書評:ヴィジョナリーカンパニー

書評を書いていく理由は本を読む動機付けと思考の言語化のトレーニングのためです。当方読書は年3冊程度だった20代サラリーマンです。

個人的評価(5段階評価)

ボリューム:5(様々なデータ、人物が次々と出てくるため読むのに時間がかかる。30時間程度) 
仕事に役に立ちそう度:4(平社員ではすぐに活かせるところは少ないものの経営者思考は営業としても知る必要があると感じたため。)
読み物としての面白さ:4(長い!しかし誰もが知っている大企業の歴史を読み解きながら比較検討し、その中でも圧倒的に成功している秘訣を考えていく過程は面白い)
経営のビジネス書にイメージされる、カリスマ経営者や、〇○流経営術というようなものにフォーカスした本ではなく、色んな会社を比較して共通している点、違っている点を歴史背景を加味しつつ取り上げ、成功し続けるために必要な、本質的な考え方、働き方を示した本で仕事をしている人は誰でも読むべき本だと思う。

概要

真に成功している企業とはどんな企業か。大企業の中でも時代の変化に対応し、成功し続けている企業は他と何が異なるのか。膨大な調査と第三者的視点に徹底し、信憑性の高い内容となっている。

書評

1~4章(VCのメカニズム)

 目指すべき企業としてヴィジョナリーカンパニー(以下VC)という概念を掲げ、様々なデータを基にVCは他の企業とは何が違うのか客観的に比較、分析をすることで時代の変化にも負けず、あらゆる苦境を乗り越え、長く成功し続ける企業を作るための指針を定めたものである。これは経営者に限らず、組織で働く者にとっても経営者意識をはぐくみ、自分のチームの成果を上げることにもつながるだろう。
 加えて、VCは単に利益を上げることだけを目的としておらず、自社の使命を第一として時には損失も厭わずに事業を行う。再三こういう事例がこの本には出てくるが、本当にクールで従業員としてもこの企業に属していることを誇りに感じるだろうということがたやすく想像できる。
 この本を読む前は会社の進む方向性は経営者が決めるものだと考えていたが、基本理念に則りその時々で各々が考えることがあるべき姿なのだと考えるようになった。そのため、基本理念は社員全員が深く共感を感じるものでなければならない。同じ基本理念に共感を覚えるということは価値観が近い社員が集まっていることを意味し、その会社では賃金のためや「上司に言われたから」のようなこと以外に自分が働く意義が示されている。そしてそれを達成することに喜びを感じられるからこそ同じ目標に会社が一丸となって取り組むことができるのだ。
 こうして書くと当たり前にも感じるが、概念的なことは知っていたが実際にそれをどのように経営に組み込んでいるかを企業名を出し、多数の事例で紹介していることがこの本の優れている点である。
 フォード社は、当時高級品で庶民が買えなかった自動車を安く大量に生産する技術を編み出しT型自動車を庶民の手の届く価格での量産化に成功した。ただ利益を求める姿勢ではなく、「自動車を大衆の手に」という目標に全力でチャレンジをし続けたからこそこれは成し遂げられた。自身と従業員の多大な時間や、失敗すれば倒産は免れないであろう財務上のリスクを負い、経済界でのバッシングを受けながらも目標のために動き続けたことは称賛に値することであると感じる。

6~10章(VCではどんなことが起こっているのか)

 ここまで書いてきたように、VCではカリスマ的指導者に導かれた訳でも、画期的なアイデアを基に成功したわけでもない。VCで働く者たちがそれぞれ理念や目標に共感し、その企業で働く意義を見出し工夫を忘れずに仕事に打ち込んだことが重要なことである。その指針となる企業理念、目標は利益よりも優先されるものであり絶対にブレてはいけないものである。
 VCではそれを維持するために入社するものには厳しい選別をし、教育を施す。そして理念に則り行動し続けることを社員にも求める。そのため通常の企業よりも従業員に精神的な結びつきを求める傾向にあるので、VCで働けば誰もが幸せになれるとは言えない。むしろ、個人的趣向が企業とズレていた場合はそこはとても窮屈な場所となり惨めな思いをすることとなるだろう。
 ノードストロームに入社した者は学歴や出自に関係なく全員が一番下の店員か倉庫番から始まるが、一年後には半分が辞めてしまうという。顧客に最高のサービスを提供することを至上の使命としており、そのために猛烈に働くことができるものしか続けられないような環境を作り上げているからだ。個人成績は全体にわかるように貼りだされ、成績が低いものに与えられる給与は低く、高いものは給与の他に好成績の出しやすい時間帯で働けたりするなどのチャンスを与えられる。売り上げの他にも監視員が勤務態度を評価したり従業員を管理する規則が整っており、ノードストリームで働くもの(ノーディ)としての高い意識を保ち続けることを強いられる。
 VCは、従業員がそれぞれ問題意識を持ち取捨選択をすることで変わり続けることで時代の変化にも柔軟に、かつ正しく対応していくことで道を間違うことなく売り上げを伸ばしてきた。無用に社長や上司の顔色を伺うことなく、理念に背くことなく、時代に適したアクションをして危機的な状況から活路を見出した経験をしてきていることが多い。3Мの制度はこれが顕著と言える。
 3Mでは新事業が生まれることを奨励しており、未だ収益化のしていない新事業に時間を割くことを奨励している。また奨励しているだけではなく評価制度にも売り上げのうち新事業が占めた割合が繁栄されており、従業員に対するムチとして機能している。
 そのほかにも経営者は必ず生え抜きの者を選んだり目標を達成した後でも従業員のやる気を引き出すように様々な仕掛けをすることなどで、VCは従業員に理念に従い進歩を続けるように強いる。

まとめ

 なぜここまで理念を遵守し、進歩を続けるように経営を続けられるのだろうか。企業は一般には利益を追求するための集団だとされているが、私は企業が長く経営し続けられるためには人々に愛されることが必要だからだと考える。企業が売るモノ、サービスは優れているものでなければ買ってはもらえない。優れているものを生み出すために必要なものは何だろうか。高い技術力やいい材料を仕入れることも重要だが最も重要なのはお客さんが何を欲しているか考え、従業員が最高のパフォーマンスを発揮することでそれを叶え続けることだと思う。
 利益を上げ続けるには儲かる方法を考えるのが正しいと考えるのが当たり前だがそうやって目先のことを考えていてはお客さんや従業員は置き去りになってしまう。一人の力だけでは長く愛される企業を作り上げることはできない。理念の下に集った集団の中でそれぞれが多様性を発揮し、不断の努力を続けなければ正しく経営を続けるのは難しいのだろう。


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