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筆者お薦め!梶原一騎作品10選・前編【2020年3月「昭和マンガから学ぶ男の生き様大全」より】

結果よりもプロセスの大事さを教える、スポ根マンガの金字塔

Select1 『巨人の星(画:川崎のぼる)』


週刊少年マガジン/1966年19号~1971年3号
※電子書籍あり

 主人公・星飛雄馬の成長譚を縦糸に、個性的な脇役たちとの波乱な展開を横糸にして織り成す壮大なストーリー構成が秀逸ですね。『巨人の星』の面白いところは、主人公がライバルに勝つときよりも、敗れてどん底に落ちて苦しんでいるときにあるんです。そこから這い上がろうとする展開が最もドラマチックで読んでいて盛り上がりますね。本作が大ブームになった頃に発刊された小説版の中で、「男の条件とは何か」について書かれた一文があるんです。それは「胸に理想の星を抱くこと」であり「そこに向かってひたすらに歩み続けること」だと言ってます。たとえ理想にはたどり着けなかったとしても、そこにどういう足跡を残せたかが人生には大事なのだと。結果でなくプロセスが重要だという本作のテーマは、現代でも十分に通じるものだと思います。梶原イズムをすごく感じさせる名作ではないでしょうか。


どん底から再び這い上がるストーリーが、人生を積み重ねた大人の心に響く

Select2 『新巨人の星(画:川崎のぼる)』

週刊読売/1976.10/2号~1979.4/15号
※電子書籍あり

 本作は『巨人の星』の続編で、当時の僕ら子供たちの間では「すごく微妙だ」といわれたりしてました。でも、それは当然なんですよね。なぜなら週刊少年マガジンではなく、大人向けの週刊読売で連載されていたものですから。だから当時読んだきりの人には、大人になった今こそ読み直してほしい作品と言えます。ストーリーとしては球団史上初の最下位に沈む巨人のために、今度は打者として再起を目指す飛雄馬がやがて右ピッチャーとして再びマウンドで活躍する展開なのですが、そこまでの過程が一年かけてじっくり描かれていてすごく面白いです。一度栄光を掴んで消えた男の、もう一度テスト生から這い上がろうとする執念が見事に描かれてて素晴らしい。大人になって何かを諦めた人や辞めてしまった人ほど、もう一度読み直して心に再び炎を燃やしてほしいと思うマンガです。年を重ねて色々な苦労を重ねた人であれば、心に染みるはずです。


誰もが感情移入しやすい主人公・番場蛮の陽気なキャラクター!

Select3 『侍ジャイアンツ(画:井上コオ)』

週刊少年ジャンプ/1971.36号~1973.32号(第1部)
1973.38号~1974.42号(第2部)
※電子書籍あり

 同じ野球マンガでも『巨人の星』の星飛雄馬は真面目ですよね。一方、『侍ジャイアンツ』の主人公・番場蛮はどんな苦難に遭遇しても笑っている。星飛雄馬を“陰”とするなら、番場蛮は“陽”なキャラクター。そこがまず魅力ですね。本作で登場する魔球も、全身を使って高く跳んで投げるとか、高速で回転して投げるとか、見た目のダイナミックさが面白い。そして女の子に惚れてドジ踏んじゃうとことかも最高ですね。だからキャラクターとしてすごく感情移入しやすいんです。馴染みやすい「隣の兄ちゃん」みたいな存在。ストーリーも連載初期に描かれた、集団競技としての野球の醍醐味も面白いし、架空のライバル以外にも他球団の実在する選手も多数登場するなど『巨人の星』以上に史実とリンクする展開もドキュメンタリーチックで面白いですね。チームの弱体化で連覇が危ぶまれるなかで、番場は鬼神の如く連投を続けた末にマウンド上で絶命します。彼のチーム愛の深さに号泣しました。


現代では忘れ去られた『無償の愛の大事さ』を教えてくれる作品

Select4 『タイガーマスク(画:辻なおき)』

ぼくら(1968.1月号~1969.10月号※休刊)
→ぼくらマガジン(1969.1号~1971.23号※休刊)
→週刊少年マガジン連載/1971年26号~53号
※電子書籍あり

 『タイガーマスク』の何が好きかというと、孤児のために役立とうと正体を隠しながら寄付を続ける主人公の、決して見返りを求めない“無償の愛”を描いていることです。組織を裏切ったことで命を狙われる危険な戦いを重ね、稼いだファイトマネーを全国の孤児たちにすべて捧げる。主人公が昔育った孤児院に対しても、これ見よがしに寄付するのでなく金持ちボンボンの伊達直人として、決して子供たちに負担をかけまいとおどけて振る舞う姿に感動しますね。「オレが子どもたちを幸せにしてやるんだ!」という想いを胸に、組織から送り込まれた奇怪なレスラー達と戦う名勝負の数々は読んでてとても面白く、心を打たれます。当時の僕はプロレスの世界のことはよくわからなかったのですが、相手のために尽くすという大事なことを教わった気がします。令和の現在でも“タイガーマスク運動”として実際に活動が続いていることも賞賛に値します。


空想の世界からリアルな世界へ。極真空手が一大ブームを引き起こす!

Select5 『空手バカ一代 (画:つのだじろう・影丸譲也)』

週刊少年マガジン/1971.22号~1973.44号迄(第1部~第3部)
1973.48号~1977.52号迄(第4部~第6部)
※電子書籍未配信

 このマンガを読むと自分も強くなれる、そう信じられました。『巨人の星』『侍ジャイアンツ』『タイガーマスク』といった作品に登場する必殺技は、子供ながらにも荒唐無稽なことはわかっていました。でも『空手バカ一代』の主人公の大山倍達は実在する人物だからこそ、物語で描かれる強さの信憑性が高まって僕らはよりリアルに夢中にさせられたんですね。連載当時その影響力は絶大で、子供から若者まで極真空手を学ぼうと人門者が殺到するなど世に極真ブームを巻き起こしました。大山倍達もですけど、マンガに登場する他のお弟子さんたちも道場に通えば教えてくれるんですからね。今では物語の大半がフィクションであることが証明されてますが、それでも語り部として梶原一騎先生が描く大山倍達の一代記とその弟子たちの物語は、少年マンガ作品としての面白さを存分に描き切れていると思う。当時刊行された単行本は全29巻で、週刊連載としては梶原作品最長の記録作品ですね。


筆者お薦め!梶原一騎作品10選・後編 を読む!