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【五行知林の校正講座 初級編】〈ちりんvs.だいちりん〉②――「表記統一〈2〉」

「公開中の記事は見てくれた?」

※太字でここで引用します。

【関連記事:「校正ゲンバ回顧録⑥」――表記統一について① 

「今後のクオリティアップのために統一表記表を更新したいと思います。
統一表記として、これは追記しておいた方が良いと思われる言葉がありましたら、添付のエクセルに追記いただけないでしょうか」というメールに対しての返答

【2021年5月24日記録】

厳密に固定させてしまうと、その作業が煩雑になりがちなので、

いわゆる「一般表記」「辞典類の表記」「公用文書の表記」に近いかたちで、

「●」の表記を踏襲したほうが、作業負担は軽くなるのではと思います。

「良い」は「●」では使い分けされているケースもあったと思います。

共同ハンドブックなどでは、

「~してよい」「効率よく」「よく行く店」「行儀が善い」「都合が良い」「心地よい(広辞苑では心地好い)」「使い分けに迷うときはよい、いいなどと平仮名書き」など、高度な使い分けがあります。

それを「良い」とだけルール化した場合、習熟の度合いにより、使い分けができず、混在だけでなく一般表記としてあまりおすすめできないものになってしまうケースが皆無ではありません。

ほど良い×
程よい〇
共同p.428

公用文書表記をまず基本として「なぜひらくのか」「なぜとじるのか」「なぜその表記なのか」を説明できることと――初めてかかわる担当者が表記の理由を理解できることが――やりやすさにつながりますし、習熟につながると考えます。フィーリングやその担当者の好みだけで決めることは、担当が変わるたびに校正担当がそれ(その人の好みの表記、フィーリングによる判断、主観による表記統一)を覚える手間がかかりますし、「なぜこの表記に?」という疑問や疲労感につながる可能性があります。

「つくる」は作る造る創るつくるに使い分けがあり、その煩雑さを省くにはやりやすい方針にはなります(しかし、本来ある程度表記を使い分けられるばあいの方便でない限り習熟することは難しいでしょう)。
ただし、常用漢字表記なのに伴うや挟むをひらく場合、表外字でもないし、文字数も増えてしまうのに、どうしてなのかと疑問がわくのが「表記を知っている校正者」ではないかと考えます。

大手の出版社の校正部や校閲ではさまざまな基準を設けていますが、署名記事と一般記事、編集者の書く記事では表記基準は異なります。ざっくり言って芸術作品などの作家、芸術家の記事は場合によっては表記は誤記以外は原則著者原稿どおりということもあります。反対に、公用文書に準拠するような大学のテキストブックや各省庁、行政単位の印刷物は原則としていわゆる公用文の表記になっています。とはいえ、各担当の力量によるところがあります。


以下、「●」の過去カンプを見たときに気づいたポイントを羅列します。

◇西暦と年号の混在、年号(西暦)と西暦(年号)の混在。1973(昭和48)年、昭和48(1973)年、1973年(昭和48年)、昭和48年(1973年)などの表記の不統一。
◇漢字の字体で、特に常用漢字に出やすい異体字の扱い(謎、葛の各異体字)
◇漢字で表外字をルビなしで入れる入れない問題。パーレンルビと対字ルビ混在のケースなどについて(圃(ルビ:ほ)場など)
◇表外字の異体字(掴むと摑む、噛むと嚙む など)
◇ダブルミニュート(〝〟)とダブルコーテーションマーク(“”)の混在(欧文用と和文用の混在)
◇各省庁などの名称を初出から略称で出てきた場合どうするか(厚労省、経産省など)
◇カタカナ語表記の基準(スピーディー=ハンドブック表記、スピーディなど)
◇新聞略語集等にある略記の扱い(自治労、省エネ法、自賠責保険など)
◇外国名表記(ヨーロッパと欧州、アメリカ合衆国と米国など)
◇曜日に祝を追加しなくてよいか
◇現代仮名遣いになっていない表記(いたづら、うなづく、づつ など)
◇… …… ・・・ ‥ ‥‥などの混在
◇!と! !と!の後ろのアキの幅の混在(欧文用か和文用か)
◇誤用でかつ定着しかかっている表記の問題(ひと段落×一段落=いちだんらく など)
◇~をからと読ませるケース(5日~10日まで× 5日~10日に〇 5日から10日まで〇)
◇スラッシュの使い分けの混在問題(1/3=分数、5/27=日付、東京/大阪=和文の区切り、主に縦組の仕切り、/=改行をあらわす記号 ほか)
◇フリーダイヤルに🄬を入れる入れない
など

※漢字を採用すると使い分けが難しいもの
「はかる」
「よい」
「つくる」
「こえる」
「かえる」
「あらわす」
「つく」   など

※「追記ルール」として採用してもよいと考えるもの
方(敬称)
さらに(副詞)
位取りカンマ(1,500円)

※原稿担当者の表記で許容しているもの
内(形式名詞、例:〇〇〇、内12点が採用 など)

【おしまい】

©gogyou chirin 2023】




「ええ、見ました」
「どうだった?」
「言わんとしていることはわかった気がします」
「真面目で一生懸命な校正者ほど、駆け出しの時期に統一表記に悩むものだよ」
「先生も?」
「私も、表記統一の優先順位を上位にあげがちだったよ」
「そうですか」
「現場ではいわゆるクライアントの要望で表記統一をかなり細かく要求される仕事もあるのも事実だよ」
「先生の言うように振り回されてわけわかんなくなって、表記統一ばっかり気になったりもします」

「仕事のやり方はさまざまだけど、レイアウト的なチェックーー版面や字下げ、字送り、柱、フォントなどーーとか校閲的な検索とかを分けて通しで確認するやり方もあるよ。表記統一は表記統一だけを通しで確認する時間をとるのはどう?」
「なるほど」
「どんなできる人でも1回で完璧って人はいないと思うよ」
「やってみます」

「ちりんくんは、まだ若いせいかかなり堅苦しく考えがちだね」
「よく言われます。あまりよくないですよね」
「良い悪いは実はあまり深刻に考えないようにね。スペックとして自分の校正スキルを考えて、そういう特性があると考えたら気が楽にならない?」「そうですね」

「自分のスペックに合った校正のやり方をやりつつ、苦手なものも自分の特性に合ったやり方で克服していったら自信にもなるはずだよ」「なんか、少し気が楽になりました」

「表記統一で勘違いしてほしくないのは、例えばクライアントの表記統一が独特だったとしたら、必ず背景があるってことね」

「表記統一をしている理由があるってことですね?」
「そうだね。すぐ決めつけない。ジャッジしないってことね」
「根拠あったほうがやりやすいタイプなんで」
「ははは。そういうスペックをもつ脳のタイプなんだと理解していくことだね。さっきのめざすとかともなうとかはね、ある新聞社系列の人に時々いるよね」
「へえ」

「力量のある編集者のやり方だったかもしれないし、主観で決めてたかもしれない」
「主観はやめてほしいです」

「やんわりと表記統一の根拠や出典とかを教えてもらうとかできればいいね。やりやすくなるでしょ」
「そうですね。堅苦しくないように聞き出すってことですか?」

「かなり年上の担当と話すのは難しいかもしれないけどね。できるなら、表記統一の基準をハンドブックとか辞典類にしてもらうように伝えてみたらどう?」
「でもハンドブックを使いこなせてないですし、いちいち調べて覚えるのも面倒だという気持ちもあります」
「そうだよね。編集者でいやがる人もいるかもしれない。ちりんくんは振り回されたくないんだよね」
「はい」

「だったら、面倒だとか言ってないで、校正検定や漢検のために知識を学んだように身に付けるしかないよ」
「……」

「表記統一の難しさは、クライアントの担当者がどのくらい言葉に精通しているかとかでかわってくるし、その会社がどの辞典類を使っているかとか、さまざまな要素でもかわるよね。もっと言えば担当者がかわれば全部違うということもいえる」
「なんとなく見えてきました」

「自分の基準をもつこと。その基準を日々広げ変化に対応できる柔軟性をもつこと。あらゆる媒体をみて現場経験を通して対応できる可動域を広げるってことしかないね」
「自分の経験値や知識なんかがクライアントを満足してもらえるように広げてレベルアップし続けるってことですよね」
「そうだね。言葉では簡単そうだけど、続けることは難しいし、自分の経験値や知識の質に対して向き合い続けるのは厳しい作業だよね」
「日々未熟さに落ち込みます」

「でもそういう気持ちがあれば伸びていくから大丈夫なんだけどね。たいへんなのはある程度のレベルに行ったときにうぬぼれちゃうことなんだよね」「先生はうぬぼれちゃうってなるんですか?」
「自分では気づきにくくなるよね。でもレベルがとまるってのはうぬぼれちゃうってこともあったろうね」

「先生は自分の未来ってことは、ボクはうぬぼれやすいから、先生もそうなりやすいってことですか」
「ははは。そうだね。でもね~、校正の仕事ってうぬぼれちゃうってなりにくいのよ。だって校正ミスからは逃れられないからね」

「つまり、将来の自分は今後たくさんの校正ミスの経験をするってことですよね~。やだな~」
「だから、うぬぼれちゃうってなりにくいんだよ。良さともいえるかな。でも、毎回仕事はたのしい。良い校正になったらうれしいし、もういやだって思い続けたことはないから心配しなくていいよ」

「具体的な未来の情報を教えることは確かタイムトラベルでは御法度ですよね。教えてもらえませんか?」
「それはルール違反だね」

「でも校正ってわりにあわない仕事ですよね。ほかでたくさん誤植をひろっても1つミスあればマイナスになりますよね?」

「そういう捉え方もできるよね。満点でゼロ、99点でマイナス1。ミスがなくて当たり前だからね~、読者から見たらね」

「なんとかポジティブな見方教えてくださいよ」
「ミスの捉え方は難しいけど、そこはメッセージがあると思って、背景をよく把握することだね。厳しい作業だけど」

【続く】

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