サドル狂騒曲70 姫の溜息と青葉の吐息         

青葉が横浜へ向かっているその時に、湯島の堀川邸では俗世間に疎い,
やんごとなき女たちが雄太から贈られた進物の箱に囲まれて躁状態になっていた。

 「 見て、この反物、京都の老舗だわ。色も春らしくて上品ね… 仕立て券までついてるじゃない。早く作らないと品川に伺う日に間に合わないわよ 」
 藤子は藍色、萌黄色、ピンクの布地を広げてはしゃいでいる。瑞枝は木箱の中に収められた香炉を手に取った。黒と青の混じった奥深い色合いは有田焼の高級品だ。傍らに置いた箱は和菓子と抹茶の詰め合わせが入っている。どれも旧華族なら知っている隠れた老舗の逸品ばかりで、風雲児と悪い噂ばかりが聞こえていた雄太がこんなにも作法や常識がるある紳士であった事が、瑞枝たちにとっては嬉しくも幸せな誤算だった。
「 久しぶりに香を焚いてみようかしら… 今の季節に合うお香が確かあったはずよ 」
「 姉さん、私もお薄を立ててみたいわ。お茶会なんて呼ばれなくなってしまったから久しぶり… お道具を洗ってくるわ。あら、美奈ちゃんは?」
「 部屋じゃないかしら。雄太さんから何かいただいてたみたいだから。後で呼びましょうよ 」

 年寄り二人が騒がしく趣味に興じている最中に、美奈子はこっそりその場から抜け出して部屋に戻りベッドの上で赤いリボンのついた箱を手に抱えていた。雄太がよこした初老の使者は多くの包みからこの箱を出して直接美奈子の手に渡した。
「 必ず、お嬢様おひとりで開けてほしいとのことです 」
 美奈子の視力ではかろうじてわかるのは明るさとぼやけた輪郭くらいで匂いや手触りを手掛かりに品物が何かを探り当てるしかない。

 何かしら… 食べ物ではないわ。この軽さだと、本でもない… 

 久美子がリボンをはずすと箱の蓋は容易に開いた。触れたのは絹のような柔らかい触り心地の布で、甘い麝香の香りが同時に鼻腔をくすぐる。美奈子はそれがブラとパンティのセットだとすぐ気付いた。驚きと恥じらいで指先が震える。確かめるようにゆっくり指先を薄い生地に絡めると、すぐに造作が予想と幾分か違う事に気付く。

 ブラの紐が細くて頼りないわ。何、カップに穴が開いてる。赤ちゃんが母乳を吸う時は便利そうね。えええ、パンティのこんなとこにも隙間が…

 何のために?お手洗いに行く時に便利だから?そもそも、どうして雄太さんはこんな妙な下着をくれるのかしら。色も派手に感じるわ。これ、私は一体いつ着たらいいのかしら…

 赤いシースルーのセクシーランジェリーを美奈子は服の上から当ててみる。予定では雄太が来週挨拶に訪れる。

どうやって御礼を言おう。とりあえず着てみようかしら。だって感想を言わないと失礼だもの。

 ドアの外の様子を伺い、美奈子はそろりとセーターとロングスカートを床に落とした。その時、帝国乗馬倶楽部の馬上で雄太に抱きついた感触を思い出した。煙草と一緒に感じた逞しい男性の気配。美奈子の胸が疼いて火照る。

こんな下着をくれたのは、もしかして…

 一糸まとわぬ姿になった美奈子は淫らな朱を両手に抱えて、遠い空の下にいる雄太にひたすら想いを馳せた。



 「 胸だけは勘弁してください!ここだけはやめて!」

 アパートのベッドの脇で、私は悲鳴を上げてうずくまった。横でメジャーを持った恭平さんがメモ帳に測ったばかりの袖丈と肩幅と上半身の長さを書き込んでいる。
「 早くしないと雄太が風呂から上がっちゃうよ… 俺の方が紳士的なんだから今のうちに大人しく脱いだ方がいいって 」
「 だって、急にパンツだけになれって、私子どもじゃないんですよ 」
「 ヌードサイズじゃないと正確な数字が出せない。さ、シャツを脱いで俺の前に立ってごらん 」

 塩対応の恭平さんは私の背中を抱き上げてベッドに座らせるとあっと言う間にボタンを外して上着を脱がしてしまった。ブラ一枚で逃げ惑う私の腕を掴んでベッドに押し倒すと… 甘いキス。唇が触れた途端、彼の匂いとセクシーな息遣いに囚われてしまう。もう、ひどいひどい、こんなキスで動けなくするのは反則よ…  私は陥落して恭平さんの背に手を回した。超ミニサイズのAカップだけど貴方になら見せても良い。とうとう男の人に触らせる日が来たのね。うふふ、ちょっと嬉しいな。

「 なんだよ、寝転んで遊んで楽しそうじゃないか。俺も混ぜろよ 」

あああ、来ましたよ、ドSの番長雄太さんが風呂上がりの腰タオル一枚で。速攻トーンが下がった私は慌てて胸を隠す。

「 じゃあ次は俺がシャワーを使うから 」
私から体を離す恭平さん。ああん、せっかく気分が乗ったのに…ちょっと拗ねてこっそり足を絡めると、恭平さんは気づいて笑いかける。ああ、このスマイル、蕩けそう…
「 その前にやることはやろうぜ。次は何だ、おっぱいか、それともケツか? 」
「 両方だね 」
いきなり雄太さんは私を抱き上げて胡坐をかいた膝の上に座らせた。ブラのホックを片手で外して抜き取ると私の両腕を持ち上げて頭の上で固定した。
一瞬の早業で、声も出ない…
「 さあ恭平、いじり放題だ。楽しい性教育の始まりだぞ 」

おっぱい丸見えで、腋の下まで見られて、しかもゲイの上司二人に囲まれて… 恥ずかしくて死にそう、でも何だかちょっと期待してしまう。

 とうとう、私の調教が始まってしまった。

 それは想像を遥かに超えた、未体験の世界だった…



 続




 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?