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稲葉圭昭『恥さらし-北海道警 悪徳刑事の告白-』2016年、講談社

 北海道警察元警部・稲葉が書いたノンフィクション。この本は綾野剛主演で映画化されているので、内容を知っている人も多いかもしれない。(僕はまだ見ていない。)一気に読み切ったが、警察組織に対する仮借なき批判が持ち味である僕が見ても、ノンフィクションであると信じられないレベルだ。作中には稲葉の上司などの関係者の実名・役職が記されており、真実相当性が高いのは理解できる。ただ、登場する奴らがやっていることの凶悪性が群を抜いているのだ。恐れ知らずのガキどもが蝟集している地元のことを「猖獗を極める街」と前に書いたことがあるが、素人のガキとは比にならない凶悪性・組織性・常習性を見せてくれるのが警察であり、国営ヤクザと呼ばれる由縁である。

 稲葉は作中で、警察官になった経緯、警察組織の仕組み、「銃器対策のエース」と呼ばれるようになった経緯、「エス」と呼ばれる情報提供者との黒い交際、組織原理の犠牲になった経緯、覚せい剤使用で逮捕されるまで…といったいくつもの興味深い話を語っている。この本の内容は、自分のやった犯罪について語るという性質も大いにあるが、警察の堕落しきった組織体質を語った内部告発である、と僕は捉えた。

 警察組織が公務員である以上、不動産営業、証券リテール、大塚商会といったノルマ第一主義の職業とは異なるイメージはつきまとう。しかし、僕は警察が自己否定的な行為を行ってでもノルマを追い求める連中であることは、かねてから確信しており、読後その認識は強化された。稲葉自身も、わざとヤクザに喧嘩を売って公務執行妨害で逮捕したり、点数目当てで居場所が分かっている犯人を指名手配してから逮捕したり、令状請求の際に虚偽公文書作成をしたり、エスに情報を貰う見返りに薬物の運搬に同伴したりしている。挙句の果てに、拳銃の摘発が出来るという話に目がくらみ、帯紙(冒頭の写真)に書いてある通り、覚せい剤130キロ、大麻2トンを海路で日本国内に入れるのに協力してしまう。ただの不良刑事一人で出来る範囲ではない。

 警察は組織的な犯罪集団の面も持ち合わせていて、出来るだけ関わらない方がいい。稲葉が関わった氷山の一角の案件でさえ、冤罪による逮捕者や自殺者が出ているし、なにより稲葉自身が被害者だ。犯罪行為をしてまで警察組織に貢献してきたのに、上層部の保身のために干され、最後には覚せい剤に手を出すほど追い込まれてしまった。『恥さらし』は、組織の歪みが生んだモンスターによる副産物であり、N国党を感じずにはいられない。

 組織体質が腐敗しきっている以上、警察官を信用するなど無理な話だ。「いい人も居る」「何かあったら警察に頼るくせに」「気づいていないだけでお前も警察官に助けられている」といった鳴き声が特徴であり、権威盲従をお家芸とする、七月の五月蠅がわいてくることは織り込み済みである。警察官による数多の不祥事・犯罪行為・人権侵害、警察組織に染まり切らなかった勇気ある者の内部告発といったファクトを知らないのだろうか。せめて桶川ストーカー殺人事件か志布志事件のwikiくらい読んで欲しい。最低限心得ておくべき立証責任すら放棄してしまった連中を見ると、暗澹たる気持ちになる。

 それでも、善良な警察官に光が当たることを願っている。

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