わたしはきみじゃないから

わたしはきみじゃないから、きみの全部はわからない。
わたしはきみじゃないから、きみをきみより大事にできない。
わたしはきみじゃないから。きみはわたしじゃないから。
別々にからだとこころを動かしふるわせ生きてきた、ひとりとひとり。他人と他人。

わたしときみは同じじゃないから、だからこそ抱きしめ合うことができた。
手をつなぐこともできたし、手をはなすことも自由で。
恐ろしいことに、その気になってしまえばきみの手でわたしの喉を掴むことも不可能じゃないのに、(それはわたしの手にも言えることなのに、)それでもただずっと手をつないでいた。

手をはなしたのは、それが今の正解だから。
わたしはきみじゃないことを、わたしもきみも思い出したから。
きみの全部はわからない、どころかきみの全部がわからなくなりかけていて。
きみをきみより、どころかだれより大事にできないわたしが完成しかけていて。
恐ろしいこと、を実行する気は全然ないけれど、それに近いことを知らず知らずきみにしてしまいそうで、してしまっていたようで。
わたしもきみから、されてしまいそうで、されてしまっていたようで。


わたしはきみじゃないから。きみはわたしじゃないから。
わたしはわたしだから、わたしをきみよりわかっているの。
きみはきみだから、きみをわたしより大事にできるよ。

なによりもだれよりも自分自身をいちばんに思うべきだっていう、簡単で単純なこと。とても寂しいことを。
ひとり自分の右手と左手を胸の前で組んで、祈るような格好をして。
悲しいんだかほっとしてるんだか、なんだかなにもわかんない気持ちのままで、ここに告げるよ。


どうか、わたしもきみも、大丈夫になりますように。


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