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「かわいい」が苦くてたまらなかったころの話。

私に最初にコーヒーを飲むことをすすめたのは、細くて折れそうなぐらい華奢でかわいい女の子だった。

私の記憶に残る彼女はいつもフレッシュネスバーガーのお洒落な緑の映えるカップを手にしていた。決まって中身はブラックコーヒー。カフェインを取らないと眠くなるからって言っていたような気がする。

マックとかモスとかじゃなくて珍しかったから、鮮明に覚えている。それから今はもう廃盤になってしまった「ラップサンド」的な小さくて低カロリーな感じのものを昼休み中かけてゆっくりゆっくり小さな口で咀嚼していた。

私は昔からコーヒー牛乳すら飲めないぐらい、コーヒーの苦さがとにかく嫌いでたまらなかった。小学生の頃人気メニューの一つと知っていても、私はいつも決まって残していた。別にそれでいいと思っていたし、無理して克服する必要もないと思っていた。親も周囲も特に咎めることはなかった。

「ましろちゃんって、コーヒー飲めないんだ。意外と子供っぽいね」

彼女は今思えばすごく皮肉屋で、直球の物言いを少しくるんだような挑発を繰り返していた。

だって、自分の大親友だった女の子と付き合って1週間で捨てる女の子だから。いつだって刺激的な人。シナモンの香りがする。休日に蛙みたいな黄緑のワンピースと朱色のベレー帽を組み合わせて、編み上げのブーツを履いてしまうようなセンスがあって。そんな性格でも、とてつもなくかわいらしくて、独自のファッション性があって、まあるくて綺麗な字を書く人だった。

私はどうにも鈍くて頓珍漢だから、「そうか、コーヒーを飲めた方がいいのか」と純粋に信じ込んでいた。外見にそぐうような中身になるべきだみたいなことも言われた気がする。年上に見られがちな私はなるほどと思って、努力をしたのだ。結局その時砂糖を入れてもミルクを入れても、コーヒーは苦くて飲めずじまいだった。

「ましろちゃんに「かわいい」は似合わないよ」

誰からもかわいいといわれるような女の子に言われた言葉はすごく印象に残っている。私の中にそうだろうなあという落胆と諦めと、ボーイッシュな方が似合うという悪魔みたいな囁きを残した。

今の私が聞けばうるさいと一蹴出来るような言葉も受け止めるしかなかった。自分の造形を考えてもかわいいよりかっこいいが似合うのは真理なのだけれども、あなたに言われる筋合いはなかったなと今ならば少しだけ思う。「かわいい」は私には苦すぎて、飲み込むことが出来なかった。

そうやって彼女にどっぷり染まった季節をいくつか過ごした。

少しは英語が出来るようになったのは多分彼女のおかげだし、ためらいもなくショートカットに出来たのもきっと彼女の影響だと思う。

彼女は恋愛体質でいつも誰かと付き合っていたし、私は私で別に特別な存在もいたから関係が変わることはなかったのだけれど、友人というには収まりのつかないような歪な、異性の友達みたいな気持ちがしていた。私のジェンダーも迷走を重ねていたから、「あれが女の子なら、私は何者なんだ?」という気持ちにもたびたびおそわれた。

彼女との終わりは本当に呆気無かった。

彼女が海外生活をする中で我が儘とマイペースに拍車をかけたから、私がそれに合わせられなくなった。メールで大喧嘩した。何とか収束はしたけれど彼女が帰国してからはまるで他人みたいに、時々必要なことを話すぐらいの間柄になったまま卒業してしまった。

一年ぐらい前に地元の駅でばったりと会ったのだけれど、お互い目では気づいていながらも何も言葉を交わさなかった。

私は数年前ブラックコーヒーが飲めるようになりました。あなたは今もコーヒーはブラックですか?





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