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読書譚10+1

【フランシス・ウィーン「マルクスの資本論」】

2,007年第1刷発行
著者:フランシス・ウィーン
訳者:中山 元
発行所:株式会社ポプラ社


【14歳から考える 資本主義】

2020年初版第1刷発行
著者:インフォビジュアル研究所
発行所:株式会社太田出版


▽読書譚10+1

民主主義が危機に立たされていると言われています。岸田首相は所信表明演説で「新しい資本主義」の実現を掲げ演説をうち、昨年10月と11月には「新しい資本主義実現会議」なるものも行われたといいます。

日本において資本主義が本格的に高まり始めた機運は、明治維新以後といわれています。とういことは、私たちが生まれてからすでに資本主義は身近にありましたが、あいにく「資本主義」ということについて深く洞察したことはありませんでした。そこで、図書館に行ったついでに手に取ってみたのが今回の2冊でした。

資本主義といえば、経済学に疎い私でもカール・マルクスが書いた「資本論」が頭に浮かびました。しかし、そこにあった「資本論」は分厚く字も小さい…。

まずは入門編で自分に向いたものが何かないかと物色していたところ、フランシス・ウィーンが書いた「マルクスの『資本論』」が目に留まりました。「資本論」に関する説明書はどれも初心者にはとっつきにくい感がありますが、この本は当時の時代背景やマルクスが書いた手紙などをもとに、資本論が世に発行されるまでの過程が小説風に書かれていました。ページ数も200㌻ほどで丁度良い厚さ♪。これなら初心者の私でも最後まで読めそうだということで、この本で資本主義について触れてみようと思いました。

▽大いなる誤解

資本主義を説明している本=資本論。こんな風に思っていた勉強不足な自分がそこにはいました。資本論は確かに資本主義について書かれている本ですが、その本質は資本主義に異を唱える革命書のような位置づけであることをそれまで全く知りませんでした。

資本主義システムのもとでは、労働者の社会的な生産性を高めるために実行される方法は、すべて個々の労働者の犠牲のもとで採用される。生産を向上させるあらゆる手段は、・・・・労働者を人間の断片のようなものに変えてしまい、機械の付属品に貶める。そして労働者にとっては労働そのものが拷問になり、労働の内容が破壊されるのである。科学が独立した力として労働のプロセスに組み込まれると、労働者は労働のプロセスにそもそも含まれていた知的な可能性から疎外されることになる。それは労働者の働く条件をゆがめ、労働プロセスのもとで働く労働者をきわめて卑劣な専制に従属させることになる。労働者の生活のすべてが労働の時間になり、妻子は資本の偶像ジャガナートの車輪の下に投げ出される。したがって一方の極において富が蓄積されると、他方の極、すなわち労働の産物を資本として生産する労働者階級においては、窮乏と、労働の拷問と、隷属と、無知と、残忍化と、道徳的な退廃をもたらすのである。

フランシス・ウィーン マルクスの「資本論」

…とま一部を引用するとこんな感じで、資本家と労働者の在り方、産業革命により世界が飛躍的な発展を遂げようとするその足元で、工場労働者の悲惨な状況をみたマルクスが、資本主義を分析して、その異を唱えたのが「資本論」であることを初めて知りました。

「異を唱えた」というと少し語弊があるかもしれませんが、世界中で翻訳された資本論がロシアで人気を得、レーニンによりロシア革命が主導されて世界で最初の社会主義国「ソ連」が誕生したことを鑑みれば、やはり異を唱えるものであったと捉えることもできるのではないかと理解しています。


▽教育という環境

文字ばかりが並ぶ難しい本だけでは、ちょっと難しそう…。ということで、イラストがふんだんに使われている「14歳から考える資本主義」も保険的意味合いで手に取っておいたのですが、これが正解でした。資本主義の考え方の誕生から、いま抱えている問題までがとても分かりやすく書いてある良書でした。

どちらかといえば、この本もいまの行き過ぎた資本主義に警鐘を鳴らす意味合いが強いようにも感じますが、本書のなかで紹介されている経済学の専門家の著作のいくつかにも興味をもたせるような構成になっていて、なかでも「宇沢弘文」さんには単純に興味を覚えたので、機会をみて著作を手に取ってみようと考えています。

ところで、この本の副題は「14歳から~」とあるように中学生からをその対象にしていますが、大人でも十分楽しめる構成になっています。そもそも「貨幣」という虚構になぜ価値がついたのか、という出発点から丁寧かつ大胆に時をおって解説してくれているので、経済学を知らない私のようなものにも理解しやすい内容になっているのでおススメの一冊です。

ただ、もしこれを14、15歳頃の自分が読んでいたら、どのような感想をもったかということを考えると、微妙な感じもあります。単細胞なまま身体だけが大きくなったような当時の自分が、もしこの本を読んでいたとしたら、富の偏在に不平等を感じ、もし不遇な境遇にいたらその境遇を恨んでいたかもしれません。そこで抱いた負の感情が動力となりプラスの方向へ進めば良いですが、場合によっては負の感情のまま動き、斜に構えたまま成長してしまっていたかもしれません。

そう考えると、子供の頃に本を読むことは大切ではありますが、もっと大事なことは本を読んでどう感じ、どう考えたかを親や周囲と話すということがとても重要なことではないかと考えさせられました。


▽何のための豊かさか

「正義なき力は暴力なり。力なき正義は無力なり」と言われます。これはそのまま、経済ということに置き換えても通用する言葉だと理解しています。さしずめ、「正義なき経済は多害なり。経済なき理想は無力なり」といったところでしょうか。

お金がないと、やりたいことがあってもできないということは、これまで何度も経験してきました。人生の折り返し地点を過ぎた私にとっては、今からお金持ちの資本家になろうという気もありません。ただ、やはり飢えや寒さを凌ぐ一切れのパンや屋根のある住まいは必要ですし、それが少しでも上等のものであれば、はやり嬉しいものです。

身の丈にあった生活から、ときどきちょっとだけ背伸びをしてみる。そして、そんな嬉しい空間を一人でも多くの人と分かち合う。そんな周囲の空気を醸成するために、やってくる明日をほんの少しの向上心と好奇心をもって迎えたいと思います。

2022.01.08 阿部 勇司



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