水面
眠りにつく前に音楽を聴こうとして何気なくAppleMusicを開く。
曲が増えている。
マンウィズ、ブルーノ・マーズ、WANIMA、dotama、Def Tech、エビ中
一貫性のないような曲がいっぺんに増えてる。
二月ほど前のドライブの途中私のスマホで恋人がログインした以来そのままになっている。
恋人と連絡をとっていないときにAppleMusicの曲がリアルタイムで追加されたり、一緒に遊んでいるアプリをふと開くとちょうどログインしていたり、恋人が別の何処かで呼吸をしているのをこんなときに感じてしまう。
連絡をしていないときの恋人の存在が不思議に思う。きっと私はへんだ。
試しに更新してみるとまた曲が増えている。
知らない人。
知らない音楽。
一気に追加しているということは最近ハマったグループのメンバーが聴いている曲かな。
きっと雑誌に載っていた推しのおすすめのアーティストを、思い立って一気に追加しているんだろう。
じゃあ今晩は邪魔をしないで寝よう。
恋人が推しについて考えているとき存分に楽しめるように私は邪魔をしないようにしている。
恋人が恋人と推しだけの瞬間、私の存在は多分いらない。
"推しの存在で人生が豊かになるんだって、アイドルを推すのはもうやめようって数年前に思ったけどアイドルじゃなくてバンドならいいかなって思ってるんだ。
気になっているグループがあって、沼ってわかってるから近づいてなかったんだけど。"
ハマろうかなと言っている段階ですでにズブズブ沼に浸かっている。
それからの日々は毎日楽しそうで、私は邪魔をしたくないのでそっとしている。
凪いだ海の水面のように、ふわふわわけもわからず揺れている。
そのうち波に飲まれて見えなくなる流木を思う。
そんなふうに消えてしまいたい。
恋人が追加した恋人が最近よく聞いているプレイリストを再生して今夜も眠りにつく。
今ではとっくに私がどんな音楽を聞いていたかわからなくなっていて、私のプレイリストなんてものは存在していなかったことにそれでも気づかないふりをする。
他者が他者であることを私達は認めているのに、近くなればなるほどそれを曖昧にしてしまう人がたくさんいる。
他者は他者であり、それ以上でもそれ以下でもない。
私は戒めるように乾いた口の中でそっとつぶやく。
ゆっくりと踊るように、海で眠る。
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