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読書ノート 「無限角形 1001の砂漠の断章」 コラム・マッキャン 栩木 玲子訳

『世界を回せ』で全米図書賞を受賞したアイルランド人作家による、中東和平へとつながる感動の物語。
 バッサムはパレスチナ人。ラミはイスラエル人。二人の住む世界は隔絶していた。だが、バッサムの娘がゴム弾の犠牲になり、ラミの娘が自殺テロに巻き込まれて亡くなったとき、二人の男の人生が交錯し始める――。実話に基づいて描かれる中東和平版千夜一夜物語                    (早川書房HP)


 断章にナンバーが振られ、「1」から始まり、「500」まで行く。その後に「1001」が突如現れ、その後に「500」からカウントダウンされ、最後は「1」になり、終わる。二つのナンバー「500」は、二人の父親のモノローグである。このモノローグは彼ら二人が2016年にイスラエル西岸地区にあるクレミザン修道院で行った講演である。


 心打つ、ラミの講演

 「(エルサレムで開かれた遺族者の会で)私は当時四七、八歳でしたけどまずは自分自身が認めるところから始めなければなリませんでした…実は人としてのパレスチナ人にあったのはこのときが初めてでした。
 
 通りで見かける労働者や新聞での風刺漫画や透明な存在やテロリストや物としてではなく─どう言えばいいんでしょう─人間として─人間としてって、ひどい言い方ですよね、こんなふうに自分が言っていること自体、信じられません。でも本当に初めて気づいたんです。─そう、彼らは私が背負っているのと同じ重荷を背負い、私が苦しんでいるのと同じように苦しんでいる人間なんだと。…

 …黙っているのがいいと考える人がいます。一方で、恐怖に基づく憎しみの種をまく人々もいます。
 恐怖は金を生みます。法律を生み、土地を奪い、入植地を作ります。そして恐怖は人を黙らせたがる。
 ええ、認めましょう、イスラエルは恐怖の扱いがとてもうまい。私達は恐怖に占領されています。政治家は私たちを怖がらせるのが好きだし、私たちも互いを怖がらせるのが好きです。
 セキュリティという言葉を使って私たちは他者を黙らせます。でもそれはおかしいんです。他の人の人生や土地や考えを占領すること、それが目的なんですから。 
すべてはコントロールの問題で、それは権力に繋がります。私はかなりの衝撃とともにこの事に気づきました。権力に反抗して真実を語るという考えに嘘はありません。権力はすでに真実を知っています。でも権力は真実を隠そうとするんです。だから権力に対して声をあげる必要がある。

 …じゃあどうすればいい?
 隣り合って生きる可能性を拒否し続けることはできません。みんな仲良く、なんて今更言うつもりはありません。歯が浮くような、現実味のないお伽噺みたいなことも言いません。
 ただ私が言いたいのは、仲良くできるのならそうさせてあげようよ、ってことなんです。…こんな耐え難い痛みを、これ以上誰にも経験してほしくない、そのために自分は何ができるか?その時から今日まで、私は自分の時間と自分の人生を、こうしてみなさんに話すことに捧げました。
 聞いてくれてもくれなくても、とにかく誰にでも話します。どこへでも行きます。私が言いたいことはとても基本的でとてもシンプルです。私たちは破滅する運命にあるわけでじゃない。ただ私たちは、私たちを黙らせようとする力に打ち克たなければなりません」


 断章は短いセンテンス、写真やイラストもあり、そのすべてがパレスチナとイスラエルの現実を映し出す。全体として世界は一つであることを、一冊の本という限界のなかでまとめること、これは超越者の仕事でもあるのだが、一単子の仕事でもある。最後には感動が来るはずであろうことが予測できるのは、その作りによる。このような世界を提示したい。

 無限角形とは、限りなく円に近い多角形のこと。
 APEIROGON(アペイゴロン)。

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