ださいリュック

父の背負うリュックは、大きくて頼もしくて、何よりださい。使い込んで色の褪せてきた肩の部分に、ファスナーのチャックのところに結ばれた赤いひも。
そのリュックを後ろから眺めるのが、私の旅行の際の習慣だった。
だから、思いもしなかった。
まさか自分が、このリュックを背負って空港に立つ日がくるなんて。


「お姉ちゃん、もうすぐ搭乗時刻だよ。」
「和香、忘れ物しないでよ。」

妹と母に急かされて、私はリュックの肩ひもをかけ直す。父が家族旅行のたびに背負ってきた、ださいリュック。
旅行先でそのリュックが視界にちらつくたび、照れくささと安堵が胸に広がったのを、今でも覚えている。

今度は私が背負うのだ。
父が病気になる前に行きたがっていた台湾へ、父の写真と家族を連れていくことに決めた。
父がいなくなった今、私は、父との思い出と、父がリュックにつめて背負ってきたものをまるごと背負って、空港を途立つ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?