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おもてなしの花

画像は帝国ホテルのロビー装花です。
いつもシンプルで品があって素敵ですよね。

私も以前とあるホテルで
館内装花を担当していた時期がありました。

定期装花や婚礼装花、パーティ装花や花束。
宿泊インセンティブのBOXフラワーや
館内季節装飾などなど
一年を通じて様々な提案・施工を
行ってきました。

色々な装花を作ってきましたが
そのホテルで私が一番大事にしてた花は
ロビー装花でした。

ホテル利用者全員が必ず通るロビー中央に
大きく重厚な専用テーブルが置かれており
その中央にドンッとロビー装花。
器も合わせると装花の高さは3M程。
ホテルの顔ともいえる装花です。

地方といえど100万都市の
駅チカのホテルですので
やっぱりココは大事にしたいなと。

ノルマを果たすだけの花

かつてはどんなホテルも
館内の装花装飾にこだわっており
ロビーには華やかで季節感豊かな装花が
置かれていましたが
年々求められるものが変わってきました。
一番多くなったのは予算への要望。

広く天井高も高いロビーを彩るには
大型の装花が必要ですので
当然施工単価も高くなります。
その為、ホテル経営を見直す際には
ロビー装花は予算を削られ易く
ドンドンと小型化~消滅していきました。

結構歴史のあるそのホテルに
店長として赴任した時も
ちょうどロビー装花の予算を見直しており
ほぼ半減という大幅な予算圧縮で
契約更新をした直後でした。

花は長い方が高価です。
大きな器のロビー装花には
長く高価な花が大量に必要です。

その為
短い花を使えるように
低く小さめの器に変更して
婚礼などの余剰の花も活用して
なんとか形にするのが精一杯です。
季節感など無視無視。

そうやって飾られるのは
週一回生花を飾るという
ノルマを果たすだけの花でした。
飾っても存在感のない風景の一部。

ホスピタリティの具現化

そもそもロビー装花の役割は?というと
ホテルという非日常の場の
雰囲気作りの一歩目であり
おもてなしの体現です。

その為、ありきたりの花ではなく
季節感や華やかさ、香りやデザイン性など
そのホテルらしさを表現する装花が
求められます。

そんなロビー装花が
ノルマをこなすだけの花で
良いわけがありません。

デザインや施工力には自信はありますし
それだけの花材を調達できる
仕入ルートもあります。
足りないのは予算だけ。
そう思い、予算増額を交渉しましたが
結果、ホテルの回答はNOでした。

好きにやらせてもらおう

仕方がないので覚悟を決めて
総支配人にこう伝えました。

増額は諦めます。
その代わりお願いが2つあります。
1つはこれ以上予算は削らないでください。
もう一つは自由に作らせてもらいます。

今の予算で色々言われても無理です。
なのでホテルは要望を捨ててください
私は予算諦めます。

約束してくださるなら
私の思うこのホテルに相応しい
おもてなしの花を365日維持します。
いかがですか?

これは喜んで了承頂けました。

予算より大事と思ったモノ

それからは市場に毎朝行って
飾る花を直接見て仕入れてきては
思いのまま自由に作っていました。

予算の都合上、週一回の交換が
なんとなくのルールになってましたが
日にちに囚われず、痛む前に交換し
美しい状態をキープしました。
結果仕入額は4倍くらいに膨れ
当然赤字が続いていましたが
楽しく作ってました。

おかげさまでロビー装花は
ホテル内外から高く評価されました。
まぁ、当然ですよね。
季節の美しい花を
好きなだけ飾れる訳ですから。

しかしそうやって、
在るべきところに在るべき花があると
自然とコミュニケーションが深まります。

毎回次はなんだろうか?
と、楽しみにしているフロントスタッフ。
お客様が誉めてましたよー、と
駆け寄って訓えてくれるドアマン。
みんな当然笑顔ですよね。

我々もロビー中央で、活け替えまでので
直接お話も沢山しました。
毎週の花を楽しみにされたり
時には次回のリクエストを頂いたりしながら
ホテルのファン作りの一端をも担えました。

結果、館内の装花用途や
一般の方からのギフト依頼などが増え
ロビー装花の赤字を
補填する程度まで売り上げも増え
ロビー装花は赤字でしたが
店舗の売上とホテルのファンは増えました。

自信のないモノは誰も売りたくない

店長でしたので
ある程度予算の自由はありましたが
最終的に売上を増やすために
どういうモノを提供するのが良いのか?
その答えの一つが
自社サービスに自身が持てる装花であり
その具体例がロビー装花でした。

自分の働いている所が一番だと
心から信じられないと
良い提案なんて出来ませんから。

提案の場合、予算ありきで
その予算内でデザインを起こしたり、
またはお客様のサイフを探りながら
提案したりとなりがちです。

特に大きな装花は予算も大きい為
恐る恐る提案した結果
チマチマした塊になりがちですが
空間を支配する特性がある以上
装花にはその場所に
相応しいサイズ感があります。

例えばススキなどは、広いロビーでは
10本挿しても地味でさみしいだけですが
300本位挿せば、まるで秋の野山の如く
深まりゆく季節を感じてもらえます。

商品が求められている理由

どんな仕事でも長らく専業でやっていると
お客様目線とか
商品へのこだわりとか言いながらも
予算や慣習に引っ張られ
知らず知らずにズレる事が多々ありますが
求められている役割を確認し
相応しい装花を施工する必要があります。

ニーズに沿ったものは売れるので
その時代の正解と捉えられがちですが
曲げてはいけない信念を合わせ持ち
プロとして一般のニーズと
戦わねばならないシーンもあります。

お客様の要望はお客様が知ってる
情報の中の事しか言いませんので
それが正しいとは限らないと言うことです。
特に予算はくっきり明確な希望として
提示されるますが
それが正しいことは少ないです。

提案は下から積み上げるよりも
上から夢を描いたほうが楽しいですよね。


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