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なぜ人は笑うのか─「一体感」の観点から

私はお笑い番組をよく見る。これはお笑いが好きというより、暗い話題ばかりのニュースを見ていると厭世的な気分になるから、その逆の明るいお笑い番組を見るのだ。

お笑い番組で大事な要素は「観客の笑い声」である。場合によってはSEで笑い声を入れたりする。これはなぜだろうか。

私の持論では、笑いの本質の一つは一体感だからだ(別の要素、「予測と予測の裏切り」については別の記事で述べたいと思う。本記事では取り上げない)。内輪ネタが受けるのは、その身内のネタを通して一体感を得られるからだ。『フルハウス』でしばしばギャグのたびに挿入される笑い声(専門用語でラフストックという)は「ここでみなさん笑うところですよ!はい、一緒に笑いましょう!」とアピールするためだ。みんなで笑うことは楽しい。人間は社会的動物である。お笑いを通して一体感を得、その一体感に満足し、笑うのである。

実際『Mr.ビーン』でラフストックを入れる理由は笑いどころを視聴者に教えるためであるとされている。笑うポイントが明確になり、視聴者はラフストックと共に笑うことができる。ここでも一体感を感じられる仕組みを用意している。ラフストックはライブ会場で芸人のコントを見たときに、観客同士が一斉に笑い、一体感を得て満足する、という行為を擬似的に再現するものだ。

内輪ネタは幅広く使われている。例えばアニメである。深夜アニメで典型的だが、オタク向けの内輪ネタを積極的に入れる。今期のアニメだと『邪神ちゃんドロップキック』二期で(アマゾンプライムで放送前に先行して見れるのだが)宇宙戦艦ヤマトのパロディやサンライズパース(サンライズ立ち)も挿入されていた。

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サンライズパースは上記の画像のようなものだが、これを見ればわかるようにあらゆるアニメで模倣されている。もちろんこのソードの持ち方がかっこいいのもあるが、それ以上にオタク向け内輪ネタの性質という面も大きい。似たようなものに『AKIRA』のバイクシーンがある。

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これらも上述したように内輪ネタの面を大いに持っている。また、海外アニメだが『サウスパーク』も映画のパロディ(例えば『300』の戦闘シーンのスローモーションのパロディ等)をしばしば行うことで有名である。これも内輪ネタである。

アニメで繰り返されるこれらの内輪ネタを見た時、それを知っているオタクならば少なくとも「ニチャア…」とするはずだ。実際私も邪神ちゃんの内輪ネタを見た時ツイッターに嬉々として書き込んだ。それが快だったからである。内輪ネタを共有してオタクと戯れ、一体感を感じたかった。

このような内輪ネタは当たればとても強力である。これはYou Tubeなどで公式配信されてるお笑いのライブ動画を見て、観客がいつ笑ってるのか観測するとよくわかる。例としてサンドウィッチマンのコントは定番ネタとして富澤が「ちょっと何言ってるかわからない」と言う。これはサンドウィッチマンを知らない客が見たら特に笑えないだろう。しかし、サンドウィッチマンのライブに通うファンはこの定番のとぼけ方に笑う。そう、サンドウィッチマンのファン向け(特にライブに通うような熱狂的ファン向け)の内輪ネタである。実際これは効果的で、大きな笑いが起きている事が多い。サンドウィッチマンとファンとが内輪ネタで一体感を感じているのだ。これこそ笑いの最大の要素である。

一体感はもっと広いものも含まれる。どのコンビのコントか忘れたのだが「冬なのに『冷やし中華始めました』と言い張る店」が出てきた。これは「冷やし中華始めました、は普通夏だろ!」という共通の項目が前提にある。日本人ならば誰もがこの前提を知っているだろう。ここでは範囲がかなり広いが日本人という枠組みでの内輪ネタとなっている。このようなものでも笑いが起きる。だが、内輪ネタの対象は狭いければ狭いほど一体感が高まって効果的なので、あまり大きな笑いは起きていなかった。狭い内輪ネタの効力を味わいたいならば、小さな箱でやるようなマイナー芸人のライブに行くとよい。そこではアニメや大手芸人のコント以上に狭い内輪ネタが繰り広げられ、人々はマイナー芸人と強烈な一体感を得て大爆笑している。このように対象を極限まで絞った内輪ネタの効能は凄まじい。

また、お笑いの定番「あるあるネタ」も内輪ネタである。それを知っているものたちがよくあることで笑う。公務員向け、SE向け、営業職向け、パチンコ好き向け、サバゲーマー向けのあるあるなど、各種あるあるネタがあるが、これも職種や興味範囲などの限られた範囲に向けて訴えかけるものである。

と。このような笑い=一体感というのが私の主張である。ラフストックは笑うところを教えて同時に笑い、一体感を得るために付け加える。内輪ネタはその一体感が最も強く現れ、笑いにつながる…というのが論旨である。

最後になるが、内輪ネタを好意的に述べてきたが、内輪ネタは内輪ではない者にはまったく面白くない。だから、先に冷やし中華のところで述べたようにある程度広い範囲に働きかけるネタが必要だろう。小さな箱でライブしていた面白い芸人が、テレビに出るとつまらくなるのは、テレビ=全国の視聴者向けという都合上大きな範囲に向けたネタにしなければならず、内輪ネタ要素が薄まるからだろう。

2000文字超えちゃったのでこのへんで。さよなら~


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