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10ステップでいつでも相手の目線に立てる②

こんにちは。「あのね」から相手とつながることばを発掘することば塾舎anoneです。
この記事は前回の続き。10ステップのうちのステップ4からお伝えします。

ステップ3で、相手へと目を向けましたね。相手の行動を認識する。感情を交えず、ただ事実として目の前に起きている相手の行動を受け止める、というお話をしました。

それに続けて、相手目線のレベルを一歩ずつ上げていきます。

ステップ4からは、〈相手の行動を分析する〉レベル。
②のこの記事では
「どうして相手は、こんな行動をとるんだろう?」

このWhy?を軸に、推理し、分析し、相手に質問を届けるステップを紹介します。

■ステップ4:相手の行動の理由を推察する「もし自分だったら〜」

相手の行動を事実として認識する。その難しさと大切さをここまでにお話ししました。事実としての行動の奥には、その理由、気持ちがあります。

今目の前の相手は、どんな感情から噴き出た行動をとっているのでしょう?
どんな理由・気持ちで、こんなことをしているのでしょう?

その扉を開く一歩目は、「自分だったら…」と考えてみることです。

一つ、このステップのお話を紹介します。
Sさん、小学4年生。この子は自分が話題の中心になって、相手を笑わせるのが好きなんだけれど、調子づくと周りが見えなくなる特性も持っていました。
ある日、Sさんは同級生のOさんたち4・5人と話をしていました。話の流れで、SさんがOさんのことをちょっとからかう言い方をしたら、他の子が笑ったんですね。それでSはワクワクして、Oのことをさらにからかった。「Oは何やる時もひとりだよね→今度ひとりでトイレに閉じ込めておこうよ!」例えるならこんなふうにエスカレートしたので、Oさんはショックを受けて話の輪を抜けてしまいました。
ここで大人からストップが入り、Oさん、Sさんそれぞれと対話の時間を持ちました。

Sとじっくり対話をしたスタッフはSに「OはSにこう言われて、どんな気持ちだったと思う?」と尋ねました。
ここではSは、初めて「自分がもしもOだったら…」というスイッチが入ったんですね。
初めに出てきたことばは、「わかんない…」でした。「何がわかんない?」尋ねると、「SはOじゃないから、 Oがどんな気持ちかわかんない」と答える。

すごく大きなスイッチONの瞬間でした。スタッフもそれを逃したくなかった。
だからじっくり、Sのテンポに合わせてステップを進めました。
「Sが、ひとりでいるのが好きな時間ってどんなとき?」「本を読んでるとき」
「そうだね、じゃあ、ちょっと想像してみよう。本を読んでる時に、お友達から〈Sはひとりで本を読んでるのが好きだよね、じゃあ今度本読んでるSをトイレに閉じ込めておこうよ〉と言われたとする。(この時点でSの眉がぎゅっと歪みました)Sはどんな気持ちになるだろう?」

嫌な思いを想起させる対話は、スタッフとしても苦しい思いを持って行います。
このスタッフの対話で私が素敵だなと思ったのは、「(SはOが)どんな気持ちだったと思う?」とオープンな問いかけをしているところです。対話を短く済ませようと思ったら、大人から子どもへ「ダメでしょ!」「悪い子ね、謝りなさい」と声をかけることもできます。けれどスタッフは、Sが自分で自分に向き合い、ことばにするチャンスを確保しました。答えも、たった一つのゴールもない、すごい度胸のいる選択だと思います。素敵。

 Sのことに話を戻すと、Sはこの日、Oの気持ちを「SがもしOだったら」というモードで考えることができませんでした。Sが話したことばは、「SはOじゃないからわからない。でも、これからちょっとずつOの気持ちを聞いてみたい」でした。
 今でも時々、SとOはいざこざを起こしています。ふたりのいざこざがふつうの喧嘩とちょっと違うのは、謝るとか善悪とかの物差しではなくて、ふたりの間で「どうして今ひっぱったの?」「もしかして怒ってる?」と、質問しあってお互いの気持ちを知ろうとするところ。あの日スタッフがSといっしょに、「もし自分だったら〜」のスイッチからSのことばの扉を開いたことが、ふたりの関係を少し変えました。
 ストレートに「できなかったことができるようになった!」の話じゃなかったですね。長ーいエピソードを読んでくださった方はなんだこりゃ〜と思われるかもしれないです。すみません。この一朝一夕じゃないところが、子どもとことばでつながるときの楽しさだと私は思っています。

■ステップ5:相手の行動の理由を質問する「どうしてこの行動を?」

 ステップ4で「もし自分だったら〜」と行動の奥の気持ちを予測したとして、それが百発百中の人はあんまり多くはありません。
 相手のことをわかりたい、関係をすすめたい。そう思うならば、ただの予測で終わらせない。相手がどんな気持ちでこの行動をとっているのか、本当のところを知る手立てを取る必要があります。

 相手を知るには、何をすればいいか。
私がおすすめするのは〈質問する〉。これだけです!

「どうしてこんなことするの?」そう思ったなら、聞いてみるんです。
「どうして?」って。

 洞察力を磨こうが、読心術を得ようが、「相手から出てきたそのもの」以外は結局どれだけ努力しても「自分のフィルター」が入ります。自分が自分である限りこのフィルターは必ずついてきます。
 そして、赤いサングラスをかけたら周りの景色が夕暮れに見えるのと同じように、自分のフィルターでものを見るとどうしたって「自分の解釈」が挟まれる。これ自体はいいとか悪いとかいう価値の問題ではないです。ですが、見えている景色に自分のフィルターが入っていることを考えずに「自分の解釈だけが正しい」と思った場合は、その場にいるひと、出来事の奥にある心や意味を、取り違えてしまうこともあります。そして自分のフィルターを自覚しない限り、取り違えに気づくこともできないのです。

「どうして?」と尋ねると、まるで非難されているように感じる、という人がいます。

 私の夫がそういうタイプです。
ある朝、私が1階に降りると雨戸が閉まったままだったんですね。私は夫に尋ねました。「どうして雨戸が閉まってるの?」すると夫は「ご、ごめん」と言って、急いで雨戸を開けたんです。
 私は改めて聞きました。「どうして、というのは責めたんではなくて、単純に雨戸を開けなかった理由が聞きたいと思って言ったの。どうして、ごめんって謝ったの?」
 夫は「責められてると思った…」と言ってこんな話をしてくれました。「雨戸を開けなかったのは、単純に忘れていたからだった。指摘されて、罪悪感で、責められているように感じただけだった。」
 夫は、「どうして雨戸が閉まってるの?」を「雨戸を開けなきゃダメじゃない!」に変換したんですよね。だから自分が悪いことをしたのだと認識して、謝った。自分のフィルターで、私の発言を見ていたのです。もちろん、私もことば足らずでした。私は私で、「雨戸を開けないのには何か理由があるに違いない」…例えば雨が降ってるとかお向かいさんを驚かせないためとか、そういうことを勝手に解釈して、自分で雨戸を開ける行動を採らなかった。
 結果、朝から雨戸の開け閉めでちょっとしたいさかいを起こしてしまったのでした。

 これは私の失敗しやすい点で、「どうして?」を聞く時にはちょっと気をつけるようにしています。「ちょっと純粋な疑問でさ〜」と前置きをしたり、「責めてるって感じさせたらごめん、そんなつもりはなくて…」とことばにして説明したり。
 いろいろクッションを準備した上で、相手に純粋な「どうして?」が伝わると、相手からも純粋な「理由=気持ち」が聞けます。うまく聞けない時は、相手のフィルターを発動させてしまっていないか、自分でも自分のことをチェックして、「どうして?」をお届けしてみるといいのかもしれません。

■ステップ6:相手の行動の理由を質問する「もしかして今、こんな気持ちでいる?」

〈ステップ5〉では「どうして?」と質問するお話をしました。
そこからもう一歩レベルが上がって…〈ステップ6〉もまた、質問のススメでございます。
今度の質問は、「Why?」のオープンな質問ではなくて、自分が推察した相手の気持ちを質問で伝えてみる方法です。

〈ステップ4〉で、もし自分だったら〜という想像の話が出ましたよね。
 その時に自分が思い描いた、「こんな行動をとるときの理由・気持ち」。それを、「ねえ、もしかしてあなた今、こんな気持ち?」と尋ねてみるのがこの〈ステップ6〉です。

「どうして?」と尋ねるよりも、胆力が必要です。
 なぜかって、この「もしかして〜」の質問は、「間違えててもいいや!」という気持ちのもと質問をお届けするから。「あなたこんなこと考えてるでしょう」っていう内容は滅多なことではあたらない。当たる人って、相手との関係が濃いか、またはエスパーか詐欺師だと思います(失礼)。おおよそ、自分の想像した「自分だったら〜」を伝えるので、間違ってて当然、もし一緒だったらすごい!というつもりで質問をします。

 当たりもしないのに、質問をする意味があるのか。
 あります!! 「相手から出てきたそのもの」は、コミュニケーションの宝箱です。だから、相手から「えっ違うけど…」というナマの反応が返ってきたらもうそれが最高なんです。「違うんだあ、じゃあどんな感じ?」と聞いていくと、子どもからも大人からもことばが響いてくる。否定させてしまうのでちょっと荒いやり方なのかもしれないけれど、相手からの本当のことばを引き出しやすくなります。

ここまで、質問することに重きを置いたステップ4〜6を説明してきました。
質問する。その大きな目的は、相手のことばを引き出すこと。それによって、相手の気持ちや行動の理由を知るのです。

日本の古語に「ゆかし」ということばがあります。
見たい、聞きたい、知りたい。そういう「相手をわかりたい」という意味がぎゅっと詰まったことば。平安の世の人々が、ひとやモノとつながりを持つときの理由・気持ちがこの「ゆかし」ということばに詰まっています。

長くなりましたので、ここで記事を分けますね。
②の記事は質問することをお話ししました。
③の記事はレベルを上げて、相手を観察し、相手の立場を見出すステップを紹介します。

■ステップ7:相手の行動の理由と相手のいつもの姿を関連づける
■ステップ8:相手に自分から見た相手の姿を伝える
■ステップ9:相手の行動と相手の気持ちを観察する
■ステップ10:相手の気持ちに合わせた反応を届ける


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