なにものでもない

どこの世界。 どこの時代。 どこの国で生きた人だったか。 きっと誰も分からない。…

なにものでもない

どこの世界。 どこの時代。 どこの国で生きた人だったか。 きっと誰も分からない。 いつかは全ての人が忘れてしまう人のいつかは全ての人が忘れてしまう噺をする存在。

最近の記事

#2

『またこりゃあ、派手にやったなぁ…。』 『派手にやったのは私じゃないわ。』 つい先日、奥座敷の畳に苔カーペットが出来てしまい、畳の交換のために家主は常日頃から住んでいる古民家の修繕やちょっとした手入れを頼んでいる青年を呼び出した。 またですか、と家主からの電話を受け取った青年はそれでも次には訪問する時間を確保しようと自分の予定を確認してくれている。 出会った当初から思っていたのだが、根が真面目で勤勉なのだ。 『出来れば早い方がいいですよねぇ』 『そうね、その方が助かるわ。ど

    • #1 雨宿り

      『…あら、雨?』 いつの間に降っていたのか。 読み耽っていた本の世界から連れ戻したのは微かに屋根から伝わる雨の気配。 今日は朝から空は鉛色で、空気も止まってしまったかのように風がなかった。 いつ空が泣いてもおかしくないような日ではあったけど。 読んでいた本をテーブルに置き、すっかり冷めてしまったコーヒーを口に含む。本を読んでいた姿勢で固まっていた首筋は生物の滑らかさをすっかり忘れてしまったようだった。 そんな中で口に含んだコーヒーはいつもよりも苦味を増して感じて早々に喉に押し