蒲公英と私 【物語】
なんとなく目に入っていた、通り道に咲く蒲公英の蕾。
初めて自分の企画が通って、あくせく過ごす日々の癒やしになっていた。
なんとか企画を形にして、ほっとした頃、その蒲公英の花が咲いた。
「よくやったな、君に任せて正解だったよ」
「ありがとうございます」
上機嫌で上司が投げた言葉は、グローブに一度収まってから、ポロリと落ちた。
クライアントから喜んでもらえたことが、上司の耳にも入ったようだ。
素直に嬉しい気持ちは、もちろんあるけど。
ここまでできたのは、一生懸命動いてくれた後輩がいて、困った時に相談に乗ってくれた先輩がいて、凹んだ時に話を聞いてくれた友達がいてくれたからだ。
この結果を出したのは、私だけど、私じゃない……私だけじゃない。
不思議な感覚に包まれたまま、ふわふわと漂っていると、先輩が声を掛けてくれた。
「上司が、アンタのことすごい褒めてたけど…どうしてそんな顔してんの」
私にも分からない。そうだよね、素直に喜べばいいのに。
でも、私だけが受け取っていいものじゃない気がする。
辿々しく今の気持ちを話すと、先輩は体から空気を抜きながら笑った。
「そう思ってくれるのは嬉しいけどさ、一番考えて動いたのはアンタなんだから」
「ありがとうございます…いろんな人に支えてもらった分、いつか返していきたいです。あ、今度ランチご馳走させてください」
「……そう思うなら、そうじゃないかな」
「え」
「今回、アンタが支えてもらったって思った人は、見返り求めてやったわけじゃないと思うよ。返したいって思うなら、そういう気持ち忘れないでいてくれたり、今度はアンタが誰かを支えてあげるとかの方が、私は嬉しい」
そう言って、くしゃりと笑う先輩をグローブにしっかり収めて、私も同じように笑った。
帰り道、蒲公英が空に向かって胸を張って咲いているのを見習おうと思いながら歩いた。
しばらくして、その蒲公英は綿毛になって、ふわふわと彼方此方へ飛んでいった。きっとまた、春を届けてくれるのだろう。
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【 恩返し 】をテーマに物語を描きました。
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