカは強い方だがパンチが効く相手かどうか。

念のために剣にしておこう。
攻撃は最大の防御だ。
客を気絶させる原因が居たら倒せるしな。

(勇者っぽいと言われるからって
剣を選んだとは一言も(ry

「では次の方中へお進み下さい〜」
「いってらっしゃいませ〜」
「制限時間は40分でーす」

要は40分以内にクリアすれば良いんだな。

入ってみると簡素で少し狭い地下通路だ。
大勢が歩くようには作られてない。

天井も壁も白黒だ。
床に障害者用の黄色いブロックが
敷かれているのが救いか。

看板を見るに「0番出口」。
その隣にルールが書いてある。

「異変を見逃さないこと」
「異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」
「異変が見つからなかったら、引き返さないこと」
「8番出口から外に出ること」

なるほどね。
分かりやすい異変だと良いんだけど。

進んでみると一本道で天井には蛍光灯が並び、
監視カメラがいくつかと横長の看板が1つ。
奥からおじさん(仕掛け人?)が歩いてくる。

ポスターが等間隔に並んでいて、
反対側の壁には扉が3つと火災用非常ベル。
通気口のような物も壁の上の方にある。

この中から異変を探せって?
「…まあ目的は危険なものが無いかどうかの
調査だ 敵がいるなら斬る」
…この剣で斬れるかは知らないが。
打撃にはなるだろう。

仕掛け人のようなおじさんは無表情で通り過ぎた。

横の扉は開かない。
入り口でもらえるカギで開けられるのか?
でもそれだと調査にはならないか…
扉に入ると気絶して入り口に戻されるとのこと
だからな。

「…目立った異変は無いな」

敵のようなものも居ないし通り過ぎよう。
異変があって引き返したところで
調査は進まない。
普通にクリアしては意味がないのだ。

曲がり角を曲がると「1番出口」の看板。
「異変があったら引き返せ」だったから
異変は無くて正解ルートだったらしい。

まあ引き返さず進み続けてクリアできるほど
単純じゃないだろう。
分かりやすい異変がくるまで
進み続けることにした。

10分後〜

…分かりやすい異変が来ない。
「粘るしか無いなあ…」
こればっかりは運ゲーだ。
進み続けるしかない。

ふと右を見ると扉のひとつがわずかに
開いている。
扉の奥は暗闇だが…

………誰かがその暗闇からこちらを見ている。
仕掛け人か?
ホラーチックとは聞いていたがゾッとするな…

こいつが客を気絶させているのか?
そいつはこちらに来る気配は無い。

「お前は誰だ?」
声をかけたが無反応だ。
怖がらせるだけか?

だが立場上見逃してはいけない。
正体を明かそう。

「俺は東京の調査員だ。このアトラクションを
調査している。客を気絶させているのは
お前か?」
無反応。 喋らないキャラとして居るのか…

負けないぞ。
「もし客を気絶させているのがお前なら
放っては置けないんでね、同行してくれないか。
イヤだと言っても引っ張って…」

「…迷宮は闇だ」
喋った。掠れたような声だ。

「この迷宮を消すことが出来るか?
クククク…」
バタン、と扉が閉まってしまった。

「まて開けろ!お前は誰だ、おい!」

ダメだ開かない。逃したか…
今のセリフはなんだ?アトラクションとして
怖がらせる演出か?

「…だとしても」

"声が掠れている"のはおかしい。
普通は客に聞き取りやすい声を
出すものだろう。聞いて欲しいなら。

「……」
違和感はあるが進むしか無い。
カギは持ってないから扉は開けられない。
自然に開いている可能性を当てるか…

「他に仕掛け人らしいのがいればな…」

さっきのみたいなボソッと喋っていなくなる
パターンだと連れ帰れない。
堂々と出て来てくれないと。

…あのおじさんも怪しい。
仕掛け人なんだろうけど動きが決まりきっている。
持ち物も姿勢もずっと同じ…
正直気味が悪い。

ただ喋らないし殴って来たりもしないからな。
ただ早歩きのおじさんにだけは
注意するべきだ。気絶させられる。

進むか…

さらに10分後〜

ポスターの異変やら通気孔からの気味悪く
こぼれる汁やら、
異変に気付くようにはなってきた。
ただ敵はいない。
ポスターの不気味な顔も喋らなかったし…

「このままじゃ調査が……ん?」

なんだ?正面の壁に違和感がある。
…人!?壁の模様だが人だ。盛り上がっている。
仕掛け人だろうが…どういうキャラだ?

とりあえず遠くから話しかけよう。
「オレは調査員だ。このアトラクションで
奇妙な報告が上がっている。同行してくれないか」

するとその壁の模様の人間は
ブルブルと震え出した。

「…け……て………くるお……」

何だ?よく聞き取れない。

「邪魔」

人型の壁に気を取られて背後に来たさっきの
扉の奥の仕掛け人に気付かなかった。

耳元で邪魔、と言ったそいつは
オレに蹴りを入れて来た。

(やっぱり剣は正解だ!)
剣を盾のように構えてガードした。

壁の人は、と振り向くとすぐ後ろに来ていた。
次の瞬間、俺は闇の中に居た。
『闇は光でしか消えない…よ』
ぼんやりそう聞こえて、俺は気絶した。


「残念でした〜またのご来場を
お待ちしております〜」
気付くと入り口で倒れていた。
気絶は報告通りだが仕掛け人が
攻撃してくるのか普通…?

「いやきっとオレだけだ、
あんな風に話しかけるのはオレくらいだから
仕掛け人からしたら疎ましく…」

…本当にそうか?
疎ましいから気絶させたのか?

話し合いができればそれが一番
良かったんだけどな…

敵意剥き出しだったようだし「邪魔」?
逆に言うセリフじゃないよな…

あと、
『闇は光でしか消えない』
どういう意味だ?
そういえば扉の奥にいたやつが
『迷宮は闇』と言っていた…

…仮説だが、
このアトラクション=迷宮 は
闇で作られていて、
その闇に光を当てると消える…

いや飛躍し過ぎか、これは現実だぞ?
そもそも光を当てるって何だ。
懐中電灯を選ぶべきなのか?
分からない…

ただ俺はアトラクションの中の仕掛け人からは
敵意を持たれてしまったようだ。
本部には戻れない。
尾けられでもしたらマズい。

「オレだけでやるしかないか…」

ーーとりあえず昼食を近くで食べて、
またアトラクションに戻って来た。
今日中に解決しなくては。

「いってらっしゃいませ〜」

今度は懐中電灯をえらんだ。
もし光しか効かないならコレしかない。
殴れば打撃にもなるし…

「よ〜し」
来やがれ異変!

20分後〜

…さすがに疲れてきた。
細かい異変はスルーして早歩きし続けているから
当然だが…

「大きい異変が来ない…」

そもそもこれはフィクションではないから
現実離れした演出はないハズだ。
大抵ポスターとか看板が変わってる。
あとは床とか…いちいち覚えちゃいないけど
手間取りたくはない。

「また仕掛け人が来てくれれば…?」

おかしい。おじさんがデカい。
というか身長が高い。
え?別の仕掛け人ってことか?

「気味悪…」
さすがに引き返した。
すれ違いたくない。

(あっ、話しかければ良かったかも
いつもの違う人なら喋るかもしれないし)

と、足を止め、背の高いおじさんの元へ戻る。

「すみません、調査員の者です。
このアトラクションで奇妙な…」

おじさんの目の色が変わる。
「うらららにいけけけけけけ」

「なっ…」
落とし穴!?

「いってえ…」
ここはどこだ?暗い…
かすかに上から光は差してる。

「裏に行け…?」
…って言ってたのか、さっきのは。
それにしても尻が痛い。固い床に打ち付けられた。

「…上には戻れそうにないな」
どこなんだここは。
気絶以外にもルートがあるのか?

ライトを点けよう。
カチッ、とライトを点けた。
床はある。
だが…壁らしいものがない。
ライトで照らせる範囲には壁が無いのか?

(ええええ…)
詰んだ?

『その光じゃダメだ…よ』
また声が聞こえた。誰なんだ?

『送る』
《ガインっ》(!!)
強い衝撃を頭に受け、また気絶した。


………

「またかよ…」
アトラクションを後にし、
ぐったりして歩く。

長い間気絶していたせいでもう夕方だ。
「くっそ〜…」

今日中に解決しなきゃいけないのに…!

またラーメンでも食べるか…
その後また攻略だ。

〜〜〜

3度目の正直…!

「いってらっしゃいませ〜」

今度はカギを選んだ。
もう待ってられない。
ソッコーでドア開けて裏ルートをクリアしよう。

入ってすぐ右のドア。カギはささらない。
次のドアもささらない。
ヤバい。3つめはーー
(開いた…!!)
開いてくれた。仕掛け人もいない。

おっと、不用意に入ると気絶する。
身ひとつで入るのは危険だ。
でも武器になりそうなものなんて…

(うーん…)
おじさんから何か奪う?
ポスターをはがして持っていく?
あぁ、おじさんが行ってしまう。
でも声をかけたら何をされるか…

ふとあの時、
「おじさんの目の色が変わった」のを
思い出した。
目を塞いでみるか?

近くにあったポスターをむしり取り、
おじさんの顔に貼った。
その瞬間おじさんの手からスマホを奪い、
扉をくぐった。

《ダン!!》
よーし着地できた。
さすがにおじさんは追ってこない。

暗いがスマホでなんとか照らして…
(あっ)
スマホ!ここって電波入るのか!?

見ると電波が入っている印、
3本線が立っている。
通信できる!!

幸いロックもかかっていない。
すぐ本部に通話をかける。

「もしもし?」
応答がない。
「甘かったか…」
プツッ。
「はいこちら調査隊本部」

「あっもしもし!俺です!
8番出口の調査してるんですが…」

「進展あったか?」

「扉の向こうに暗い空間を発見しました。
気絶させられる前にどうにかしたいんですが」

「なるほど。なにか手がかりは?」

「仕掛け人達が『闇は光でしか消えない』
とか『迷宮は闇』とか意味の分からないことを…」

「確かに意味不だな。ライトは無いのか?」

「それが懐中電灯で照らしても壁が見当たらず
迷って…気絶させられました」

「待て、気絶『させられた』?
フッと気を失ったんじゃないのか?」

「攻撃されるんですよ。
衝撃と共に気絶します。
もうこのアトラクション3回めなんで
そろそろ帰りた…」

「誰と喋ってる?」
通話先ではなく背後からの声。
またか。

「いちかばちか…!」
スマホの懐中電灯機能をオンにして
声のする方に向けた。

「…!」
ひるんではくれたが消えるわけではない。
どうすりゃ消えるんだ?

その時スマホの通話口から、
「「光」」とハッキリした声が流れた。

するとひるんでいたヤツがうめき声を上げて…
消えた。
同時に周りの暗闇が晴れた。

いつの間にかさっきまでの
見慣れた地下通路に立っている。

「あれ??」
おじさんから奪ったスマホがない。
落としたか?

ーーーと壁を見ると…

「あなたは闇を克服しました。
この度は、この迷宮を消していただき
誠にありがとうございました。」
…と書かれている。

「…え?」
どういうことだ?
通路はまだあるぞ?
気絶もしてないし…

(…とりあえず進むしかない)

何度も通った曲がり角を曲がると、、
(…あれ?)

そこには複数の人がいた。
通路の構造は同じだ。
でもあのおじさんだけだった通路が賑わっている。

(どういうことだ)
とりあえず進まなくては。
スタッフが来たのか?
営業が終わったのか?

(出口…あれか?)
階段がある。やっと出れる!!
…でも、
壁の表示は「9番出口」。
「…え?うわっ」

勢いで外に出てしまった。
…なんだ?ゴールじゃないのかここ?
出口で迎えてくれるはずの
スタッフがいない。

本部に連絡しようにも、
入り口で持ち物を預けたからスマホもない。

(入り口まで地上歩くのもだるいな…
本部に戻っちゃおう)

預けたものはまた明日取りに行こう。
もう疲れた。
そして本部へ戻ると、

「おつかれー、どうだった?」
と暗闇で通話していた仲間が声を掛けてきた。

「いやあ大変でした。
ていうか「光」って言ってくれて
助かりましたよホント。
光じゃないと闇は消えないって
そういう事だったんすねー」

「はあ?お前何言ってんだ?
お前出張で隣の県行ってきたとこだろ?
みやげ買ったか?」

「…何言ってるんすか
オレは8番出口の調査行ったんすよ」

「なんだそれ?何出口?
寝ぼけてないでみやげくれよ。
まんじゅうくらいあんだろ?」

「…ええ???」

詳しく聞いたところ、
「8番出口」というアトラクション自体が
存在しない。
オレは他県に出張していたことになっていた。

…何が起きてるんだ?

「この迷宮を消していただき
誠にありがとうございました」
最後に読んだ文章がよぎる。

オレが迷宮を消したって事か、
この世から。

…ていうかヒント少な過ぎだろ、
光で消えるってだけならまだしも
暗闇にアイテム持ってかないと危ないし
懐中電灯効かないし

おじさんから奪ったスマホじゃないと
攻略できない通路だった…
いやオレが「光」って言うだけで効いたのか?
そうとは思えない…

まあ疲れで考えるのも面倒くさくなり、
仲間との会話もそこそこに
オレは家に帰った。

「あー貴重品全部アトラクションに
預けたままだ…終わった」

アトラクションごと消えたのなら
貴重品は戻ってこないだろう。

ボーッとしながら思った。
「光」って言ってくれたの
通話相手の声だったのか?
声の高さが違ってたかも…

(…ダメだおやすみ)
疲れのあまりオレは眠りに落ちた。


その数年後、
この世で「8番出口」というゲームが
流行ることになるのも知らずにーーー。


    終わり

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