マイナンバーカード成立後の諸事情

こんばんは。今日もお疲れ様です。

サイボウズ青野社長の問題提起

昨晩(日をまたいでしまったので一昨日の晩ですね)、サイボウズの青野慶久社長が、マイナンバーカードについてnoteで問題提起されておられました。

結論からすると、現行のマイナンバーカードは廃止しましょうという主張です。
また、世間一般の人は青野さんと同じ思いを共有しているし重要と思いますので、論点を全部引用させて頂いて、番号を振って整理したいと思います。

新内閣が発足してデジタル化推進が叫ばれる中、その中心的政策であり、普及に向けて大量の税金が投入されているマイナンバーカード。でも、いろいろおかしくない?
私の知識不足・勘違いもあるかもしれませんが、列挙してみます。これを機に議論が活性化することを期待しています。
①そもそもマイナンバーカードの目的がよくわからない。身分証明のためなら運転免許証や健康保険証でよくね?そもそも何が問題なの?
②カードに書かれたマイナンバーが漏れるとまずいらしい。漏れるとまずいのに印刷するの?みんなで便利に使うための番号じゃないの?
③カードには、名前や住所や顔写真など他の個人情報もプリントされる。落としたら個人情報がダダ漏れ。デジタル化する気ある?
④だから、付属のビニールのカードケースを使って個人情報を目隠しする。仕様としておかしすぎない?誰かツッコんでくれなかったの?
⑤でも、そのカードケースだとQRコードが見えるので、読み込めばマイナンバーが漏れる。お、おい!
⑥費用がかかり過ぎ。もう一兆円くらい使ってない?
⑦一兆円を無駄にした住基ネットの失敗が活かされてない。学ぶ気ある?
⑧マイナンバーシステムの管理項目が、住民記録システム(住民票)や戸籍システムとかぶっている。いい機会だから統合して効率化しようって話にならなかったの?それとも無駄が好きなの?
⑨ということは、日本の貴重なIT人材が、このおかしなシステムの開発に大量投入されている。日本のIT化の未来は暗い...
⑩4種類のパスワード(「利用者証明用パスワード」「署名用パスワード」「券面事項入力補助用パスワード」「個人番号カード用(住民基本台帳用)パスワード」)を目的に応じて使い分ける。それ、忘れる人が続出するよ。パスワードの再設定という新たな職務を創出したいの?
⑪生体認証を使えない。やっぱり4種類のパスワードを覚えるしかないのかー。仕方ないからメモに書いてマイナンバーカードと一緒に持ち運ぶか...あれ?
⑫利便性が低い。マイナンバーカードを使って給付金を申し込むと、自治体職員を激務に追い込み、もらえるのが遅くなるという逆利便性。もはや日本の生産性を下げるのが目的としか思えない。
⑬普及してない。そりゃそうなるよね。一回、落ち着いて反省した方がいいと思うよ。
⑭にもかかわらず、自民党はさらに大量の税金をぶっこんで普及に躍起になっている。これ、やめられなくなった負け戦に似てない?後で責任取るつもりないよね。
⑮マイナンバーカードを持っている人は、引っ越しして転出・転入手続きをするときに暗証番号が必要になる。つまり、持っていない方が無難ということですね。
⑯海外に転出したら返納。えっ、返す必要あるの?
⑰引っ越しをして住所記入欄が一杯になったら再発行。どんなデジタル?
⑱マイナンバーは目的外で利用すると違法。ごめん、マイナンバーを活用して欲しいと思ってる?
⑲マイナンバーカードに運転免許や健康保険証を集約しようとしている。返納や再発行が必要で目的外利用禁止のカードに集約するだと?生活できなくなるぞ!
⑳有効期限は自分で手書き。もう意味不明。
㉑自治体に業務の負荷をかけ過ぎ。発行・再発行だけでも大きな負荷。でもって、月数百万枚しか発行できないそうよ。自治体職員を殺す気?
どのような経緯があってこうなったかはわかりませんが、止めるなら早いほうが傷は浅いでしょう。少なくとも、一度落ち着いて考え直してみませんか。この国で快適に暮らすための大事な社会インフラですので、ぜひオープンに議論を続けていければと思います。
内容につきまして、変更や追記のご希望があれば、Twitterで@aonoに送っていただけましたら幸いです。しかしながら、すべてのご希望を反映できるわけではないことを予めご了承くださいませ。
それでは、そろそろ落ち着いて、いい議論をしましょう!


太田直樹さんからの回答

これに対して、元ボストンコンサルティンググループの経営メンバーとしてアジアのテクノロジーグループを統括し、2015年1月から2017年8月まで総務大臣補佐官を務めた太田直樹さんからの回答。

”いい議論をしましょう”(noteの最後)
そのためには、ある程度「経緯」を共有した上でやった方がいいと思います。青野さんがABEMA TVで平井大臣と話す前に、このnoteが書かれたのかもしれませんが、番組で明らかになったのは、
・ 平井大臣は、物理カードにこだわっていないし、個人番号を特定個人情報でなく普通の個人情報にしたいと答えている
・ ただし、多くのことが法律や制度を変えないとできない
ということです。
では法律を変えたらええやん、ということなのですが、マイナンバー制度が民主党政権下で成立したのは、それまでの歴史と成立したときの条件があり、その中には全国各地で争われた住基ネットへの訴訟も含まれます。
制度成立時に課された代表的な条件に、国が集中的に国民の情報を持たない、というものがあります。特別定額給付金のオンライン申請が、事前に家族の氏名等が印刷されている郵送方式と比較すると、自分で全て入力するアンケートフォームにならざるを得なかったのは、このためです。今後は、給付金に限った法律をつくり、制約条件を外すことになると思います。
また、マイナンバー制度が成立した後の経緯について言えば、この制度が成立したときの大きな期待の一つは「プッシュ型の社会保障」でした。いちいち申請しなくても、必要な人に必要な支援が届くというものです。代表的なものは「負の所得税」と言われる給付付き税額控除です。欧米の多くの国で導入されており、コロナについての給付にも使われています。海外が1、2週間で給付できるのは情報システムだけが要因ではありません。
日本のマイナンバー制度にも、当初このしくみの実現が謳われていましたが、その後「軽減税率か給付付き税額控除か」という議論になり、自公政権に変わって、公明党の強い声で、軽減税率が選ばれました。制度成立時の約束は、空手形になってしまったわけです。
デジタル世界で「あなたは誰ですか」を示すIDは、経済や社会を回していくために必要なインフラの一つです。新政権やデジタルチームが、この複雑に絡まった状況を変えていくことに期待しています。

・・・回答、という程網羅的には回答されてませんね。失礼しました。
でもマイナンバーカード成立時までの経緯はこの通りですし、野党から妥当な解決策が提案されるとも思えませんので、結論も同感します。

私に出来る範囲で回答してみます。

①マイナンバーカードの目的

上記で、太田さんが報告しております通り、平井たくやデジタル大臣(正式な名称忘れたけど、これでいいのかな?)が、物理カードにこだわってないと言ったそうですが、それではあまりに実も蓋もありません。
だったら、マイナンバー通知だけで十分じゃん...。

政府(内閣府)のHPで言われている回答は、以下です。

マイナンバーカードは、住民の皆様からの申請により無料で交付されるプラスチック製のカードです。 カードのおもて面には御本人の顔写真と氏名、住所、生年月日、性別が記載されていますので、本人確認のための身分証明書として利用できます。 また、カードの裏面にはマイナンバーが記載されていますので、税・社会保障・災害対策の法令で定められた手続きを行う際の番号確認に利用できます。

同じページの下の、「マイナンバーカードの利用場面」も読んでおく必要があります。

マイナンバーカードのICチップには電子証明書などの機能を搭載していますが、電子証明書を利用する際にマイナンバー自体は使用していませんので、民間事業者を含め様々なサービスに活用することができます。 例えば、マイナンバーカードの電子証明書で本人認証を行うことで、コンビニで住民票の写しや印鑑登録証明書を取得できるほか、確定申告などの行政機関に対する電子申請などに御利用いただけます。

でも、これだけでは、物理カードにする必要は、国民には切迫感を持って伝わるものではありません。

「コンビニで住民票の写しや印鑑登録証明書を取得できる」かどうかは、基礎自治体がその対応をしたかどうかによるので、「じゃあ、全国の自治体の何%が実現できてるんだよ」と野党議員が国会で質問したら、しょぼい回答が出てくるでしょう。

「政府の真の意図はこうだ!」的な記事は、検索するといろいろ出てきます。

一番大きい理由は、富裕層の所得税逃れを防ぐため、だそうです。

これは、民主党政権時代に成立させた法律では、その様な建付けでしたので、内閣府の説明にその記述がないのは、明らかに現政権の方針です。

しかし、この記事に言われているような個人の所得の名寄せは、マイナンバーカード自体が普及しなくても、富裕層の所得だけでも、支払者は必ず氏名と個人番号を税務署に報告するようにすればよいのですし、そうなってます。
逆に、今実現できているレベル以上にそこを精緻化するのは、マイナンバーカードの普及率は関係ないでしょう。

反対に、今支援の必要がなくても、勤務先が倒産したり事故にあったり病気になった場合に、必要な支援がマイナンバーカード一枚で手当てされるのであれば、それは持っておいた方がよいね、と国民に納得してもらえるでしょう。

ただ、マイナンバーの通知書に比べて、マイナンバーカードの方が紛失しづらいでしょ、位の違いでしかないように思います。

なお、上の青野さんの質問に対する答えですが、運転免許証は運転しない人も居ますし、健康保険証も、本当に生活に困って居る人は、国民健康保険すら支払いが難しいかも知れませんから、それを補完するセーフティネットが必要です。

また、顔写真がない健康保険証は、本人確認資料にはなりますが、身分証にはなりません。

って、内閣府がはっきり宣言して、だから皆さん、マイナンバーカードを持ちましょう、と呼びかけたらどうなんですかね。

②カードに書かれたマイナンバーが漏れるとまずいらしい。漏れるとまずいのに印刷するの?みんなで便利に使うための番号じゃないの?

それは、他の個人情報と同様です。

漏れるとまずいのは、身分証一般に印刷されている情報と同様です。

③カードには、名前や住所や顔写真など他の個人情報もプリントされる。落としたら個人情報がダダ漏れ。デジタル化する気ある?

これも、上の②と同じです。

落とす危険が高い人は、必要最低限の持ち物にすべきで、身分証は必要と思われるときだけ携行すべきでしょう。

④だから、付属のビニールのカードケースを使って個人情報を目隠しする。仕様としておかしすぎない?誰かツッコんでくれなかったの?

付属のカードケースを使うかどうかは、本人の裁量でしょう。

⑤でも、そのカードケースだとQRコードが見えるので、読み込めばマイナンバーが漏れる。お、おい!

不用意に第三者に読み込ませないようにしましょう。

⑥費用がかかり過ぎ。もう一兆円くらい使ってない?

費用がかかり過ぎ、というのはご指摘の通りです。
われわれの血税なのに。
しかし、それをチェックするのは国会議員の仕事です。
ちゃんと仕事が出来る人を選ばないと、こうなってしまうんですよ。

⑦一兆円を無駄にした住基ネットの失敗が活かされてない。学ぶ気ある?

一方、こちらは国民へのブーメランです。

ここでマイナンバーカードをやめてじっくり議論する?
住基ネットで一兆円無駄にして、マイナンバーでまた一兆円無駄にして、その次のシステムでまた一兆円無駄になってしまうだけです。

受注業者はウハウハで、笑いが止まらなくなるでしょうが。

⑧マイナンバーシステムの管理項目が、住民記録システム(住民票)や戸籍システムとかぶっている。いい機会だから統合して効率化しようって話にならなかったの?それとも無駄が好きなの?

これは統合しませんが、システム間で連携される予定です。
ですから無駄ではありません。
でも、住民記録システムは、各自治体毎に作ってしまったという致命的な国家設計の誤りがあり、時間をお金がかかります。

⑨ということは、日本の貴重なIT人材が、このおかしなシステムの開発に大量投入されている。日本のIT化の未来は暗い...

各国で同様のシステムを開発しているのに、その成功事例の詳細を明治維新の頃のように列強から謙虚に学ばず、日本の国内でシステム設計が閉じているからこうなります。

NTTデータとか、NECとか、日立とか、富士通とか、電通国際とか、大手ベンダーさん達に、英語ペラペラとかフィンランド語を話して海外のシステム設計も詳しいバイリンガルITアーキテクトなんて、一人も居ません。

嫌なら、青野さん自分でやって。

ちなみに、日本の未来で暗いのはIT分野だけじゃないでしょ。

むしろ、もし貴重な人材が投入されているのなら、どうして青野さんが指摘するようなシステムになってしまっているのでしょう?

⑩4種類のパスワード(「利用者証明用パスワード」「署名用パスワード」「券面事項入力補助用パスワード」「個人番号カード用(住民基本台帳用)パスワード」)を目的に応じて使い分ける。それ、忘れる人が続出するよ。パスワードの再設定という新たな職務を創出したいの?

これはご指摘の通りですね。

まんま、受注したベンダーに言ってやってください。

⑪生体認証を使えない。やっぱり4種類のパスワードを覚えるしかないのかー。仕方ないからメモに書いてマイナンバーカードと一緒に持ち運ぶか...あれ?

生態認証は国内のベンダーも自前のソリューションがありますから、そこに発注しても税金の海外流出にはならないのでよいかと思います。

でも、生体認証が出来る装置を持ち運ぶ訳にいきませんから、あくまでも自治体の窓口での認証になります。

コンビニで住民票を印刷するときまで生体認証ができるようにするには、かなり費用がかかりますよね?
東京だけ実装すればいい、では不公平ですから、日本全国津々浦々まであまねくコンビニというコンビニに実装する必要がありますよ。
その費用は、正当化できるんでしょうか。

⑫利便性が低い。マイナンバーカードを使って給付金を申し込むと、自治体職員を激務に追い込み、もらえるのが遅くなるという逆利便性。もはや日本の生産性を下げるのが目的としか思えない。

利便性が「まだ」低いのはその通りですが、まだ準備が出来てないのにマイナンバーカードを使って給付金を申し込ませるようにした政府の判断のミスです。
政府がそのような判断ミスをしないよう、国民がもっと声をあげないとダメです。
もちろん、自分達が選挙で選んだ代表を通して、になりますから、その代表がちゃんとIT判るようにしなければいけません。

ちなみに、千葉県市川市のように、マイナンバーカードを使って給付金を申し込んだ人には速攻振り込まれていましたから、それはやり方次第です。
日本の地方自治体の事務処理能力は概して高くない、と云えば、それはその通りなのですが。

⑬普及してない。そりゃそうなるよね。一回、落ち着いて反省した方がいいと思うよ。

反省すべきはそうでしょうが、生活に困窮している人を救うのに、時間的猶予はありません。

マイナンバーカード普及率は、全体で見るのではなく、公的支援を必要としている人達のカード保有率で見るべきです。

⑭にもかかわらず、自民党はさらに大量の税金をぶっこんで普及に躍起になっている。これ、やめられなくなった負け戦に似てない?後で責任取るつもりないよね。

ここ⑭から最期の⑳までは、反論する材料がないので、見つかり次第別途回答させて頂きます。

でも、青野さんは何を見て大量の税金って言ってるんでしょう?
確かに菅政権は引き続き普及に努めるでしょうが、いくら使うかは少なくとも来年度予算の話になるので、まだ何も決まってないです。

では、また明日。




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