読書ノート 「これからどうする」 岩波書店編集部編
東北大震災を受け、岩波書店百周年を記念して、各学会識者228人に「これからどうする」を命題に小文を取り纏めた本。新宮一成が寄稿しているのを見つけて読むことに。他に柄谷行人、緒方貞子、加藤典洋、内田樹、上野千鶴子、養老孟司、大澤真幸、長谷部恭男、若松英輔、原武史、姜尚中、水野和夫などが文章を寄せている。
はじめの動機を大事にし、新宮一成の文章を紹介する。
フロイトがナルシシズムの状態として「メランコリーすなわち鬱病と、睡眠」のふたつをあげる。そして睡眠について、以下のように綴る。
「自分と他人の無垢性を確認する、自分自身への配慮をする、そのことに向けて、もう一つのナルシシズム状態、すなわち睡眠によって道がつけられる。睡眠に入るとき、私たちはあらゆる道具類を脱ぎ捨てて自分の上に丸まる。
…フロイトが夢の世界に入ってみると、自分の下半身を取り出して解剖するという使命が課せられていた。それが終わって歩き続けると、小屋に入る。これはイタリアで見たローマ以前のエトルリア時代の墓に由来していた。小屋の中から窓が開いていて、そこから断崖の谷間を越えてゆくことになった。谷に二枚の板を渡すことになっていたが、二人の子どもたちが板の代わりをするのだとわかり、驚愕して目が覚めた。覚醒の際に浮かんでいたのは、人がやり残したことを子どもたちがやるのだろうという観念であった」
「ナルシシズムは自分自身への配慮であるが、人が自分を配慮して自分の奥へとはいってみると、そこに突然、次世代への橋の架かる断崖が現れる。人は、何もできなくなりそのために自分自身の中に籠もって夢を見るしかなくなったとき、こうして自分が墓の中へと消去されて次世代へと受け継がれる場所へと逆に開かれる。即物的に言えば、人はここで子どもを作るだろう。無垢性は、性の罪業を通り抜けて、むしろ次世代の命によって実現される。敗戦後のように、震災後も人は子どもをたくさん作るだろう。ついでながらそれは、驚愕するようなことだ。
それでは、自分自身のこの身体を、ひとはこれからどうするのであろうか」
答えは、あまり明確ではない。日本人というところを出発点に考えるならば、日本人の思考であろうアミニズムに則り、その思考を磨き上げることで自然を、災害を乗り越えるため、ひとはこれからも自分の身体=言葉を消尽しつづけると、少し離れた立ち位置から新宮は語り、結ぶ。
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