翠の箱庭

「いつ来てもほんと凄いですね、ここ」
 助手が辺りを見回し、感嘆の声を漏らす。
「これが人工の空間だなんて」
「そうだな」
 彼はおざなりに返事をし、足元に置いたケージの扉を開けた。
 暫く待つと、掌に乗る程の小さな竜が顔を覗かせる。
「このコも売約済みですっけ」
「ああ」
 羽音を響かせ飛び去る姿を見送り、彼は深く息をついた。

 採集数は国よって厳密に管理されており、ピクシー達はこの温室で一生を過ごした後、標本か剥製となる。殆どは研究機関行きだが、一握りは高額で売買され、温室の管理費に充てられた。

「良いんですか? 前回の個体、生体販売だったって…」
 彼は竜の飛び去った方向を見やったまま言った。
「ここの管理者の、鶴の一声さ」


--------------------
Twitter300字ss  第86回  お題「買う」   ジャンル「オリジナル」
--------------------

Twitter300字ss企画内にて今年いっぱいの連作延長戦、竜の棲む世界を舞台にしたシリーズ7作目です。よろしければ次回もお楽しみに(´-`)

【前のお話:紙飛行機】
https://note.com/1_ten_5/n/nb292fe1f0c63