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おまえはいつも重そうな鎌を抱えている

数ヶ月に一度会うか合わないかという友人がいる。

その友人はなんとも嫌なやつで,でもどこか愛嬌があって憎みきれないので今まで決別もできずに生きてきた。

ここ最近はめっきり顔を合わせることもなくなって旅にでも出ていたのだろうとばかり思っていた。

ふらりと見せた姿があまりにも変わらない姿でいるものだから,理由もなく泣きたくなってしまった。

そのくたびれた靴も,色褪せたコートも新しいものに変えることはしないのだろう。

喉が窮屈になって,視界の端が歪んだ。

その友人は嫌なやつなのだけれど,もうずっと一緒にいたものだから,こちらのことをよくわかっていてそこが恐ろしくも心地いい。

一緒にいる時の妙な緊張感が惰性で続く日々から解放してくれる。

とはいえこちらも生活というものがあって,明日の献立だってもう決まってしまっているから,大抵少し邪険に扱ってしまう。

そういう時にはいつも今度こそ,今度こそは友人と一緒に旅に出ようと思うのだけれど,こちらが決心する前にまたふらりといなくなってしまう。

次に会う時はいつだろうか,来週には会えるだろうか。

おまえに会うたびに揺らぐ生活の決心が,今にも悲鳴をあげて谷底に落ちようとしている。

だからお願いだからもう来ないでおくれ。

最期には必ず決心を固めておくから。

おまえの目を見つめて,そこに安寧を見出せると誓う。

だからそれまでは,もう私の家の扉を叩かないでおくれ。



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