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テキスト版:昭和40年男の梶原一騎論

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(株)クレタバブリッシングから刊行されている隔月誌『昭和40年男』にて、2013年から2018年まで連載した「昭和40年男の梶原一騎論」の全話の本文とコラムをテキストのみで再録。
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#ながやす巧

第二十八回「愛と誠」(番外編)(2018年2月号より本文のみ再録)

第二十八回「愛と誠」(番外編)(2018年2月号より本文のみ再録)

 前号で最終回としたが、存分には語り尽くすにはやや不完全燃焼気味だったため、今回は「番外編」と銘打って早乙女愛と太賀誠の“愛という名の戦い”の結末を描いた最終章・政界疑獄編について語ってみたい。
 前々号でも述べたが『愛と誠』のテーマは、最終章以前の緋桜団編までで一旦の終結だと考えている。誠の愛に対するこれまでの冷徹な態度の理由やその真意も明かされ、物語はここで終わっても十分に納得できるものと言え

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第二十七回「愛と誠」(その7・最終回)(2017年12月号より本文のみ再録)

第二十七回「愛と誠」(その7・最終回)(2017年12月号より本文のみ再録)

 夜の雑踏のなか、独り涙を流して歩く太賀誠。『愛と誠』第四部は“のんべえ小路の女”の存在をめぐり、これまで描かれなかった誠の心の内側をメインに展開してゆく。当時筆者は、女性の存在とその真相に動揺する早乙女愛の心情とを合わせた愛のドラマとして読んでいた。しかしあらためて丹念に読むと、この展開の主役は誠とのんべえ小路の女=彼を捨て蒸発した母親・トヨであり、梶原はこの母子のもうひとつの愛のドラマに想いを

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第二十六回「愛と誠」(その6)(2017年10月号より本文のみ再録)

第二十六回「愛と誠」(その6)(2017年10月号より本文のみ再録)

 筆者はこれまで数回に分けて『愛と誠』こそが劇画原作者・梶原一騎の頂点に当たる名作であることを語ってきた。さらに付け加えるならば、本作を『週刊少年マガジン』で連載していた3年8ヶ月という期間のなかで講談社出版文化賞受賞を果たした時(1975年5月)こそが、その頂点と言えるだろう。小説家を志すも、生活のため意に沿わぬ原作の仕事を引き受け、『マガジン』誌上にて『チャンピオン太』(※1)でデビューしたの

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第二十五回「愛と誠」(その5)(2017年8月号より本文のみ再録)

第二十五回「愛と誠」(その5)(2017年8月号より本文のみ再録)

「きみのためなら死ねる!」
 「愛と誠」のみならず、昭和の恋愛マンガのなかでも屈指の名セリフである。我々昭和40年男であれば誰もが心打たれ、いつかは好きな人に告げてみたい!と妄想した経験があるだろう。このセリフを言った岩清水弘は早乙女愛への一途な想いを胸に秘めたクラスメイトで、太賀誠との愛の戦いに傷つき疲れた彼女を、やさしく支える癒し系のメガネ男子だ。決して報われることのない永遠の片思いに生きる姿

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第二十四回「愛と誠」(その4)(2017年6月号より本文のみ再録)

第二十四回「愛と誠」(その4)(2017年6月号より本文のみ再録)

 単行本売り上げ7百万部、劇場用映画3作、テレビ&ラジオドラマ化、イラスト集、写真集…。あの時代に『愛と誠』はなぜあれほどまでに読者を魅了し、大ヒットしたのだろうか?これについて、梶原本人は後に次のように述懐している。
 「当時、世の中はインスタント・ラブが横行し、連れ込みホテルにはディスコから直行する若者が増えていた。(中略)若者達の間に広がりつつあったインスタントな愛、安易な性意識に対して“男

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第二十三回「愛と誠」(その3)(2017年4月号より本文のみ再録)

第二十三回「愛と誠」(その3)(2017年4月号より本文のみ再録)

 「そもそもオレが芸能界と接触するようになったキッカケは、昭和四十八年、スポ根漫画にいき詰まり、『愛と誠』という作品を書いてからだ。(中略)映画界とは、原作者として深いつながりがあったが、まだビジターで、芸能界との中枢とはほど遠かった。それが『愛と誠』が松竹で映画化されたことによって、芸能界のヒノキ舞台へとオレは出て行くことになる」(こだま出版刊『わが懺悔録』より)
 『愛と誠』が劇画原作者・梶原

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第二十二回「愛と誠」(その2)(2017年2月号より本文のみ再録)

第二十二回「愛と誠」(その2)(2017年2月号より本文のみ再録)

 前号までに、梶原一騎作品史において『愛と誠』が重要な意味を持つエポックな作品であると述べてきた。その理由として本作の成功により、それまで果たせなかった“スポ根作家”のイメージからようやく脱却できたからであることはすでに書いたが、しかし理由はそれだけではない。“男女の愛”という壮大なテーマに挑み、“女性を描く”ことを見事に成し得たという点でもエポックだったのだ。
 それを裏付ける意味で、『愛と誠』

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第二十一回「愛と誠」(その1)(2016年12月号より本文のみ再録)

第二十一回「愛と誠」(その1)(2016年12月号より本文のみ再録)

 『愛と誠』は劇画原作者・梶原一騎にとって重要な意味を持つエポック的な作品である。本作の成功が“梶原一騎=スポ根作家”のイメージを払拭しただけではなく、さまざまなメディアミックスがなされ、これによって芸能界や映画界との交流が広がって、後に映画製作者や格闘技プロモーターなどの多彩な活動にもつながっていく。
 そうした意味で、梶原の劇画原作者としての半生を一本の横軸で表した時に、栄光の頂点(ピーク)に

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