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駄作MS No.Ⅺ 「RGM-79[F] ジム・フォーミュラ」

混迷のジム

 一年戦争で地球連邦軍はジオン軍のザクに大敗し、その巻き返しを図るための新型兵器としてモビルスーツの開発を始め、そしてそのデータは「V作戦」としてジャブローへと持ち帰られた。そしてその開発データをもとに量産型モビルスーツ「ジム」の開発が始まった。GMという名前は標準モビルスーツを意味するGeneral Mobile-suitを略したものである。しかしこのジム開発計画に対して連邦軍上層部の反応は決して芳しいものではなかった。
 そして早期にモビルスーツを実用化し実戦投入するために連邦軍上層部は当時開発中だったRGM-79を簡易化し量産を容易にしたジムA型の生産を開始した。これがのちにジムとして有名になる機体であった。

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RGM-79A ジム

 この「簡易量産型ジム」ともいうべき機体は劇中でも数多くの機体が投入された一方でその被撃墜数は莫大なもので決してその性能は高いといえなかった。それも当然の話で本来連邦が生産しようとしていたジムはこの機体ではなかったのである。そしてその「本来生産するはずだった」ジム、そして今後の主力機とすべき機体の開発はまだ終わっていなかったのである。

「本来のジム」

 連邦軍工廠でモビルスーツの開発を担当していた工廠は主に二つの系統があった。V作戦を中心に兵器開発局が開発していた系統と、北米オーガスタ工廠が主体に開発していた二つの系統である。そして兵器開発局が今まで開発してきた「本来のジム」は僅かながら生産されていた。

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RGM-79[E] 先行量産型ジム

 この「本来のジム」は運用テストを兼ねてルナツーで生産され、ごく少数が実戦投入されていた。しかしこの先行量産型ジムは高価であり、あくまで先行量産型に過ぎず、大量生産されることはなかった。しかしジムA型の評判の悪さから先行量産型ジムを軸として「本来のジム」生産計画が始まり、兵器開発局は「本来のジム」としてジム改の開発と生産を開始した。

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RGM-79C ジム改

 一方でオーガスタ工廠は強化型ジムとしてジム・コマンドの開発を進めていたが、この開発計画は根本的にジムを大きく改造するものであり開発に時間がかかっていた。
 他方、連邦陸軍は連邦の中でいち早くモビルスーツを戦力化し陸戦型ジムを配備していたが、この機体は先行量産型ジムと同様にコストが嵩むことから配備は打ち切りとなってしまった。さらにこの陸戦型ジムは通常のジムとはパーツの共通性がなくジムが大量配備されつつある状況では整備性にも問題を抱えていた。

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RGM-79[G] 陸戦型ジム

 よってこの陸戦型ジムの穴埋めになり、そして通常型ジムとパーツを共通化させ汎用性と整備性を向上させた機体が陸軍省から強く求められておりこの要求に対しオーガスタ工廠は新型機の開発をもって応えた。

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RGM-79D ジム寒冷地仕様

 この機体はRGM-79Dの型番を与えられた。これはジム・コマンドの基本設計を流用したことでジム・コマンドのプロトタイプ的な役割を持つ機体として完成し、既存のジムのパーツを流用することで機動性と運動性を高めることに成功した。このRGM-79Dに耐寒装備をしたものが北極基地に配備されたことは現在映像を確認しても分かるとおり有名な話である。対ドム用装備として完成したこの機体は隠れた傑作機となり、この成功はジム・コマンドの開発計画に対しても好意的な評価を得、その開発計画は強く推進され始めた。

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RGM-79G ジム・コマンド

 これを見ていた兵器開発局の反応が良いものであるはずがなかった。ジム・コマンドは次世代主力モビルスーツ計画であり、高性能なジムとなるはずであった。よって、ジム・コマンドの対抗馬となりうる機体を開発しオーガスタ工廠に対抗するべきとの意見があり、ジム改を軸としてさらに高性能な量産機のジム改開発を始めた。本来兵器設計局の下にいるオーガスタ工廠が開発する機体が兵器設計局の機体よりも高性能などという事実は彼らには認め難いことだったのだ。そしてその高性能ジムは連邦上層部からの開発許可が下りないまま開発を開始したため正式な型番は与えられなかったが局内での名称はRGM-79[F]、頭文字Fをとってジム・フォーミュラと呼ばれる機体となった。

もう一つのジムコマンド

 ジム・コマンドに対抗する装備として開発する以上、ジム改の性能向上型でなくてはならない。いわば「ジム改改」にあたる機体として開発するべき機体であった。彼らにはジム・コマンドが見えていたが、しかし実際にジム・コマンドを上回る機体とするためには何が必要なのか彼らにはわからなかった。よってすでに量産が開始されつつあるジム改とのパーツ互換性を高めた汎用性の高い高性能機を目標とした。

 性能の変更点は以下のようなものとなった。

頭頂高 18.0m
本体重量 41.2t→47.2t
全備重量 58.8t→61.1t
出力 1,250kW
推力 12,500 kg×4(背部)→15,000kg×4(背部)
1,870 kg×4(足部裏側)→2,000 kg×4(足部裏側)
総推力 57,480kg→68,000kg

 ジム改の装甲を厚くすることによって耐久性を高め、スラスターの推力を向上させることによって機動性と運動性を高めた。特にジム・コマンドはその運動性に高い評価があり、ジム改がそれを上回ることを目標とした。
 一方で技術コスト面において最も障壁となりうる核融合炉に関してはジム改のものを流用することで生産性を確保した。基本的な設計はジム改と変わらないがその性能はジム改よりも大きく向上していた。

 何よりの強みはジム改との互換性で、すでに正式採用が行われ大量生産大量配備が進みつつあるジム改とパーツを60%共通化していることにより整備性を損なうことがないという点が強みであった。加えて装備品や武器の多くはジム改と共通であることから装備転換にコストを必要とせず、パイロットに対してもジム改と同じ操縦性とコクピットは転換を容易とするものであった。さらにジム・コマンドは宇宙用と地上用で別の機体という問題があったが、ジム・フォーミュラに関しては地上宇宙共用の汎用機としての開発を進めコストパフォーマンスを高めることを目標とした。

 ジム・フォーミュラという名前も旧世紀に行われていた車のレースの頂点に立つF1、フォーミュラ1を強く意識したものであり兵器設計局の彼らからすればジム界の頂点に立つ量産モビルスーツを目指して開発をしていたのであった。

 試作機の完成は0079年12月29日ともはや戦争に間に合わない状況であったが、それでもジム・フォーミュラの開発は進み機体の完成をもって軍上層部への売り込みをかけることとなった。

 ジム・フォーミュラ試作機の性能は予定通りの性能を発揮した。ジム改を上回る機動性と運動性、そしてその耐弾性は圧倒的だった。ジム寒冷地仕様がその高い運動性で対ドム装備としての高い評価を得、ジム・コマンドの正式採用につなげたことを考えればこれはジム改の評価を覆しうるものであり、兵器開発局としても所詮は工廠の一つに過ぎないオーガスタ工廠に負けたという烙印を押されることは回避したと自信を持っていた。RXシリーズと同等レベルの性能を確保したとも言われるジム・コマンドに勝るとも劣らない高性能機とすることに成功したのである。

 RGM-79[F]ジム・フォーミュラはこうして地球連邦軍へと売り込みをかけ、正式採用されることはなかったのであった。

敗北のジム

 ジム・フォーミュラに連邦本部から与えられた型番はRGM-79Hとなってしまった。というのも、RGM-79Fという型番はすでにベルファスト工廠にて製造された陸戦用ジムに与えられてしまったのである。

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RGM-79F 陸戦用ジム

 この陸戦用ジムは戦況の逼迫を理由に欧州戦線での迅速な戦力化を目的として製造された機体であり、結果としてジム・フォーミュラが獲得するはずだったF型の呼称は奪われてしまったのである。結果としてH型のジム・フォーミュラというちぐはぐな名称となってしまった感は否めない。

 加えてこのジム・フォーミュラはもう一つのジム・コマンドを目指して作られた機体であるが、ジム・コマンドはRXシリーズと同等と言われる高性能を記録する機体であった。それに対してジム・フォーミュラは所詮ジムの改良型であり、根本的な性能向上には至っていないという問題点があった。もちろんその性能は向上しているが、ジム・コマンドには及んでいない。結果としてコストパフォーマンスでジム改に劣り、性能でジム・コマンドに劣るという中途半端な機体になってしまった。
 汎用性という点ではジム・コマンドに勝っていたものの、それならばジム改の配備で十分という点、加えてジム改は現在大量生産が行われ前線に配備が進みつつあることを考えればあえてその生産をジム・フォーミュラに切り替える必要は薄かった。

 さらに完成時期が12月29日までずれ込んだことでもはや戦争に間に合うはずもないことは明白であり、そしてこの戦争が終われば大軍縮時代が到来することは明らかな事実であった。目下連邦軍のモビルスーツは飽和していると言ってよく、今後の時代において新型モビルスーツをさらに配備するという状況は考えにくかった。
 さらに前述の性能ではジム・フォーミュラが正式採用される可能性はないと言ってよく、連邦本部では戦争勝利後のモビルスーツ配備計画についての決定がなされ、今後の主力モビルスーツはジム改、そして高性能な機体としてジム・コマンドを一部に配備することを決定し、ハイローミックスにより戦力を確保しつつバランスを持たせるということとなった。これにより中途半端なジム・フォーミュラの正式採用と大量生産は絶対に起こり得ず、不採用通知が届くこととなった。

 たった一機完成したジム・フォーミュラ試作機については結局ジム改へと改修されることとなり、ジム・フォーミュラが後世へと生き残ることは決してなかったのであった。

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