見出し画像

桂米團治独演会とお手紙とカレー

遡ること二週間前、桂米團治独演会を聴きに行った。
多少なりとも上方落語の知があれば言わずもがなだろうが、五代目 桂米團治さんのそれである。お父上の落語はCDやLP盤(父の趣味である)で聞いたことがあったが、残念ながら存命中に、直に拝聴するのは叶わなかった。
人生初めての、生落語であった。

米團治さんの席は三席「子ほめ」「親子茶屋」「猫の忠信」。それぞれに枕が付いているが、流れるように噺へお繋ぎになる(十五年前の米團治襲名にあたり、寄席で挨拶をする際、無意識に「春團治を襲名する運び…」と言ってしまい、当時の春團治さんに「私は何になれば良いの?」と突っ込まれ、後日お家に挨拶へ行った時は「米團治を襲名する…」と言えたことに「よく言えました」と言われたという枕が、面白過ぎた。当時、大々的に各メディアで、“米團治襲名”と報道されたことは覚えている)。

マスク着用の昨今、笑い声こそ憚られるが、静かに笑う分だけ涙が出る。
当然ながら、お着物の所作も美しい。登場から高座へ上がられるまでの数歩に品と華があり、芸になる。三席目の紋付きなど、それだけで見惚れてしまうほどだった。



独演会から数日後、米朝事務所 米團治さん宛てに封書と菓子折りを贈った。
米團治さんは各種SNSを開いていらっしゃるし、Twitterでは返信もなさっている。それを知りながら一筆したためたのは、私の趣味(と性格)である。

私は、(何でも)SNSで済ますインスタントさに抵抗がある。手紙には手紙にしかない良さがあると信じている。素晴らしい三席を拝聴したのだから、その感動は直筆で伝えたかった。お礼状、ファンレターどちらともとれるものを送ったことに、勝手に満足していた(久しぶりに略さず、時候の挨拶から書いた)。それで終わるはずだった。



三日前の夕方、一通の封書を受け取った。差出人は、米朝事務所 桂米團治とあった。驚いた。なんと、米團治さんから直筆のお手紙を頂戴したのである。筆跡の癖から察するに、ほぼ間違いなくご本人の手書きである。


実際に落語を聴きに行くまで知らなかった(調べたことがなかった)が、米團治さんはほとんど連日のように、どこかで高座へ上がられるようだ。独演会だったり、一門会だったり、その他だったりと形式はさまざまだが、とにかくどこかでお噺をされている。高座へ上がる以外にも、お弟子さんのお稽古もある(昨年末にNHKの取材が入っていたが、住み込みの内弟子さんもいらっしゃる)。

とにもかくにも、落語会に足を運んだ一介の客の手紙(と菓子折り)に返信を書くほど、時間が余るような方ではないはずなのである。多忙な日々の中、わざわざその時間を作って下さったのだ。そのお気持ちに、まず感激である。
加えて、表書きから全て(おそらく)自筆という点が、さらなる感動である。署名だけ直筆という手段もあるし、お礼状のテンプレートも山ほどある。
だが、それらを一切使わずに、手書きして下さったのである。



噺家としての偉大さだけではない、米團治さん人の良さと大きさを感じた出来事であった。

末尾ではあるが、米團治さんがプロデュースされたカレーが購入できるサイトを貼っておく。米團治さんは、とってもカレーがお好きなようだ。落語に足を運ぶ機会がなくても、カレーならばいつでも購入できる(私は、米朝事務所の回し者ではない(笑))

http://beicho88.shop-pro.jp/?pid=161611370


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?