陰謀論者と科学的態度について
最近、陰謀論が活発になっている。実感がない者はツイッターで「人工地震」「気象兵器」等で検索してみてほしい。深淵が広がっている。
陰謀論はとかく馬鹿にされがちだ。あんなのを信じる人は大馬鹿である、というのが私の観測範囲ではメイン層だと思う。私も正直に言えばその傾向にある。
しかし、陰謀論者のツイート群を見ていると、彼らはある意味科学的なのかもしれない。この場合の科学的とは既存の長年の批判によって鍛え上げられてきた科学ではない。もっと素朴な態度である。
科学史を追うといかに虚偽が信じられてきたのかと愕然とする。例えば「燃素」である。可燃性の原質であるフロギストン(燃素)によって、燃焼や金属の酸化を説明した理論である。今では否定されているが、これは当時の科学では全くの「イカれた理論」ではなかった。当時の科学的水準では一つの仮説としては支持されていた面はある。もちろん、批判もあったが。
燃素説はあくまで「当時の科学的水準の中で」観測の中得られた仮説であった。このように観測と仮説の結びつきは今でも科学の基礎である。もちろん現代の科学は発達しており、様々な先進的な観測装置を用いて慎重に観測される。
近代的ヨーロッパの科学の発展の歴史は神が作りしこの世界を解き明かすという信念から来ていた。リン・ホワイトは「近代的な西欧科学はキリスト教の母体のなかで鋳造された」とまで言っている。このような近代的科学はいつしかキリスト教の教義の否定にまで達し、今ではアメリカではキリスト教的な創造論と科学的な進化論が対峙している状態である。
この「世界を解き明かす」という信念を陰謀論者も持っている。人工地震はなぜ地震が起きたかを説明する一つの仮説である。気象兵器による台風も同様だ。彼ら陰謀論を信じる者は、ある意味で(素朴な)科学的態度を持っているのである。
むしろ科学的態度という面だけで言えば、科学的な地震のメカニズム(「プレートテクトニクス」により、地下で起きる岩盤の「ずれ」により発生する)を知らないまま、特に興味もなく生きている大勢の人々より、誤った理論であれ地震のメカニズムを探求する彼らのほうが科学的態度と言えるかもしれない。
陰謀論者の科学的態度は実に素晴らしいものだが、問題は(繰り返しになるが)誤っている可能性が高い理論を信じていることである。彼らは世界を解き明かす気持ちは持っているのに真実(に近いとされるもの)にたどり着けない。これは専門化・複雑化した科学が一般人の手に余るものなのも影響している。前に私は高校で習う知識があれば多くのニセ科学に対抗できると記事を書いたが、「教育七五三」の法則、つまり高校で7割・中学で5割・小学校で3割が教育内容を理解していない現状もある。高校の時点でこれだけ理解していないとすると、大学で習うような先鋭化した科学を理解するのは難しい。そんなときに「世界の真理」としてとてもわかりやすい、地震は核兵器により人為的に起きたと唱える陰謀論を信じるのは無理もないことなのかもしれない。なにしろ単純明快なので難しい科学的知識なしに理解できるのだ。
私と付き合いのある、ある陰謀論者は、教育というものに強い不信感を持っていた。彼女は学校教育についていけなくなった、いわば落ちこぼれである。学校のテストで低い点を取り、教師にバカにされるたびに教育への不信感が高まったのだろう。彼女はよく「学校の教育は役立たず。ユーチューブには真実の情報がある」と言っていた。このように元々学校教育に不信がある者は、学校教育とは別の理論(これは前述したように単純明快なのだ)を信奉しやすくなる傾向があると思う。
ここまで語ってきたが、非陰謀論である現代科学もあくまで「この理論は確か『らしい』」という仮定の上である事も忘れてはならない。先に述べた燃素説のように理論はいつ否定されるかはわからない。それでもなお現代科学が優位なのは、理論について多くの科学者が様々な実験を行い、「どうやらこの理論は正しいのかもしれない」と入念に確認された上で成り立っているからだ。よって、少なくともこのような実験や議論を経ていない陰謀論よりは現代科学のほうが正しい「可能性」は高い。もちろん我々が信じる21世紀の科学は22世紀には否定されているかもしれないのはお忘れなく。
願わくは、陰謀論者の「世界を解き明かしたい」という一種科学的態度からくる欲求が陰謀論から離れて、正しい可能性が高い現代科学に結びつくことを。私もド文系で理系分野に詳しくないため、いつ理系分野への不信から陰謀論者になるかわからない。あからさまに欠陥のある人工地震理論については反論できるかもしれないが、量子力学理論については嘘をつかれても信じてしまうかもしれない。私のフォロワーは私と違ってインテリが多いので問題ないが、私は陰謀論を信じてしまうリスクがある。なので、本当に気をつけたいと思った。(小学生並みの感想)
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