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水底から 序に代えて


はるか頭上の水面の上に

泡(あぶく)がひとつ

浮き上がっていった。

微かに届く陽光の線条の中で、

その泡は時折きらきらと

自らを煌めかせ、

鬱蒼と繁茂する藻の間を縫いながら、

濃緑色の海底から浮上していく。

けれどもはやそれを笑うクラムボンはなく、

生命の息吹も感じられない静けさだけが、

それを見守っていた。

瞑(くら)がり……

水底から

冥王(プルートゥ)のその声を泡と生し、

つぎつぎとなりゆく

愚昧の夜に放て。

そして、

新たなる光を……

祈りの中に。


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水底から

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