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フィットボクシングと私

フィットボクシングと私 Part.1 〜開始から10日
フィットボクシングと私 Part.2 〜開始から1ヶ月

昨年のクリスマスに任天堂の家庭用ゲーム機switch(スイッチ)が子供へのプレゼントとして届いて以来、我が家の和室に置かれたテレビ横にはswitchの本体ソフトとリモコンが鎮座している。昼には子供がゲームをするスペースとしての役目のみだったテレビ前だが、子供が寝静まってから私も電源を入れて十五分から二十分程度ゲームをするようになった。そのゲームの名前が「フィットボクシング」である。
 まずはゲーム機本体であるswitchとゲームソフトであるフィットボクシングについて、ざっくりと説明したい。持ち運びができるポータブルな液晶画面を備えているswitchは、側面それぞれについているリモコン二つを取り外せるのが利点である。リモコンを取り外す事によって、あたかもテレビに接続して遊ぶ大型ゲーム機のように遊ぶことができる。次にフィットボクシングだが、これは取り外したリモコンを左右の手に握りしめてリズムに合わせてパンチを打つ事によって、動きを感知し、スコアに反映される、という至ってシンプルなゲームである。タイミング良く打てば画面の中のトレーナーが褒めてくれるというオマケもついてくる。噂のイケメントレーナーを選んでみたが、どうにも照れてしまうのでとりあえず若い女の子のトレーナーを選択した。家から出てジムに行きイケメントレーナーと会う、そういう精神的負荷が無いところもゲームの良いところである。
 ゲームのシステムはそんな所であるが、いざやってみると鈍った体にはなかなかの負荷がかかる。初日はただパンチを繰り出すだけだったのが続けてみればスクワットやねじりにひねりの動作も追加され、次の日にはあちこち筋肉痛になっている。泣き言を言いながら痩せたい一心で続けて一週間、私の体に劇的な変化が起きた。といってもウエストがシェイプされたりバストがアップされたり体重計の数字がドーンと減ったりしたわけでは無い。なんと肩こりがなくなったのだ。よく考えればひたすら腕を振り回す動きを毎日続けていれば肩こりがなくなるのは当たり前である。二日に一回は肩こり由来の頭痛も発生していたのだが、肩こりが解消された結果、当然ながら頭痛薬のお世話になることも劇的に減った。ワクチンの副反応に対応するためにアセトアミノフェン配合の鎮痛薬が薬局から消えた今、この副次的効果はとてもありがたい。
 さて意外な副次的効果を実感しながらひたすら腕を振り回しているうちに十日が経った。残念ながら目に見えるほどの効果は出ていない。十月一日から始め、スポーツの日とされていた十月十一日まで連続ログインしているのだから、三日坊主はとりあえず免れた筈だ。このお題で書くからには、これから三週間坊主、三ヶ月坊主とならないよう「まだやってる?」と言われた時に「やってます!」と返せるよう毎日頑張らないといけない。願わくば次の集いの日まで続けているように、そして主目的であった筈のダイエットの効果も出ているように、お読みの方は私にちょっぴり圧をかけていただけますよう宜しくお願いする次第である。


 part2

 宣言した通り、なんとか三日坊主は免れるよう自らにプレッシャーをかけつつダイニングのテーブルにゲーム機を立て掛け、ゲームのコントローラーを握りしめて、一日15分程度の運動を続けている。今の所30日連続でアクセスしていて、パンチの累計数は2万発になった。続けられると実感すればしめたもので、せっかくだからゲーム専用に指サックのついたグリップを買おうか、床が滑るからゲーム用に滑り止めのついた上履きかルームシューズ、はたまたヨガマットでも買おうかと算段をしてみたりもする。すぐ何かと形から入るなぁ、などと家族に呆れられもするが、気持ちの入れ込みは大事である。某元都知事だって書道をするのに、肩が回って筆運びがスムーズになるという理由で中国服を購入していたではないか。弘法は筆を選ばずというが、その道のプロでない以上道具は選んだ方がいいだろう。

 続けてみて少しだけ分かってきたのは、私は運動というものが嫌いなのではなく、運動に付随する団体行動が嫌いなのだということであった。運動をする為に多少なりとも外見を整えて、決められた時間に間に合うように家を出て、同じジムに通う顔見知りの人やトレーナーさんに挨拶をして、へっぴり腰でも気合が入りすぎでもなく見られて恥ずかしくない程度に身体を動かし、また世間話を交えながら身なりを整えて、時にランチなども挟み、下校の時間に間に合うよう家に帰る、という一連の動作を想像するとどうしてもハードルが上がってしまい気が滅入る一方、ゲームであれば着の身着のまま、いっそのことパジャマのままでも始められる。時間も朝起きて少しだけ、日中時間が空いたので、夜お風呂に入る前にひと汗かこうか、子供が寝ついてから、寝る前に身体をほぐしておこう、など幾らでも融通をきかせられる。ハードルを下げる事が出来れば、意外にも身体を動かすのは苦でなく楽しいのだ、と思う事ができた。これは自分にとってかなりの新発見であった。

 そういった自分の内に秘めた、運動に対する欲目からくる引け目や負い目やはひとまずさておくとして、そういった欲のまだない子供は幼稚園と小学校の運動会に向けて校庭で日々練習を重ねていた。コロナの第五波も収束に向かいつつあった10月10日、夏日のような気温の日が続く中で運動会が行われた。観覧席側の保護者は検温とマスクを着用するよう呼びかけがあり、暑い中半袖を着ていてもここまできて感染爆発を引き起こしてなるものかと皆マスクをきちんと付けていた。園児が懸命に踊ったり、小学生が競って玉入れの玉を投げる様子を、時間短縮された午前中いっぱい応援したりデジカメで写真を撮ったりした。運動会が無事終わってメダルをしげしげと眺める園児や、景品の縄跳びで遊ぶ小学生を横目に、運動会(運動と団体行動)も、時々なら良いもんだなぁ、などと私らしからぬ感傷に浸ったりもした。

 翌朝、季節外れな肩周りの日焼けに気付く。日焼け止めを塗らなかった家族は顔が真っ赤だ。10月の太陽を甘くみたのが敗因だろう。やはり慣れない事はするものではない。そう心に刻みながら、今日も私はコントローラーを握りしめて、丹田に力を込め、ダイニングテーブルの前で虚空にパンチを放つのである。


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