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見考企行 ソフト経済社会への構想とは

                                                                        Cev21掲載 1990.9.10 

ソフト経済社会へのデザイン構想
情報化の進展によって技術、品質、生産、サービスなどの均質化、標準化が進み、各企業の個性化が薄れつつある。半導体に象徴されているように、高度技術の共有化がなされ、技術力による商品化の差別化は至難の業となった。その結果、市場には「変わっていれば良い、おもしろければ良い」といった

溢れ、「モノの差異化」も行き着いた感がある。消費者の購入の行動に変化が現われ、中でも環境や生活空間における創造的価値の提案が消費行動となってきた。

これからの商品開発は、消費財なら生活のさまざまなシーンに合わせたコンセプトを設定して消費者の感性を刺激するといった戦略が必要となってくる。技術格差の縮小から、デザインとその背後にあるコンセプトが競争力の重要な課題である。

自動車、家電メーカーをはじめ大手企業は競って生活研究所やソフトセンターと名付けたデザインの陣容を強化している。中小企業の間でも内外の有力デザイナーと契約し、経営資源としてデザインを活用しはじめた。

日本企業はデザイナーを含めて商品づくりに必要な人材を雇用する傾向が一般的であったが、デザイン需要の拡大に伴って社外スタッフの起用が増え、デザインビジネスの市場も広がって来た。

社外の異能人の参画
1986年1月に発売した日産Be-1は1ヶ月で限定一万台を完売した。                「ノスタルジック・モダン」をテーマに、心地よさ優先のナチュラルカラー「Be- 1」が生まれた背景には、デザインプロセスにおけるファッションクリエーターやコンセプターなど社外の異能人の姿があった。Be-1とは、見てすぐブランドがわかる車であること、又、モノとしての魅力があり、ヒューマンで気持ちのいいモノを目指した。
    
日本の工業製品は、機能面から攻めるのが常道であり、又そうでなければ社内の技術者を説得できないという強迫観念があって、ハードな物差しのみで突き進んで来たといえる。ところがファッションクリエーターは「どう見るか、何が新しいか」を出発点としてモノに取り組んでいる。
 
大企業内の多数決で生まれるような無難なデザインは、時と共に変化した消費者の心をとらえられなくなっている。そのことに気づいていながらも思い切った自己主張がとことん出来ないのも企業内デザイナーの悩みでもあった。外部クリエーターはこの「小数意見」を声高々に主張する役目を担ったとも言える。

家具メーカーであるイトーキは世界に通じるブランドを目指し、外部ブレーンとしてインテリアデザイナーの内田繁氏、クリノ・カステリ氏(色彩システム)、コシノ・ジュンコ氏、細江勲夫氏、マスタープランと契約を結んでいる。

内田氏との提携内容は製品のデザインチェック、空間設計への助言である。 このように、社外デザイナーを活用する一つの理由は「ハウスデザイナーとして育っていくと、批判ばかりが身について創造力が減退する」という判断によると言う。
    
ファッションデザイナーが雑貨のデザインを仕掛ければ、工業デザイナーが建築、インテリアを手掛け、大手企業もデザイン部門を別会社化し、社外受注に力を入れる。時代の大変換で企業の課題はグランドデザインの問い直しである。

我が国の産業界はハイテクの分野では、質、量共に世界の水準を抜いているが、デザインの質、オリジナリティーについてはまだまだ不足を感じる点がある。企業においては設備投資よりも研究開発へと進み、ソフトへの動きを一段と加速しなくてはならない。

これからの時代対応としては、種々の情報を持った人材とのネットワークが重要となり、特に異業種、異能の人材とのコミュニケーションが重要となってくる。

その中から創出された新しい情報(ソフト)が企業進展の資源となる。すなわち新しい情報が生みだすプロセスが重要となり、これが物づくりの原点となってくる。 従って物づくりとは単にモノをどうするかではなく、一度モノの世界から離れ、新しい情報をもとに何を人々に伝達したいのかをデザインすることである。


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