【雑感】2023年J2リーグ 第25節 対町田ゼルビア~サッカーで勝負するから~

東京ヴェルディ 2-2 町田ゼルビア

 首位決戦、バスケスバイロンの禁断の移籍で話題を集めた東京クラシック。先制、追加点と相手の思う壺になり苦しい展開になったヴェルディ。粘り強くひたむきにサッカーを続け追いついた同点劇を振り返りたい。


スタメン

 前節・長崎に1-2で敗戦を喫したヴェルディ。千田、稲見がスタメン復帰し、右SH甲田とFW染野は移籍後初スタメンと4名を入れ替えて臨む。半年ぶりに復帰となった染野は加入後いきなりの起用となる。
 一方の町田は前節・大分に3-0で快勝。この日はデュークが出場停止で藤尾が代役を務める。ポープは古巣との対戦になる。

前半

 大観衆の天王山に舞台は整った。と思った矢先、いきなり試合が動く。いつものようにロングボールを使い陣地を稼ぐ町田。GKポープからのロングボールを繋ぎエリキへ渡るとヒールパスからのワンツーでヴェルディ最終ラインの背後へ抜群のタイミングで抜け出すとシュート。一旦はマテウスが防ぐもそのこぼれ球が流れてきた藤尾がプッシュし、首位・町田が電光石火で先制点を挙げる。スタメンに起用に見事に結果で応える藤尾がまさにいまの町田の勢いを象徴するものであった。

 先制点を挙げた町田は得意の必勝パターンに早くも入る。ヴェルディにボールを持たせながら、ボール奪取すると複数名で追い越す動きから鋭いカウンターで襲い掛かる。シーズンも半ばを過ぎてその精度の高さがさらに増してきている。 

 出鼻をくじかれたヴェルディであったが「まだ89分ある」と落ち着いてボール保持をして反撃に出る。中盤の森田晃樹と稲見がアンカーとIHの斜めの関係になり山田、染野のどちらかがIHの立ち振る舞いで1433のようになる。これに対して、町田は1442で構える。エリキと藤尾の2トップが千田と谷口栄斗へプレスをかけてボールサイドのSHが対面するSBへ縦スライドで対応する。DH下田と松井は前後のバランスを取るようにスペースを埋めることを行なう。その結果としてアンカーになる晃樹がフリーになることが多く、立ち上がりから晃樹が自由にボールに触れる機会が目立った。巧みなボールテクニックでショートパスをワンタッチ、ツータッチで捌き、時にはミドル・ロングパスでサイドを変える。前半からプレー関与が多かった晃樹を見ることもなかなか無い光景であった。SB奥山と翁長が中へ絞り気味でPA幅を4枚で固める町田、ヴェルディはサイド攻撃を志向していたので甲田と北島がサイドから仕掛ける回数が多かった。

 仕掛けからクロスを上げるも中を固める相手になかなか決定的なシュートは放てず、ボールを奪った町田がエリキ中心にカウンターを繰り出す。

 20分すぎからだろうか、ちょっとしたことで転び倒れたままで、その間に他の選手は給水しながらベンチでホワイトボードで支持を受ける。倒れてた選手も立ち上がったらすぐにプレーに参加するいわゆる「劇団・町田」の幕があがった。前半戦の戦いと何も変わっていない露骨な時間稼ぎは前節の長崎よりもさらに悪質なものであった。

 比較的ボールを保持して最終ラインから丁寧に繋ぐヴェルディ。中盤で捌こうとすると、これまでスペース埋める守り方を主としていた下田と松井がボールホルダーへ喰いつくようにプレスをかけ始め変化をつける。それも実ったように、自陣でのなんでもないスローインから稲見が一瞬トラップが大きくなったところを下田にボールを取られ、エリキ、藤尾とつながれて流し込まれ差は2点へ。

 先制点、時間をたっぷりと使ってプレー、リトリートしてカウンターと自分たちの思うが儘のプレーで町田が2点差で前半を折り返す。

後半

 ハーフタイム明け、2点ビハインドのヴェルディは千田と北島に代えて齋藤と加藤蓮を投入。稲見がCBへ落ちて齋藤が中盤に。蓮はそのまま左SHに入る。後半も前半同様にサイドから仕掛けてクロスで得点機会を狙うヴェルディ。ただ、藤原やチャンが身体を投げ出して徹底的に守る。追加点を挙げたSH安井もクロスに合わせようとする甲田のケアでPA内で守備意識高く、攻守に活躍を魅せる。その安井に代えて荒木を投入し、奥山をCBに入れて平河と翁長を両WBで5バックへシステム変更。これがこの試合のターニングポイントになった。ボール非保持時に15221で守る町田。エリキに対して稲見と栄斗の2枚で楽々ボールを運べたり、ロングフィードを蹴る時間が出来る。宮原と深澤大輝の両SBがサイド攻撃に専念出来て厚みが増す。WB平河と翁長に対してヴェルディは大輝と蓮、宮原と甲田の2対1でとことん勝負を挑む。

 首位決戦に高いモチベーションでハイパフォーマンスを見せていた谷口栄斗がエリキとのスプリントで足を痛めて無念の負傷交代。このタイミングで甲田ともにベンチへ下がり、山越と前節デビューの新井を投入。

 メンバー交代してもやる事は変わらないヴェルディ。この新井がゲームチェンジャーとしてこの大舞台で。ファーストプレーとなった69分。サイドチェンジで左大外でボールを受けると、奥山を交わして中へ侵入し、最後は右足でシュート。惜しくもポストに阻まれるもスタンドが一気に盛り上がる。その直後にもカットインからシュート。完全にサイドを制圧する。

 ゴール裏に陣取る緑のサポーターのボルテージも上がり、38,000人のスタジアムが熱狂し始めると、73分、右サイドでフリーの宮原が余裕をもってクロス。走り込んだ染野がGKとDFの間で上手く合わせてヴェルディが1点を返す。

 アシストを決めた宮原。昨季までJ1でプレーしていたその実力はこの日も抜群に示し、対人守備、技術の高さはピッチ上の22名の中でも別格であり町田にエリキならヴェルディは宮原といった圧倒感があった。
 町田はグディエレス、稲葉、宇野とフレッシュな選手を投入し守備の巻き返しを図る。しかし、依然として1点を挙げて押せ押せムード漂うヴェルディが主導権を握る。疲れが見え始めた山田に代えて綱島悠斗を入れて前線に高さとフィジカルを注入する。高い位置で起点を作れることが功を奏し、左サイドの新井の存在がさらに活きる。すると、83分、左サイドでボールを受けた新井が中へ仕掛けて行きクロス。相手に当たりながらもうまく走り込んだ染野が頭でそらすようにファーサイドへ流し込みヴェルディが同点においつく。今夏に再び加入した染野はストライカーらしいPA内の動き出し、この決戦でいきなり2得点の活躍ぶりを魅せる。

 同点に追いつかれた町田は、なぜか転がり倒れ込むことが無くなった。「劇団・町田」が終わったのだ。こういうスタイルだから嫌われるのだ。

 同点に追いついたヴェルディ。逆転も時間の問題かという雰囲気でそのあともサイド攻撃を仕掛けるも得点を奪えず、むしろ、カウンターから抜け出したエリキに超決定機を作られ、枠外のシュートで事なきを得てこのまま2-2でタイムアップ。

 ビハインドから追いついたものの勝点差は変わらず10のまま。離されはしなかったが3位以下がギュッと近づいて団子状態になり自動昇格争いは振り出しに戻った。

まとめ

 2点ビハインドも人数も声量も圧倒し、90分間応援しつづけたサポーターの力も受けて引き分けに持ち込んだヴェルディ。ほとんど選手はこんな大観衆でプレーしたことはないだろうし、浮足立っていた部分がお互いにあっただろう。前半は町田の術中にハマるようなヴェルディであったが後半もひたすらサイド攻撃を繰り返し、5バックへシステム変更した町田から2得点を奪った。特別指定の大学3年・新井は首位チーム相手にも存分にポテンシャルを発揮したあたりは末恐ろしいものだ。ここで大学の活動に戻るのが惜しまれる。一方の町田は前半戦よりもさらに精度に磨きはかかっていたものの、守りに入ってから失点し同点に追いつかれ、勝点2を失ったに近い。
 なんとか引き分けへ持ちこんだものの長崎、町田と上位陣との直接対決に勝てず勝点を伸ばせなかったヴェルディは3位以下とほぼ並ばれる状況に。昇格を掴むには自らの手で掴むしかないのだ。