サドル狂騒曲81 再会の般若

最後に会って2週間くらいしか過ぎてないのに、その顔はとても懐かしく映る。陽に焼けた顔、広い肩幅、目尻が少しキツイけど、綺麗な二重まぶたが上品で優しい。怒ると怖いけど、キスする時は笑ってくれる。

ああ、雄太さんだ。私は喜びで準備していない言葉を口走りそうになる。いけない、開きかけた口を一度結んでスタンバイすると勇気を出して最初のセリフを切り出した。
「 雄太さん、遅くにごめんなさい。私、どうしても伝えたい事が… 」
「 お前… 」
マジマジと私を見る目は怒っていないし笑っていないし驚いてないし、掴みどころがない。調子が狂っちゃうけど、もう言ってしまおう。
「 あの… 」

「 お前、もしかしてまた太ったか? 」


え、何そのリアクション、いきなりそこ突く?

私は頭が真っ白になってその場に棒立ちになる。雄太さんはいきなり私の手を引っ張ってドアを閉めると、後ろ向きににした私を靴箱の前に押し付けた。
「 やだ! 痛い! 」
「 尻を見せてみろ 」
「 ええええっ、無理!触らないで! 」
「 いいから動くな!」
雄太さんはスカートをめくってお尻をがっつり両手でつかんだ。何、何なのこの展開は。どーしよー、今日のパンティはレギュラーの普通モードよ。白のなんてことないやつよ、もっと可愛いのにすれば良かった。逃げようとしてお尻を必死で動かしたら… ああ、下にずれていく。ヤバっ、このままじゃお尻が見えちゃう。雄太さんの手首をつかんで押し下げようとしたら、反対の手でバシっとお尻を叩かれた。
「いたあああああああい!やだあ!離して! 」
「 お前は筋肉質で脂肪がついたら落としづらいんだ。見ろ、こんなに横に張り出して!どーせ恭平が作る菓子だのパンだの食いまくってるんだろ 」
「 そんな事ありません! 毎日ちゃんと運動してご飯はお替り1回だけにして… 」
「 その一杯が丼だから意味が無いんだ!」
 ひいいい… 何でわかるの?雄太さんがやっとスカートを下した隙に半分下がったパンティを元に戻す。もう、どうしてこうなるの?覚悟を決めてきたのにこれじゃいつものじゃれ合いだ。
「 お前さあ、板胸なんだからケツがデカくなったら重心が下に下がって体型がおかしくなるのわかってないだろ?」
 腕を組ん意地悪そうな笑いを浮かべる雄太さんは私の知っている見慣れた顔をしている。そうやって私をからかっていた時がものすごく懐かしく感じて、どんな顔をしていいのかわからない。私は俯いた。今日は泣かないと誓ったけど… 
「 聞いてください。私、今日は… 」
「ちょっと待て 」
「 今度は何ですか!」
「 おっぱいもちょっと大きくなってないか 」
「 はあ? 」
咄嗟に胸を隠したけど、雄太さんの手が私のウエストを掴む方が早かった。
抱き寄せられて顔がまともに彼の胸に埋まる。煙草とうっすら香水の匂い。

ああ、すごく心地い。幸せの匂いだ。倶楽部の丘からクリスマスの夜景を見た日と同じポジション。同じ温かさ。だめ。体の力が抜けて雄太さんの体にもたれてしまう。さっきまで、二度と会わないと決めた心がどんどん溶けていく。信じられない程慎重な仕草で胸の輪郭をなぞる指先が愛しくて憎らしい。
「 ほんの少しだけど重みが増してる。良かったな。尻ばっかり見てこっちに目がいかなかった 」
「 もういいんです。私の事は構わないで。最後にどうしても言いたい事があって… 」

 続けようとした言葉を打ち消すほど強烈な気配が玄関の奥から飛んできた。顔を横にずらしたら、リビングの引き戸に手をかけてこっちを見ている黒髪に白いドレスのエンジェルがいる。
「 あ… 」
声と同時に雄太さんは私から離れた。すごい。あの派手なドレスがこんなに似合うなんて。しかも上品でお姫様の気品が溢れてる。でも顔を見て私は秒で震えあがった。こちらを見ている姫の目の奥に、ドス黒い怒りの炎が浮かんでいる。般若が憑依した、いや、それ以上の凄みがある。

「 その声は、倶楽部で私の手伝いをしに来た女の人ね 」
「 美奈子、悪いがしばらく外してくれないか 」

 雄太さんの努めて冷静な声を無視して、般若姫はゆっくりこちらに近づいてきた。



 続


「 




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