【雑感】2020年J2リーグ 第33節 対京都サンガ~輝きを放った個性~

東京ヴェルディ 2-1 京都サンガ

 このまま引き分けかと頭によぎった時、井出の豪快なミドルシュートがネットを突き刺した。水曜ナイター敵地・京都へ乗り込んだ緑のサポーターは7試合ぶりの勝利に沸いた。組織的な崩しに個人技の高さが上手く融合された一戦を振り返ってみたい。

スタメン

 前節・徳島と熱戦を演じながらも試合終了間際のPKでの失点で敗戦を喫したヴェルディ。中3日で迎えたこの日のスタメンは前節変わらぬ11名。
 一方の京都も前節・栃木に敗戦。3枚入れ替えてこの日はこれまでは異なり4バックで臨む。

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数的、位置的優位を作るヴェルディ

 この日、京都のシステムは1442ベースだった。これまで3バックを基本としていたチームだったが、前回の対戦時にやられたこともあり4バックへ変化してきた。ヴェルディの選手たちの試合終了後のコメントでは立ち上がりは相手の立ち位置に戸惑いがあったようだが、見ている限りでは、相手を上回る攻撃が出来た試合の入りかだったと思う。

 ヴェルディはボール保持時、いつものように左SB福村が高い位置を取り最終ラインは3バック化。中盤は少し変化をつけてジョエルと井出が横並びで2枚。前線が5トップのようになり1325システムを形成。前線が最大5枚になり京都4バックに数的優位を作ることが出来た。

 右ワイドの小池はサイドに張り、対面する左SB黒木と1対1を作ることで引き付ける。これにより最終ラインは残り3枚、そしてSBCBの距離感を広げることが出来た。中央の端戸はCBヨルディバイスと本多の間に位置取ることが多く、左サイド福村と潮音が福岡に2対1の状況を作り、ここから攻撃を仕掛けることが目立った。

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 対する京都はリーグ得点王のウタカ中心の攻撃。開始早々に挨拶代わりにポスト直撃シュートを放つ。ボール保持時、DH庄司、川崎がCBとビルドアップ形成しながら前進していくとSHが内側へ絞り、SBに攻撃参加の道を開く。

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 このような形で攻撃を仕掛けるが、SH仙頭が最終ラインまで戻って対応することが増えて行き、だんだんとヴェルディが押し込む展開になる。最終ラインが5枚になって数的同数となるが、仙頭が下がってしまうことで今度は中盤が3枚になってしまい、所々に生まれたスペースをヴェルディの選手たちが上手く使いボールを支配する。

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会心の一撃

 後半開始から潮音⇒山下の交代が行なわれ、そのまま左ワイドに入る。依然としてヴェルディがボールを握る展開が続く。中盤がボールを持つと端戸が下りてきて組み立てに参加する所謂「フリーマン」の役目を果たす。この動きに対してマークするヨルディバイスの対応が遅れることが続き、端戸は比較的フリーな状態でプレーが出来た。端戸へ縦パスを入れて味方に落としてサポートの選手が前向きなプレーをする「レイオフ」が効果的に発揮され、そこから左右の小池と山下の攻撃力を活かす狙いが何度か見られた。

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 すると、51分、きれいな崩しからヴェルディが先制点を挙げる。祥平からミドルパスが端戸へ通り、端戸はジョエルに落として、ジョエルは素早く前線のスペースへ走る山下へスルーパスを通す。オフサイドかと一瞬思われたが、前半から何度も見られた小池と黒木の駆け引きによって最終ラインを押し下げており、山下は楽々と抜け出してフリーでGKとの1対1を落ち着いて決める。

先制点を挙げたヴェルディはそのあとも小池と山下の攻撃力を活かそうと縦パスを入れてPA内へ進入する場面が続く。良いテンポ、良いリズムで攻撃を仕掛けていき、追加点を奪えるかと思った矢先の出来事だった。

 55分、中盤でボールロストすると一気に攻め込まれて、守備陣形が整う前にウタカに最終ラインを突破されてシュートを決められて同点。あっという間に追いつかれる勿体無い失点だった。

 60分、京都は2枚替えをする。荒木⇒曽根田、宮吉⇒谷内田の交代で右サイドに居た仙頭が得意とする左サイドへ回る。

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この交代で京都攻撃は息を吹き返す。仙頭は得意のドリブルからチャンスメイクしていき攻撃を牽引していくとウタカの決定的なシュートもあり京都攻撃陣にゴールを脅かされる場面もあったがヴェルディ守備陣は何とか失点せずに持ちこたえる。
 一方のヴェルディも山本理仁、松橋優安のU19日本代表コンビを投入。両チームがゴール前まで攻撃を仕掛けていくことで次第に間延びしていきオープンな展開になる。この日好調な井出が前を向いてプレーする機会が増えて行きPA内まで侵入する場面も出てくる。

 試合終了が近づいた89分、勝利を決定づける鮮やかな得点が生まれる。京都のクリアボールに対して、若狭が仙頭より早く反応してボールカットすると中盤でフリーになっていた井出へ渡る。井出はドリブルで徐々に運んでいくとPA外から豪快に右足を振り抜き、ミドルシュートを叩き込んだ。これが決勝点となりヴェルディが7試合ぶりに勝ち点3を手に入れた。

まとめ

 今季加入した井出が本領発揮するかのように個的優位から素晴らしい活躍ぶりを魅せて7試合ぶりの勝利。ジョエル、端戸、山下・・・と各自の個性が十分に発揮され、連動した攻撃も迫力を魅せた。特にジョエルはこの日もアシストを記録。ここのところ数試合はゴールやアシストで得点に絡み続けており攻撃面でも結果を出すことで凄まじい勢いでの成長を感じさせる。
 中盤でのパスワーク、ローテーションしながらのテンポよい攻撃は復調の気配を感じるだけに得点を決めきるか否かがすべてを物語る。優平はPA外からミドルシュートを決めることがしばしばあるが、決勝点の井出のように他の選手も決め始めると攻撃の幅が広がっていくだろう。