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読書譚7「萬葉集物語」

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【萬葉集物語】

1952年12月20日 初版発行

著者:森岡 美子

発行所:(株)富山房インターナショナル


▽読書譚7

最近、日本在住の外国人に日本語を教えるボランティアグループに参加する機会を月2回程度もつことになりました。まだ数えるほどしか参加していないのですが、教材資料を購入したりしながら準備をしているなかで、改めて日本語って難しいな…と感じています。

あるグループの学習に参加したときには、源氏物語のことが少し話しにでたのですが、私は著者とタイトルくらいしか知りません。そのときの講師役のボランティアの人も同じ状況ではあったのですが、外国人に何かを教えようと思ったとき、自分の国の文化を知っておくことも大切だな、と思ったのがこの本を手にするキッカケでした。


▽きれいな日本語に触れる新鮮さ

ボランティアのレッスンが終わったその足で、さっそく図書館で万葉集に関する本を何冊か物色してみることにしました。古典的な難しそうな本から、万葉集に収められている歌集を集約した本など様々ありましたが、なんだかどれも途中で挫折しそう…

「春はあけぼの。ようよう白くなりゆく山ぎわ。」短歌というと、真っ先に浮かぶのはこんな程度の知識しか持ち合わせていない私にあうような本はないかな…。そんな諦めを少し感じたころ、「お菓子のない国。それがどんなにつまらない、さみしいものであるかはみなさんもよくご存じでいらっしゃいましょう」、冒頭こんなふうに綺麗な言葉で語りかけるようにはじまる森岡さんの文章に、万葉集に対する無知な私は安心感を感じ、この本を読んでみることにしました。


▽知らないことだらけ

万葉集には約4,500首の短歌を中心にした歌が収められています。629年~764年の約140年の間に、ときの天皇が詠ったものから、だれが詠ったかわからないものまでの歌集が集められている日本最古の歌集。

「集」というくらいですから、誰かがそれらを集め収斂している訳ですが、考えてみればそんなことに思いを馳せたことすらありませんでした。

またこの時代ひらがなはまだ存在しておらず、漢字の音と訓で表現されたこれらの歌集は、当時から200年も経てばすでに解読には困難を伴いながら編纂されたものであることなど、自らの想像力の欠如に若干の恥ずかしさも感じつつも、やさしい言葉遣いに導かれて本をめくるページはどんどん進んでいきました。

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▽想像力

なんで万葉集が研究されるのか。

万葉集に限ったことではないのかもしれません。なんで古い書物や地層などが研究されるのかといえば、それは過去にあった出来事を学ぶことで、より良い未来につなげていこうとする行為そのものなのかもしれません。

それを学ぶに値する歴史がある国であること。それも幸せなことなのかもしれません。1,300年前近くの人がすでに字を知り、使っていたから当時を知ることができる。

万葉集に集められた歌は、必ずしも知識人が詠ったものばかりではないことは先に触れました。作者不詳とされる歌が、この本のなかにも多数でてきました。

「識字率(文字を読み書きしたり理解する能力)」。歴史上、日本が他の国に比べて識字率が高かったとことは、結果として高い文化を営んできたことと無関係ではなかったのだと理解しています。

それなのに自分の国の文化や歴史を知らないのはもったいないこと。

この本を読んで感じた一番のことはこれでした。

昔の人


▽お気に入りの言葉

学生時代、古文の時間で勉強したはずですが、古文がなんの役に立つのか理解できないまま授業を受けていた私。

でもやっぱり違うんですネ。

学ぶことは役に立つとか立たないとかという軸だけで考えるのではなく、何かを考える素地をつくってくれるものだったり、せわしない毎日をほんの少しでも彩ってくれる教養というものを与えてくれる機会なんだと思っています。


ところで、私は勉強は得意ではありませんでしたが本を読むのは好きなほうでした。また歴史では日本の幕末史が好きで、この時代を背景にした本はわりと読んだほうかもしれません。

「身はたとえ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留めおかまし 大和魂」

「世の人よ 人はなんとも言わばいえ 我為すること 我のみぞ知る」

「面白き こともなき世を面白く すみなすものは 心なりけり」

「親思う 心に勝る親心 けふの訪れ なんと聞くらむ」

そらで覚えている歌はこんな感じなのですが、学生時代レスリングをしていた私は、どちらかといえばこうした勇ましいものに憧れをもっていたことが、自分の記憶しているものからも恥ずかしながら読み取れます(笑)。

ですがこれからは、少し趣を変えてみるのも面白いことだと、この本は興味の対象を広げてくれました。


話しは変わりますが、最近では旅先で本を読むという時間を持つことが私の好きな時間になっています。

この本も、週末の妻との旅行で宿に着いてから読みかけのページをめくって読了したのですが、豊かな時間を過ごすことが消耗した神経に栄養を与え、また続く日々にエネルギーを与えてくれる。それは必ずしもビジネス書や自己啓発系だけの領域ではなく、この国に脈々と受け継がれてきた文化を知ることでも十分満たされるものだと感じました。

千年以上前の時代に暮らした人たちも、私たちと同じように感じ、暮らしていたこと。そんな時代に思いを馳せるのも「いとをかし」ですネ。

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2021.11.21 阿部 勇司




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