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武内明 『完全秘匿 警察庁長官狙撃事件』 2016年、講談社

 全国の警察組織のトップである警察庁長官が銃撃される事件を扱ったノンフィクションを読んだ。僕は1998年生まれで、東日本大震災や新型コロナウイルス感染拡大などの社会騒乱は強烈に記憶に残っている。しかし、生前にあたるオウムによる一連の事件、更に遡れば日本赤軍や中核派が登場する事件などは実感を伴わない、現代史上の出来事といった認識である。よって、日本の地下鉄内で無差別テロが発生し、その10日後に警察庁長官が何者かに銃撃(!)されたことは、隔世の感がある。

 警察による威信を賭けた捜査は空回りし、この事件は、2010年に公訴時効が成立、現在に至るまで犯人の特定には至っていない。この本は、事件発生から時効成立までを複眼的に分析し、真相に迫っている。個人的に『殺人犯はそこにいる』レベルの当たり本で、一気に読んだ。

 僕は中学生の時、部活に真面目に出ていなかった(キャプテンを僭称していたが解任された)ので、テレビ朝日『相棒』シリーズの再放送を随分見ていた。『相棒』の年末の長編や劇場版でしばしば描かれているのが警察内部の論理である。それは、ある時は警視庁vs警察庁であり、ある時は刑事部vs公安部でもある。当時はフィクションとして参考程度に見ていたが、実際に内部の論理が長官狙撃事件の捜査を迷走させたことが分かった。刑事と公安の人種の違いは本書の見所なので是非読んでみて欲しい。

 竹内の丹念な取材により、僕の貧しい想像力はずいぶん助けられた。

【補足】この本は以下のツイートで知りました。僕は「若手記者」ではありませんが、面白そうな本がたくさん紹介されていたので引用しておきます。


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