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【厩菓子】レモンケーキ

 酷暑だったり、濡れそぼられたような湿度だったり、陽気が定まらないこの時期は体調不良になりがち。そうはいっても、40年ぐらいまえまでは一日のうちに暑いのと湿ってるのと両方がやってきて、暑い時も夕方にも涼しくなるからと頑張ってお日様をあたりに外に出たものです。こんなときはさっぱりとレモンケーキにしました。
 バター多めのパウンドケーキですが、生地にレモン果汁と皮を一個分練り込んでいます。そして極付がグラスアロー。粉砂糖とレモン果汁だけで作りますから、酸味がダイレクトに口に中に広がりとてもさわやか。時間と共に水分が蒸発し、アイシングが固まればサクっのフワっの食感と、バターの香り。こってりとさっぱりのコンビネーションに頭は混乱しながら、美味しいと感じればあとひくこと間違いなしです。
 バターを室温で練る作業から始まりますが、このとき泡立て器をつかわないとわりと硬めの生地になるかもしれません。問題はなかったけれど、ふわっと混ぜていたらもうすこし空気を含んだパウンドになったかな、と。

 この爽やかさならみなさん食べてくれるでしょう。
 
 この土日は、北海道で競走馬のセレクトセールがありましたね。YouTubeをひらくとおすすめに上がっていたのでちょっと拝見。みるみるうちに一億円の大台に乗る馬たちがいてびっくりです。またベッティング会場で馬を操作する方達のプロフェッショナルぶりに感動しました。
 プロフェッショナルというと、パンデミック直前に行ったケンタッキーのキーランドセールを思い出します。セールというもの自体初めてだったのですが、華やかな祭典でした。印象的だったことをすこし、ご紹介します。

 ケンタッキー州といえば牧畜が盛んなで土地、古い話で言うと南北線戦争の時代で言うと激戦地だった場所です。温暖な気候のため農耕地や牧場がおおく、ローカルな雰囲気のグリーングラス空港からすぐに大きな牧場が幹線道路沿いにならんでいました。セールはキーランド競馬場で行われます。競馬場は公園の並木ようにうつしくうしい林に囲まれていましたが、それがもうすでに駐車場で、暑い日差しを避け休憩する人も見受けました。
 セールが行われた建物は円形の馬蹄のような形をしていて、中央が室内のべっティング会場。それをぐるりと回廊が取り巻いています。ウッド調の壁には馬がモチーフの絵が格調高く、所狭しと飾られています。のちに、セール開催中の後半では、その絵のオークションもネットを介してあるようでした。印象派風のものから、ウォーホール的な現代的な絵画まで馬の絵が買える場所を他に見たことはありません。

 馬主の方達にとって当たり前のことらしいのですが、セール開催中の食事がまた美味しいのです。お肉の煮込みやキヌアをかったサラダなど、お腹にたっぷりの食事が思わぬお値段でいただけます。スイーツもアメリカらしいドーナッツからパイなどデリケートなお菓子も並んでいて選び放題。
 どんな旅に行ってもそれを満喫する一番のコツはイベントに参加することですね。現地の人とのふれあいもありますし、特別なときの普通の人とコミュニケーションがとれるのも面白いところ。 キーランドもそうでした。私はただの馬好きで競馬というと頓珍漢なのですが、オークション会場脇の下見場は一見の価値があります。見るからに購入目的ではない地元の方達が自前のテーブルや椅子を用意し、陣取り合戦。おじいちゃん、おばあちゃん、娘、婿、孫まで総動員で、フードコートの食事を楽しんだり、来年はあの馬が来るね、なんて話をしていたり。駐車場の整理をしていたおじいちゃんも地元のお手伝いさんの感じがとても暖かかったのを覚えいます。フードコートのお手伝い女性がまた、アメリカンマームというかんじの女性で何度お世話になったか。勝手に抱いていたアメリカ人のイメージが変わりました。アラブの"Shiek(シーク)”という、英単語しかしらなかった方が短パンにポロシャツのカジュアルな姿で馬を買いつける様子を拝見したり、気だるく座ったままでずっと片手を上げ続けたリッチマンと隣席したり、まるでエドガー・アラン・ポーの世界に入り込んだきがしました。

 とはいえ、競馬は常に退廃のイメージと強く結び付けられているのも事実です。キーランドから車で20分足らずの、アッシュランド・ザ・ヘンリー・クレイ・エステート(Ashland - The Henry Clay Estate)は19世紀に生きた政治家のプランテーションと大きな屋敷の跡です。『風と共に去りぬ』や『アンクルトムの家』を思い出させる風景のなかの美術館・歴史館で、二年前は80代のおばあちゃまがガイドしてくださるツアーの参加しました。家のまえのトウモロコシ畑は、百年近く前にはプランテーションの持ち主は更地にしてレース場をつくったとか、その広大さと馬とレースがどれだけ身近にあったのか感じさせられます。屋敷の裏の、黒人の使用人たちの工夫に溢れた大きな木造の家を案内すると、おばあちゃまガイドはクレイ家の最後の当主はギャンブルで財産を失くし、レキシントンの古アパートで死んだのよと、因果応報とでも言いたげに白い人差し指をふりふりしながらいっていたのが印象的でした。
 
 しかしながら、思うことは日本の競馬での規則のしさです。飼料の成分から馬の体内から出たもの、使用薬まで検査します。三十年、四十年まえでしたら創意工夫あふれるあの手この手、ニンニクやらお茶っぱで元気付けたようですが、いまではお茶はだめ、ニンニクは指定業者からに限られるとか。また、牧草などもい事前調査した畑のものしかダメですし、まるでアスリート待遇の管理です。海外の関係者がいらした際にちょっと同席する機会があったのですが、筋肉増強剤があちらは規制がなかったのをつい最近規制ができてクリーンになったと胸を張っていらっしゃいました。 古くはエリザベス・テーラーの映画『緑園の天使』の時代から、ギャンブルといえば競馬でした。そのことから考えると現状の日本の競馬は世界一クリーンな競馬じゃないかと思います。おおきなお金が動く場所。それだけにいろんな人が絡んで歴史が絡んで、賭けない私には純粋に興味深い場所です。
 
 世界経済がどうなっているの?という状態のときに、とも思いますが、人はやっぱり興奮や夢が必要なんでしょう。土日のセレクトセールの、嘘のようにお金が飛び交う世界をみていると、石油や穀類や金・銀とは別の先物を見ている気がしました。別の価値軸で動いている世界だと思います。浮草にならないよう気をつけなければ。

 暑くて蒸し暑い時には、レモンケーキでめをさまして。


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