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訪問看護とリハビリの議論に思うこと

こんにちは。ホワイトボックス(株)コンサルティング部の阿部です。

少し前の話しになりますが、一昨年(2020年)11月に行われた介護給付費分科会で、神奈川県の黒岩知事が訪問看護ステーションの基準について、興味深い発言をしていました。

「訪問看護の人員配置」について、黒岩知事がリハビリ専門職による訪問看護の抑制策に次のような異議を唱えたのです。

(略)そこで、訪問リハビリ事業所の人員基準等について提案を行いたいと思います。現状では、訪問リハビリ事業所の開設は、病院や診療所、老健、介護医療院に限られています。しかし、これ以外の事業所であっても、主治医など医師との連携体制が図られている場合は医師の配置を必要とせず、開業を認めること。つまり、リハビリ専門職のみで開設、これを認めるといったことにすべきだと考えております。こうした見直しにより、リハビリ専門人材の活躍の場を広げ、訪問リハビリの充実とともに、訪問看護の本来の役割を踏まえたサービスの提供にもつながることが期待できます。
神奈川県も県立保健福祉大学で理学療法士などの専門教育を行っているところであります。彼らがこの専門性を生かして、この社会のニーズにしっかりと独立して応えていける、そんな体制をつくるということが今、非常に重要なテーマだと考えているところであります。(略)
2020年介護給付費分科会 議事録より

引用元はコチラ ↓


▽訪問看護とリハビリの狭間にある諸問題

黒岩知事は「抑制策が導入されると運営基準をクリアできない事業所も現れ、結果として地域全体のリハビリ提供量が減少する」、「医師との連携が図られている場合には、リハ職のみでも開業を認めるべき」とし、「リハ職がその専門性を活かし、しっかりと独立して社会にニーズに応えていける体制をつくることが重要だ」と主張しました。

是非はともかく、この主張は現在の議論に一石を投じる非常に重要な発言だったと認識しています。

少し解説を付け加えると、例えば現在訪問看護ステーションを開設できるのは営利法人でも可能ですが、管理者は看護師資格を有するものとされています。そのため、理学療法士等の有資格者は営利法人代表として開業することはできますが、管理者になることができない現状があります。

一方で訪問看護ステーションの数は増えているなか、サービスの中身を見ると、訪問看護よりも理学療法士によるリハビリの提供量が多いということなどが問題視され、診療報酬上では減算規定などが設けられ、改善が重ねられてきました。

☆キラリと光る☆病院マネジメントのヒント vol.30より引用


▽規制の背景

ただ、この話しは単純には片づけられない側面もあります。というのも、病院や施設ではリハビリの提供体制について、リハビリ室の規模や内容によって人員の基準が定められていることから、理学療法士等の有資格者の獲得に苦労している施設があることも現実に起こっていることが背景にあり、要件を緩和してしまうことで人材が流出してしまうことも懸念されているからです。

また、「質」という問題もあるかもしれません。先にも述べましたが、これまで訪問看護を巡る議論においては、訪問看護ステーションのサービスとして、看護師によるサービスよりも理学療法士等によるリハビリのサービス提供量のほうが多いことが度々議論の俎上(そじょう)にあがり、報酬改定の度に減算措置がとられてきました。

このことについては、もちろんリハビリが単なるマッサージの延長になっていたりするようなことは避けなければなりませんが、この先LIFE等を活用したデータの提出が進んでいくのであれば、アウトカム(成果)を指標に、質の高いサービスを提供する事業所の線引きをつけることも可能だと理解しています。

黒岩知事が言うように、医療機関との連携がとれている事業所等といった条件も踏まえ開業に係る諸要件が緩和されれば、市場の競争も行われ、より活性化された良いサービスも生まれるのではないかと個人的には思っています。


▽おわりに

日本の人口はすでに減少局面に入っていますが、コロナ禍によって出生数の減少は加速し、2021年には80万人を割り込むという予想もされています。

この流れは当初の想定していたシナリオより10年以上も前倒しの流れといわれており、コロナが時計の針を進めたというのもあながち間違いとはいえない状況にあります。

サービス提供の在り方や評価の仕方を含め、様々なことの時代の岐路に私たちが立っていることは間違いありません。

2022.02.13 阿部 勇司

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