【1$とカタチ】その9(最終回)「その身を削るは誰のため」
2020年になりましたね、立体造形作家の長野です。
長野家では新年早々に暖房が壊れました。
好き好んで30年も前の暖房を使っていたのが敗因。
寒さに震えるワタクシを尻目に、買ったばかりのDJミキサーも壊れました。
音楽が駄目ならゲームをしよう!と思ったのですが、PS2の電源が付きません。
形あるものはいずれ壊れる、色即是空、栄枯盛衰、巨乳
五分前から家の奥で妙な音を立て始めた洗濯機を尻目に、「そうだ、1ドル札をテーマにしなきゃ。」と寒い部屋で震えながら書き始めました。
今の僕に思いつくキーワードは一つしかありません。
「耐久性」について
「紙製品」である紙幣にとっての最大の敵とはなんだろうか?
水や炎、日光などがすぐに思いつくが、紙幣を最も痛ませるのは「磨耗」だ。
水や炎に関して言えば、紙幣がこれらに直面するのは主に災害や事故時であり、紙幣にとっては「非日常的」な事態だ。
また、インクを劣化させる日光に関しても、紙幣を紫外線に当て続けるような事態はそうそうないだろう。
財布やレジスター内、そして人の手などとの接触こそが紙幣のとっての「日常」といえる。
どんなに平らに見えるものでも、ミクロの視点では凹凸がある。
二つの面が接触する際、互いの凹凸同士が噛み合う。
そしてこの二つの面が別方向へ横向きに移動するとき、噛み合った凹凸は互いを削り取る。
これが「磨耗」の原理だ。
そして磨耗の程度は、二つの面を押し付ける力の強さに比例する。
強い力で押し付けあえば、互いの凹凸はよりしっかりと噛み合い、移動時に削り取る量も増える。
歩くときにポケットに入れた財布。その中で紙幣は常に財布の内側と擦れ合い続けている。
そこから抜き出すとき、財布の内部、さらに指紋と触れる。
そしてレジ内部では、下の紙幣とまた擦れ合う。
紙幣は「紙製品」である。
磨耗を繰り返すうちに、表面の繊維がほつれ始め、ささくれ立ったようになる。
さらにほつれた繊維がちぎれ、抜け落ち始めるにつれて、染み込んだインクが奪われ始める。
そうして磨耗を重ねていくにつれ、紙幣の厚みにムラが出始める。
やがて、繊維の量が互いの摩擦でつなぎ止められる最低量を下回ると、そこから破れていく。
こうして紙幣は寿命を迎える。
アメリカ造幣局のウェブサイトによると、一ドル札の平均寿命は5.8年だそう。
国中のあらゆる場所を飛び回り、さまざまな人、物の間を行き来して5.8年。
銀行、商店、街頭。世界中の場所で今この瞬間も、その身をすり減らしながらも紙幣は自身の日常を過ごしている。
自らが作られた銀行で回収されるまで。
追記:
先ほどからノートパソコンが再起動を繰り返しています。涙が出てきました。
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