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【ネタバレあり】映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ‼』感想【料理の仕方を間違えた】


こんばんは。これです。ここ最近一気に寒くなりましたね。そろそろ暖房の出番でしょうか。

さて、今回のnoteは映画「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」(タイトル長ぇ...)、略して「音タコ」の感想になります。正直あまり期待せずに観に行ったんですが、下げたハードルのさらに下をくぐってしまった。そんな残念な映画でした。個人的には今年見た映画のなかでもワーストの部類に入ってしまいますね。なので感想も否定的なものがメインとなっていますので、そこを踏まえてお読みいただけたら幸いです。

では、始めます。拙い文章ですがよろしくお願いいたします。





~あらすじ~ 驚異の歌声をもつ世界的ロックスター・シン(阿部サダヲ)と、声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)。正反対の2人は偶然出会い、ふうかはシンの歌声が“声帯ドーピング”によるものという秘密を知ってしまう! しかもシンの喉は“声帯ドーピング”のやりすぎで崩壊寸前!やがて、シンの最後の歌声をめぐって、2人は謎の組織から追われるはめに。リミット迫る“声の争奪戦”が今、はじまる!!! (映画「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」公式サイトより引用)



※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。



・よかったところ

この映画のよかったところとして、まず最初に挙げられるのが「曲がいい」ってことですね。最初のゴリゴリのメタルな「人類滅亡の歓び」(曲:HYDE、詩:いしわたり淳治)は見ている人たちに強烈な先制パンチをお見舞いしてきます。途中ふうかが歌っていた「まだ死にたくない」や「ゆめのな」(曲・詩:橋本絵莉子)もこじんまりとしていてよかったですし、他にもたくさんの良曲たちが映画を彩ります。その中で個人的には何といっても最後の「体の芯からまだ燃えているんだ」(曲・詩:あいみょん)がとても好みでした。

この曲は映画のラストで歌われた曲で、そこに至るまでのシンとふうかの物語が詰まっているんですよね。「血の味混じりで歌を歌う」や「壊れたギターで奏でようか」だったり映画に出てきたシーンをなぞっていくように展開されて、最後に「体の芯からまだ燃えているんだ」と歌う。ここにシンの名前が「芯」として入っているんですよね。シンの意思をふうかが受け継いでいる感じがしてグッときました。あと映画を観終わって歌詞を読んでみると、その歌詞の持つ熱量に驚きます。できれば映画のなかでも全編流してほしかったくらいです。


次によかった、というか個人的に好きなのがこの映画ってシンからふうかへの継承の物語だというところですね。シンが声帯ドーピングのやりすぎで声を出せなくなって、歌えなくなった自分の思いをふうかに託していくっていう。やらない理由をうだうだと述べるばかりだったふうかがシンといるうちにどんどんと行動的になっていって、最初は小さい声であまり感情を表に出していなかったのに、大きい声で感情を発露していくという変化は好きですね。その見せ方はあまり好きじゃないんですけど。

そしてシンと別れて最後にふうかは”絶叫の歌姫”として「体の芯からまだ燃えているんだ」を歌うわけですよ。ふうかが始まる前に観客に向かって「テンションを上げろ!!」と煽るんですけど、これは芯が序盤に叫んでいたセリフと全く同じで、それをふうかが絶叫とともに受け継いだっていうのはアツかったですね。それを踏まえて「体の芯からまだ燃えているんだ」を聞くとさらにくるものがあります。こういう成長要素や受け継がれる意志っていうのは個人的には大好きなんですけど、ただ繰り返しになりますけど、見せ方があまりにも不味かった。最後のタイトルの繰り返しとかね。あからさますぎるでしょう。もっとうまくやっていれば。
 

それと「やらない理由を探すんじゃねぇ」っていうテーマも好きですね。私も普段言い訳ばっかりして逃げてしまう人間なので、この言葉はそれなりに刺さりました。結局やらないと何も起こらないんですよね。やらずにいれば悪いことは起こらないけどいいことも起こりはしないよって。ふうかもやらない側の人間でしたけど、最後はやる側に成長して終わるので、この映画の後味はそれなりにいいです。背中を押してもらえたっていう人もいるかもしれません。ただ私は「いやいやラスト5分から10分はよかったけどそれでも帳消しにはなってないよ。最後に一枚きれいな壁紙を貼ったってその後ろは穴だらけだよ」と感じました。それだけよくないところが多かったっていうことです。最後上手くまとめたように見せたけど騙されないから。


えーと、あとよかったのは囚人・阿部サダヲですかね。情けなさと弱々しさが最高でした。バリバリのロックスターよりも何も言わない囚人の方がよっぽど味が出ていて、あまり捲し立てらせるよりも情けない感じにしておいた方が個人的には阿部サダヲのよさが出るんじゃないかと感じました。ただ惜しむらくはこの囚人姿が見れたのは最後の10分という限られた時間だったこと。ふうかの「体の芯からまだ燃えているんだ」もそうですけど、私がこの映画で好きなのってラスト10分なんですよ。そこに至るまでの100分ぐらいはぶっちゃけ好きじゃないです。その理由を次からグダグダと書いていきたいと思います。







・悪かったところ

最初に、この映画の最大の問題点として私が挙げたいのがカメラワークです。カメラがブンブン動いて、画面がバチバチと切り替わって、バックがグワングワンと回ってとても忙しないんです。まっすぐな画というのもそこまでなくて、カメラを斜めに傾けた状態で撮っているため平衡感覚が保てません。悪い意味で酔います。さらに説明的な部分でもカメラは動く動く。こっちは説明に集中したいのに頻繁な画面の切り替えがそれを許しません。もう画面についていくのに精一杯で説明が頭に入ってこないんです。さらによくなかったのがカメラが人物の周りを回りながら撮っていたシーンが何回かあったこと。人物の混乱を表したかったと思うのですが、背景が安定せず本当に気持ち悪いです。ここはカメラを動かさずに見せてほしかったです。「カメラを止めるな!」ならぬ「カメラを動かすな!」っていう感じです。


そしてこのカメラワークの忙しなさのせいで物語に集中ができません。なにが起こっているのか分からず、物語についていくことができません。登場人物の行動原理も見えてこなければシンとふうかが仲を深めていった過程もいまいちわかりません。気づいたら二人の仲は深まっており、走りながらのキス(この映画一番のツッコミどころ)をして別れています。ここで私はこのブンブン動くカメラワークについていくことができず、振り落とされてしまっていました。私は普段映画を観るときは登場人物に感情移入をしながら観るんですが、今回ふうかに感情移入しようとしても振り落とされ、置いてけぼりをくらってしまったため、感情移入をしながら観ることができず、それがこの映画がハマらなかった理由の一つになってしまいました。


ただ作る側もこの弱点に気づいていたのか、置いてけぼりを防ぐために文字での説明を試みます。「シンの口パクがリークされた」とか「シンの声、消失」とか。いやそこは映画なんだから物語の中で説明してくれよ。もっと登場人物にそれとなく匂わせるとか情報の出し方はいくらでもあったでしょうに。全体的にストレートに説明してくれるんですよね、この映画って。余白が全然ない。その余白を想像するっていう映画の一つの楽しみ方だと思うんですけど、それを潰しに来てる。こっちだってそれほど馬鹿じゃないんだからもっと託してくれよって思っちゃいましたね。エンドロールの前のエヴァ的演出もはっきり言ってスベってましたし。


それでおいて終盤一気に時間を飛ばすところはそんなに説明しないんですよね。吉岡さんも似合っていないウィッグをつけて長髪になっていますし、状況を把握するのに時間がかかる。今まで説明ばっかしてきてそこは説明しないのかよっていう肩透かし感がありました。いっそのこと説明過多を貫いてほしかったです。





続いて。この映画は公式サイトでは「ハイテンション・ロック・コメディ」と紹介されています。実際その名に偽りのないハイテンションさでしたが、これがまた合わなかった。なんというか「コメディの押しつけ」感が強すぎるんですよ。もう最初のシンの「ま〇こ濡らして、ち〇こおったてて待ってる」っていうピー音入りのセリフからきつい。最初にこういったセリフを出してくることで、この映画の方向性を示していたと思いますが、いきなり下ネタから入りますかね。わざわざそれを千葉雄大さんに繰り返させるっていうのも辟易しますし、ここで一気に私とこの映画との距離がついてしまいました。


さらには、ふせえりさんや松尾スズキさん、田中哲司さんといった個性派の俳優陣がアクの強ーいセリフ回しをするんですよね、また。「どうよ。いかにもコメディでしょ」っていった感じの。私としてはそういった表面的な部分じゃなくて喋ってる内容で笑いを生み出してほしかったんですが。さらにここに動き回るカメラワークが加わって見辛いったらありゃしない。もうついていけません。気づくと冷たい目で見てしまっている私がいました。単純にオッサンの裸はキツイですって。


その流れで個人的に疑問だったのが「麻生久美子さんの女医のキャラ、そんなに強くする必要がある?」ってことです。今まで「コメディの押しつけ」を散々くらってきて、ここで一休みつけると思ったら銀髪に眼帯の濃い女医の投入。胸やけを起こしますよ。「だけどって何回言った?」っていうコメディ調のセリフ回しも絶望的に合ってなかったですし、もっと落ち着かせる意味でも普通のキャラでもよかったと思います。





それと正直ヒロインの吉岡里帆さんの演技もそこまでよくはなかったかなと。最初の気弱にしているところはまだよかったんですが、感情を出すようになってからは少し棒読み感を感じてしまいました。申し訳ないですけど、主役よりも脇役の方が輝くんじゃないかとかそんなことを思ってしまいました。それでも持ち前の可愛さで何とか持たせてはいたんですけど、似合わないウィッグをつけだして長髪になってからはその可愛さが8割ぐらい減ってしまって。その代わりに阿部さんの魅力が増していて、バランスが取れていたのでよかったんですけど、そこはすごく残念なところでした。





あとはコメディにこれを言っちゃいけないんでしょうけどツッコミどころが多すぎます。シンが人間ポンプかよっていう勢いで血を吐いていた後にあんなに大声を出していたところとか、チバさん演じる坂口は結局何を考えていたのかとかいろいろあるんですけど、やっぱり一番はさっきも書いた通り、シンとふうかのキスシーンですね。ここに至るまでの経緯もぶっちゃけ謎なんですが、まあそれを差し置いてもここはちょっとないです。シンが車に乗った状態でふうかが走りながらキスをするんですが、ここでふうかは車と並走しながらキスを続けてるんですよね。それも30mくらい。私の許容範囲を超えてしまっていてもうここは笑うしかありませんでした。





最後にまとめると、この映画は「要素要素はよかったものの料理の仕方を間違えてしまって不味くなってしまった」という映画だと個人的には感じました。もっとカメラワークを落ち着かせたり、シンとふうかのパートをじっくりやっていれば良作になっていたかもしれないと考えると、非常にもったいない映画だと思います。ただテーマはいいのでハイテンションについていける人だったら、良好な感想を持つと思うので、とても人を選ぶ映画でしょう。私には合わなかった、それだけです。






以上で感想は終了となります。お読みいただきありがとうございました。

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