『大きな犬と、小さな亀の話』  作/森下オーク

 よく晴れた日のことでした。橋の上で、大きな犬があっちへうろうろ、こっちへうろうろ。うろうろしては、座り込んで、悲しげな顔で橋の下に流れる川を眺めています。

 川岸を一匹の小さな亀がトコトコと、歩いてきました。小さな亀は、橋の上を見上げて大きな犬に言いました。

「きみは、さっきからそこで何をしているんだい?ぼくが太陽を浴びている間、ずっとそうしていただろう。」

 大きな犬は、橋の下の小さな亀に言いました。

「ぼくは、川に家の鍵を落としてしまって、本当に困っているんだ。ぼくは、泳ぐことができないから、本当に困っているんだよ。」

「そうだったのか、じゃあ、ぼくが探してきてあげるよ、どんな形の鍵なの?」
「きみの右手位の長さの、銀色のカギだよ」

 小さな亀はそれを聞くと、トコトコと歩き、川の中へポチョンと飛び込みました。

 川岸ではトコトコと歩いていた小さな亀ですが、川の中ではスイスイ泳ぎます。あたりをくまなく見ましたが、それらしいものはありません。小さな亀は、目の前をとおる小魚たちに尋ねました。 すると、小魚たちは耳寄りな情報を教えてくれました。
「さっき、キラキラ光るものが、そこの岩の後ろのあたりに落ちてきたよ。」

 小さな亀はそれを聞いて岩の後ろに回ると、川苔に隠れた銀色の鍵を見つけました。そうして、それを咥えて岸に上がると、それを見た大きな犬は、橋の上で飛び跳ねて喜びました。
 「ありがとう!本当にありがとう!」
 
 川岸まで走って降りてきた大きな犬は、息を切らせながらお礼を言いました。

 あまりにも大きな犬がお礼を言うものだから、小さな亀は少し照れてしまいました。

 大きな犬は言います。

「ぼく、君にお礼がしたいんだ。なにかぼくに、出来ることってないかな~?」 小さな亀は首を伸ばして考えました。そうして、はたと閃きました。

「行きたいところがあるんだ。あの高い山があるだろう。ぼく、あの山へ登ってみたいんだ。」 小さな亀の目線の先に目をやると、小高い丘がありました。それは、大きな犬が毎朝散歩している道で、ここに来る前にも寄ってきたところでした。
「あそこでいいんだね?ぼく、きみを連れて行ってあげるよ、僕の背中にのってごらん。」

 そういうと大きな犬は、大きな体を小さく伏せて、小さな亀を背中に乗っけました。 小さな亀は大きな亀の背中に乗って、ご機嫌です。いつもは、草の中をゴソゴソ、トコトコと歩いていましたが、今日は草を上から眺めながら進むことができますし、進むスピードもとても速いのです。あまりにも気持ちがよかったものですから、鼻歌も歌い始めました。大きな犬は、それを聞いてとても嬉しくなりました。

 草原を抜け、木々の間を通り、二人は楽しく嬉しい気持ちのまま目的地の高い山?小高い丘?に、着きました。

「なんて見晴らしのよいところなんだ!こんな気持ちのよいところ、ぼくは初めてだよ!ありがとう!ありがとう!」 小さな亀は眼下に広がる景色を見て、とても喜びました。自分たちが出会った橋や川を見つけて、あんなに遠いところから来たのかと驚いきました。小さな亀があまりにもお礼を言うものだから、今度は、大きな犬が照れる番でした。 二人はしばらくそこにいて、色んな話をしました。風がヒューと吹いてきて、小さな亀が首を縮めたのを見て、大きな犬は、「そろそろ帰ろうか?」と言いました。 小さな亀は名残惜しい気持ちもありましたが、大きな犬が言うように帰ることにしました。

「また、連れてきてくれる?」

「もちろんだよ!また、一緒に来ようよ!」 二人はそう話すと、来た道をまた元のように、鼻歌を歌いながら、聞きながら、帰りました。そうして、今日、出会った橋の下で二人は別れました。

 大きな犬は、自分の家の前までつくと、いつもそうしているように、家の前に広がっているレンガの一番右端の上に、小さな亀が探してくれた銀色の鍵をそっとおきました。そうして、家の中に入っていきました。

(おしまい)

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