【雑感】2020年J2リーグ 第1節 対徳島ヴォルティス~戦術・CB井出遥也は実を結ぶのか⁉~

徳島ヴォルティス 3-0 東京ヴェルディ

 キャンプでの練習試合では散々な結果に終わり、どうなるものかという心配と新加入の高橋祥平、大久保嘉人がやってくれるんじゃないかという淡い期待を抱き、はるばる四国・徳島へ。フタを開けてみると昨年とはちょっと違うサッカーが繰り広げられていた。結果としてはミスからの自滅で失点を重ねて0-3での大敗。しかし、その新しいサッカーの意図を説きながら、試合を振り返ってみたい。

スタメン

 栄えある開幕戦のヴェルディのスタメンは次の通り。GKには17年シーズン以来の出場となる柴崎、DFには澤井直人、山本理仁、8年ぶりに復帰した高橋祥平、奈良輪の4名。中盤の底に佐藤優平、フロントボランチに大久保とルーキーの藤田譲瑠チマ、ワイドにクレビーニョと小池、フリーマンにレアンドロが入る。見た目上のスタートシステムは1442と表記するが攻守において変則的な配置になった。
 対する徳島は昨シーズン、J1参入プレーオフ決定戦まで進出するもJ1湘南に惜しくも引き分けて涙を飲んだ。このオフはJ1への個人昇格など選手の入れ替わりが激しかった。それでもリカルド・ロドリゲス監督のもと築き上げられた明確なプレーモデルに沿って的確な補強がされて今年も昇格候補に挙げられる。スタートシステムはこちらも同じく1442。ヴェルディから移籍してきた上福元と梶川も名を連ねる。

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逆足配置するCB

 ストライカーとして得点を期待されている大久保がキックオフを過ぎても最前線に行かない様子を見て、驚きを受けた。果たしてどこの立ち位置でプレーするのだろうかと。試合後の永井監督のコメントにもあったがキャンプ期間から新しい取り組みをして開幕を迎えたとのことだった。
 スタートシステムは1442と言ってよいのだろうが、攻守においてその立ち位置は可変していた。ボール保持すると、2CBの理仁と祥平に加えてサイドアタッカーの直人が後ろに残り(奈良輪のみ片側上げ)3バックを形成。優平がリベロとして中盤の底に入り、ジョエルと大久保がフロントボランチ。右フロントボランチの大久保はボールが左サイドへ展開されるとボールホルダーへ寄っていき、数的優位を作ることもした。小池とクレビーニョが大外へ開き、レアンドロがフリーマン、奈良輪はハーフレーンをアップダウンしてボールを運ぶ特別なタスクを担っていた。

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 驚きがあったのが右利きの祥平が左、左利きの理仁が右と逆足配置したCBだった。試合前の練習からこの配置で反対サイドの大外レーンへ対角線のロングパスを蹴っていたからその予兆を感じてはいたが、まさか本当に試合で行なってくるとは思わなかった。大外で張る小池とクレビーニョへロングパスを送ってクロスから仕留めるもしくは数的優位を作りパスで崩してフィニッシュという狙いがあったのだろう。

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 10分すぎ、ヴェルディにとって最初でこの試合最大のチャンスを迎えた。中央からパスを通してレアンドロが簡単にさばくPA内の大久保へ、強烈な右足でのシュートを放つも古巣との対戦となった上福元に阻まれ、その後の二次攻撃でもレアンドロのクロスからクレビーニョがヘディングで合わすもまたしても上福元に止められてゴールネットを揺らせない。祥平がボールを持ち運び攻撃参加することも何回か見られ昨年とは違う場面も印象付けた。
 徳島もヴェルディの予想外の変化に、はじめは戸惑いを見せていた。しかし、主将・岩尾のコメントにあるように、レフティの理仁が右CBでの起用した狙いをピッチ上でしっかりと分析して、早い段階で対応をしてきた。最終ラインに対して前線の垣田や西谷はプレッシャーをさほどかけずにパスの受け手となる中盤の選手たちへの寄せを厳しくしたり、数的同数を確保することを行なった。結果として、理仁や祥平からの対角線上のロングパスはほとんど封じ込められることになった。

一瞬のスキを突かれて流れを失う

 ボール非保持時、レアンドロと大久保の2トップ、小池とクレビーニョが下りてSH化して1442で構える。対する徳島はスタートシステム1442からこちらもヴェルディと同じようにSB片側上げの3バックをして13421気味になる。足元の技術に長けたGK上福元と内田、ドゥシャン、福岡の3CB、藤田がWB化して浜下と両翼を担う。昨年は1枚になることもあったボランチには岩尾に加えて梶川がフォロー。前線には杉森、垣田、西谷を置く。
 ビルドアップからボールを繋いでゴールを目指す徳島に対してヴェルディはレアンドロ、大久保は最終ライン+GKに積極的にプレッシャーをかけてパスコースを限定していく。キーマンの岩尾に対しては優平がマークにつき徹底する。前からの守備がハマりボール奪取する場面もあり、昨年からは改善されていることが分かった。

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 しかし、32分、徳島のクリアボールを競った祥平が杉森に入れ替われてドリブルで運ばれて垣田シュート、一度は柴崎がシュートストップするものの西谷が詰めており先制点を喫する。すると、立て続けであった。37分、柴崎のミスパスを杉森がカットして西谷へ渡り、シュート、一度は柴崎が防いだが、こぼれ球を再び西谷が押し込んで追加点を許す。
 個人の技術的なミスからの相次ぐ失点に自信を無くしていく様子が明らかであった。そのあと、祥平が攻撃参加して変化をつけるがシュートまでには至らず0-2で前半を折り返す。

CB起用された井出遥也

 後半開始から直人に代えて河野広貴を投入してシステム変更をする。CBも順足配置に戻して祥平と理仁に加えてSBだった奈良輪の3枚に。クレビーニョと小池のWBの5バック気味でボール保持時に5トップ気味になる徳島へ枚数で対応。前線も広貴、レアンドロ、大久保を近い距離感に配置して連携で崩しから反撃を目指す。徳島のWB対策とも取れるこのシステムへんこうであったが中盤が2枚になったことが逆効果になり浜下を中心に被カウンターからピンチを招く。

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 55分、ヴェルディのCKから徳島がクリアしてそのボールを拾った西谷が独走ドリブルから落ち着いてシュートまで決めて移籍初戦でハットトリック達成してリードを3点へ広げた。
 完全に流れを手にした徳島はプレッシングの強度を高め、選手間の距離が間延びしたヴェルディに岩尾と梶川が自由にボールを持ちシュートの嵐となるが柴崎が持ち前のシュートストップで何とか持ちこたえる。
 奈良輪の役割も上述のとおり、キャンプから取り組んできた新しい取り組みの一つだったのかもしれない。前半からハーフレーンをアップダウンすることもあったが、後半になって最終ラインでCBに位置しているにもかかわらず攻撃時には前線まで駆け上がる場面が見られた。なかなかボールに触ることが少なったから目立たなかったため代わりに投入されたのが、本来は中盤のドリブラーの井出遥也だった。
 ボールを持つとドリブルで攻め上がり、他選手がボールを持っているとスルスルと上がっていき高い位置を取って攻撃のフォロー。試合前の練習で奈良輪はハーフレーンからPA内へ進入してクロスに合わせてシュート練習を行っており、そういったイメージでの役割があったのかもしれない。

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 78分、獲得したFKからクレビーニョが狙いすましたキックを魅せるも、またしても上福元が立ちふさがる。試合終盤には日体大卒のルーキー山下を右サイドへ入れて得意のドリブルからチャンスを作り得点を目指したが最後までゴールを奪えずに0-3でそのままタイムアップ。残念ながら開幕戦を完敗で終わった。

まとめ

 新しいシステム、戦い方をした永井ヴェルディについて自分なりにその意図を説いてみた。果たしてこれが正解なのか、次節以降も見ていかないと分からない。この戦術を次節・金沢戦でも行なうのか、はたまた昨年までのやり方に戻すのか併用するのか、それとも別なオプションを用意しているのか注目したい。
 個人技術のミスから相次いだ失点で自滅。しかし、失点前には決定機を作ることも出来ており、守備においてもボール非保持時は昨年から改善されており、ボール奪取する場面も増えるなど良い面も見られた。どちらかというとボール保持時の課題が浮き彫りになってしまったのだろう。相手最終ラインとの駆け引きをさせたい大久保が中盤底へ下りてこなければいけない状況やPA内での高いシュート精度を誇る小池のサイドでのチャンスメイクなどを見直して選手起用を改めていく必要を感じた。
 一方の徳島の組織としての完成度は間違いなくリーグ屈指、昇格候補にふさわしいだろう。ハードワーク、ゴールまでの設計図、攻守でのトランジションの速さなど素晴らしいものであった。
 そんな強敵相手にちょっとしたことからリズムを乱して一気に自信を失ってしまったチームには現地で見ていて不安を覚えた。緊張やミスから次第にプレーが小さくなっていったジョエルや理仁に対して百戦錬磨の大久保は試合後にかなり強い口調で話し込んでいた。この熱血漢に今年のすべてが懸かっていることが早くも分かる船出になった。