最後の女
目出し帽を被った男たち。男たちに目出し帽以外の着衣は無い。露出した陰茎を見てしまった。男たちは横並びに整列し皆一様にそれを奮起させている。つまり勃起している。右端の陰毛が揺れて風が吹き左端の陰毛を揺らした。私はそれを、可視化された風の通行を目で追っていた。男たちの目線は私の身体に集約されている。まじまじと見つめている。少しずつ私の着る衣服が透き通っていくからである。今やスーパーのポリ袋ほど透明度となり次第に水に濡れたトイレットペーパーのように本来の形状を失い剥がれ落ちて行くようである。裸体は衆目に晒される。生唾を飲む音が聞こえる。男たちは身震いや咳払いをして今にも理性から解き放たれようとしている。そしてそれらは全国に、もしかすると全世界に生放送で中継されている。目出し帽の男たちは画面の向こうにも待機している。それはおびただしい数である。放送を目にしてから目出し帽を買いに行く男たちも多く、量販店からは目出し帽の在庫だけか一斉に捌けた。私の首に辛うじてしがみついていた蝶ネクタイの紐が少しずつ解け床に落ちた。最後の着衣を失った瞬間、何か火蓋のようなものが切って落とされたような感じがあった。それはその時男たちの間に交わされた微かな目線のやり取りによるものか、経験したことのないほどのつかの間の静寂によるものか。予想に反して飛びかかって来る者や突進して来る者はなかった。全員がただ静かに一歩ずつひたひたとにじり寄って来た。男たちは壁のように隙間なく一列に迫り来た。息を吸う音や吐く音、よだれや鼻水を啜る音がひたすらその場を往復した。私は前を向いたまま背後の壁に手を付いた。そこにはボタンのような突起が。私がボタンを押すと暗がりが光り一発の銃弾が男たちの側頭部を一直線に貫通して見せた。男たちは脱力し絵画のように折り重なって横たわった。手を叩く音の方を見るといかにもプロデューサーといった装いの男が拍手をしていた。近寄って来た男はいかにも高そうな革靴が血溜まりに汚れるのも気にしていない様子で私に封筒を手渡した。中身は分厚い札束と興奮作用のある粉末である。私は服を着て颯爽とスタジオを後にした。地下駐車場で待機する自前の高級外車は完全防弾仕様の装甲に覆われている。番組のタイトルは「遊び」。キングサイズのベッドに倒れ込んで眠る。そして目が覚めたらホテルから路上に出て拳銃で道行く目出し帽の男たちの頭を撃つのである。これは私の遊びである。その夜は無味乾燥の洞窟の中を進み続ける夢を見た。
翌日、撃った男の目出し帽を取ってみると昨日のプロデューサーだった。