扉の色
広げたままの日記の上に、持っていたペンを置く。
思いつくままに書いたはずが、気づけば愚痴ばかりのそれに、ため息が出る。
心の奥を覗けば出てくるだろうピュアで透明な一面を、自分にすら見せる勇気がない結果の、ゴミみたいな文章。
ああ、心が軽くなるゴミなんてものがあればいいのに…。そうすれば、道端の不法投棄なんてみんな無くなるわ。
そう苦笑いし、日記を閉じる。かわいい表紙に罪悪感を感じた。
今日は、進路を決めるための初めての面談だった。
先生は「自分らしく生きるためのドアを選びなさい」なんて言ってたけど、自分らしいドアって想像がつかない。
ポップ?楽しい?それとも後ろ向き?
先生には悪いけど、後ろ向きのポップなピエロが描かれたドアの先にどんな就職先が待っているのか、私には想像ができなかった。
携帯が鳴り始めた。画面を見ると、友人のミキからだった。
「もしもし、どうしたん?」
「あ、サキ、今日の面談なんだけどさぁ…。サキ、進路希望に何て書いた?」
私は、無難なものを適当に書いたことを話した。
「で、ミキは何て書いたの?フツーに会社員?」
「…あたしは、白紙で出したの。」
「へ…?」
「あたし、アイドルになりたいの!!」
「…は?」
なんとも間の抜けた声しか出せなかった。
アイドル…?今から…?失礼だけどその顔で…?
ミキは、アイドルになるというその夢を滔々と語り、そして電話を切った。
思えば、ミキの夢なんて初めて聞いた。
彼女の背中の向こうに、華やかな色の扉が見えた気がした。
私はもう一度日記を開き、今日の分の最後にひとつ付け足した。
"進路希望……後ろ向きでポップでピエロな看護士"
日記を閉じると、かわいい表紙が笑っていた。
終
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