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馬車とマンション

 スマホだけで高浜と東京を往復しました。スマートEXのおかげで緑の窓口や自動発券機に並ぶ必要が無くなりました。予約した乗車券をEXで受け取るためにパスワードを入力した時代が懐かしくさえ感じられます。今はsuicaと妻の toicaだけで改札を通過できます。素晴らしく便利になりました。
 エアコンの効いた新幹線の座席で冷えた缶コーヒーを飲みました。私は中学時代の友達さえ覚えていないのに、4歳頃に生まれて初めて乗った名鉄三河線の列車ドアが確か手動であったことは覚えている。新幹線のシートに座りながら、高浜港の駅には貨車が止まり、たくさんの人夫が馬車の荷台から貨車に天秤棒の両端に瓦の束を吊るして運び入れた姿を思い出しました。
 マンション16階から隅田川方向を眺めると高層ビルが立ち並び、夜景がとても綺麗で壮観でした。瓦を積んだ馬車が通る無舗装の道をビーチサンダルを履いて、半ズボンとヨレヨレのランニングシャツだけで馬糞の混じった水たまりも気にせず駆け抜けていた頃とのギャップが恐ろしくなります。あの頃は麦わら帽子に蝉やカブトムシを捕獲するための虫取り網を持って駆け回っていました。
 東京での朝、外に出て歩きました。ハンカチが湿るほど汗が出て、途中で堪らず半ズボンに着替えました。エアコンの効いたマンションに戻ったら、もう二度と外に出たいとは思わなくなり、夜まで孫の世話をして過ごしました。
 翌日、夜の7時半を過ぎ、高浜港駅に帰りついたら幾分風もあって心地よかった。駅前ロータリーは芝生と樹木が二本植わって整備されている。ここは70年近く前、確かに馬車が行き来していた場所です。懐かしく、東京よりは随分と居心地がいいと感じました。
 東京では一日中エアコンをつけたままでないと過ごせなかった。今朝、自宅で扇風機の生暖かい風を受けながら作文を書いている。それでも、そろそろ暑くなってきたからエアコンをつけることにしようと思う。
 70年近く前はエアコンも扇風機もなかった。なぜか昔はいいことばかりが思い浮かぶ。しかし、汲み取り式の便所や蝿や蚊に悩まされた。冷蔵庫やテレビ、電話や自動車をどれほど欲していたかも思い出す必要がある。

 とにかく、昔が懐かしい。けれども、今現在の生活には必ず不平や不満が渦巻くものです。
馬車があって自動車があって新幹線があります。
電話があってスマホがあってスマートEXがあります。
汲み取り式があって水洗があってウオシュレットがあります。
団扇があって扇風機があってエアコンがあります。
それでも、決して満足しません。

進歩・快適さが地球温暖化を招く。
そういえば思い出した。
国家・民族の発展は戦争をもたらす。
進歩・発展は現在の不満を解消してくれるが、どこまで行っても人間の不満と欲望はなくならない。そろそろ、このスパイラルから抜けだす時代を迎えているように思えてならない。
 きっと、こんなことを思うのは人生の黄昏時を迎えているからに違いない。だとすれば、人類全てが同時に黄昏時を迎える必要がある。

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