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【感想?レビュー?】街-運命の交差点 物語の「途中」を味わえる名作

昔からずっと、サウンドノベルが好きでした。

今でもエロゲーをこよなく愛する(変態)紳士であることは間違いないですし、否定しません。
もちろんコンシューマーのノベルゲームもいくつかプレイしましたし、「学校であった怖い話」はお気に入りの作品です。
だから、この作品にも抵抗はありませんでした。
というか5年前から買おう買おうといって無視し続けてしまった、悲しき思い出を持つ作品でもあります。

そんな作品を買って1週間と少しでクリアできたのは、この作品にとてつもない魅力があったからだと思うんです。
今回は、そんな「街-運命の交差点」のレビューをしていこうと思います。
いわば往年の名作ともいえるサウンドノベル界の重鎮であり、今更レビューなど遅れていること甚だしいのですが、どうしても書きたくなってしまいました。
お時間があれば、是非読んでいってください。

1.サウンドノベルの革命

この作品は、例えるならサウンドノベルにおける革命児と言えます。
それは物語の中間部分を楽しませることに力を注いでいる、という点にあると思います。

自分は昔から、小説でも叙述トリック、いわゆる最後のどんでん返しがあるような作品が大好きでした。
基本的にゲームでも映画でも本でも、作品の中間はエンディングを引き立てるものだと思っていました。
僕はこういう好みから、起承転結は「結」を面白くするために、「起承転」があると考えています。
小説にしろ映画にしろゲームにしろ、どの作品でも流れがあり、それに逆らえないことは自明でしょう。
それに逆らえば、革命的な作品として高く評価されるか、起承転結も守れない駄作として捨てられてしまうのがオチではないか、と僕は思っています。

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「街」はその概念を見事に打ち破りました。
それが「ザッピング」というシステムです。
作品の前提として、このゲームは8人の主人公の物語を並行しながら追っていくというスタイルになっています。

彼らは同じ時間を生きる存在です。
そうなると、場合によってはある人のおこした行動が他者の運命を変えてしまうこともあるでしょう。
そんな時に、文章内の単語が緑色になることがあります。
そこで所定のボタンを押すと、並行した他の主人公の話に飛ぶことができるのです。

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もちろん8人の主人公は知り合いではありません。
主人公の中の牛尾と馬部は、見た目が似ているというだけでお互いが入れ替わってしまうというトンデモ展開から話が始まるのに、出会う瞬間はほとんどないと言っていいほどです。

ただ、出会うことがなくても、間接的なサブキャラとの出会いや会話を通じて、他の人の運命が一気に切り替わってしまう。
そんな運命の切り替えをサポートするとともに、その操作までしてしまうというのがザッピングなのです。
システム的には、各種の主人公の話がザッピングを通して網目状に繋がるようになっており、この主人公から続きが見れる…!とか、バッドエンドを回避できる!などのパズル的なシナリオ攻略ができます。
話を読むことがメインのサウンドノベルをプレイしているのに、操作をするゲームをしているような気分になれるのです。

このようなシナリオを解く面白さは、本作ならではだと思います。詰まったときも難易度ノーマルまではヒントを教えてくれるので、まず困ることはないでしょう。(PS版以降のみ)

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僕はゲーム内でも細かい作業のような、モノを集めたり論理をくっつけていくことが好きなのですが、まさにマップ埋めは自分にピッタリの内容でした。
シナリオを楽しむだけでなく、マップやバッドエンドを埋めていく楽しさはひとしおで、まさに「プレイするサウンドノベル」と名付けてしまいたくなるような独自の面白さがありました。
この面白さは本当にプレイしないとわからないので、特にサウンドノベルが好きでよく遊んでいる人には自信をもっておススメします。
プレイして、サウンドノベル・エボリューションを感じてみてください。

2.現実、実写を舞台とする度胸

実は、「街」は発売当時そこまで人気がなかったらしいです。
というのも、この作品は実際の渋谷を舞台とした実写で描かれています。
その一方で、往年のサウンドノベルプレイヤーは「弟切草」や「かまいたちの夜」などのキャラクターがシルエットで描画されるゲームをプレイしています。

昔からの名作から見れば、全編実写でのサウンドノベル制作は中々の革命だったと言えるでしょう。
しかも、制作会社のチュンソフトからすれば、「弟切草」や「かまいたちの夜」は前作、前々作に当たります。
シルエット系統を作ってきた会社が急に実写を作るとなれば、チュンソフトファンからすれば肩透かしに思えたのかもしれません。

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しかし、サウンドノベル界には「学校であった怖い話」から始まる、所謂「パンドラボックスシリーズ」が展開していたのも事実です。
このシリーズは実写表記、オムニバスでキャラが選択できる、などと「街」に通ずる要素が多く存在します。
自分は「学校であった怖い話」にハマっていたおかげでするりと入り込めましたが、当時のプレイヤーは学校であった怖い話を買っているかどうかも怪しいほどです。
どちらも往年の名作ではありますが、中々大きな舵切りをしたという意味では「街」は実写による失敗をしているのではないか、と未プレイヤーは思うでしょう。

実際今のゲームの中でも、実写を利用した作品というのは少ないです。
当時のプレイヤーに違和感があると思われるのは自然なことだと思います。

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ところが、この作品は実写の使い方が驚くほどに上手い。
というか、この作品は実写でやった方がいいと自分は思っているほどです(PS版以降はシルエットと実写を切り替えられるようになった)。

まぁそりゃ実写のサウンドノベルしかプレイしていないので、自然と言えば自然なんですけど。
それを抜きにしても、この作品は実写を上手く扱っているんです。

当時のCG技術と組み合わせたり、かなり大がかりなキャストを用意してシーンを撮影している様子がうかがえたりと、この作品のシーン撮影にかける情熱は一流です。
まるでドラマ撮影をしているかのような出来栄えなんです。
役者さん一人一人の演技の上手さもさることながら、そこに文章が乗ることによって、サウンドノベルが目指していた(かもしれない)テレビのような小説の答えが示されているようであって、見ごたえがあります。
この作品の力強さを表すようであって、見ていて感情移入がしやすいです

イメージを提供するという分かりやすい方法で、プレイヤーに文字を「立体化」させたのは、この作品が原点にあると言えるでしょう。

3.どれも埋没することのないストーリー

この作品のキモとも言えるのが各主人公が持つストーリーがどれもオリジナリティに溢れており、そのどれもを全力で楽しむことができるという点にあります。

サウンドノベルはストーリーが全てと言えるぐらいのゲームジャンルです。その中で、前作まで続いてきたホラー重視の要素を極力まで排除し、「街」はギャグやサスペンス、ホラーや純文学的物語など様々なジャンルのごった煮のような作品を作り上げました。
一見すればそれは陳腐に見えるかもしれません。
しかし、この作品は各ジャンルが独立しながらもある一点で交わっては離れていくのであって、シナリオが完全に混ざり合うことなくジャンルごとのメリットを楽しむことができます。

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いくつか紹介していきましょう。
「やせるおもい」は5日で17キロ痩せないと彼氏に分かれるぞと脅され、死ぬ気で努力する細井美子のコメディドラマです。
バッドエンドもギャグ要素に満ち溢れていて、他の主人公とのドタバタ騒ぎでまとめてバッドエンド直行なんてルートも存在しています。
クスリと笑わせる要素の多い、笑わせるような面白さに全力を注いだ作品です。
もちろんちょっとした重い展開もありますが、そんなものは他のシナリオに対しても微々たるもので、ぶっ飛んだ主人公の面白展開を余すことなく楽しめます。

同じくホームドラマのようなドタバタ劇としては、3人の女を同時に子持ちにさせ、それを隠し通さなければならないという超絶プレイボーイ、飛沢陽平の「で・き・ち・ゃ・っ・た」が挙げられます(プレイボーイ、憧れるけど大変そう…)。

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その対極に位置する作品としては、左手に俗悪なテレビドラマの脚本を作られ続け、本当の純文学が作れないことに苦悩するシュレディンガーの手」の市川文靖が挙げられます。
このシナリオはまさにホラーと言えるような出来栄えで、作品の常を通して暗い雰囲気が漂います。
お笑いおふざけ一切なし、渋谷の街で苦悩をし続ける一人の男の物語が淡々と描かれます。
他の主人公との関わり方もどこか不思議なものだったり敵対的だったりと、ギャグに巻き込まれることは少ない気がします(もちろん全くないわけではありませんが…)。
音楽もほとんどないかおどろおどろしいものしか流れません。流れても渋谷の喧騒かバーのBGM程度です。
エンディング含めて考えさせられるものがあり、深いストーリーも魅力の一端にあると思います。

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同じスタンスとしては、フランスのレジョンから休暇中に無断で故郷に帰り居場所を探す男の苦悩を描く、高峰隆士の「迷える外人部隊」が挙げられます。余談ですが、クリアして一番好きになったのは隆士のシナリオです。本当に深いので一度プレイしてみてください。

※11/7 追記
別記事にて、この市川シナリオ・隆士シナリオについて思ったことをつらつらと書いておいたので、気になる方はそちらも読んでくださるとありがたいです。ただしネタバレ満載なので見る際はお気をつけて!

ギャグ要素を織り交ぜながらも、サスペンスのようなシリアスさを持ったシナリオも存在します。
例えば雨宮桂馬のシナリオ「オタク刑事走る!」では、桂馬が持ち前のオタクセンスを使いながらも、爆弾魔の仕掛ける謎を解いて事件に迫っていくという物語です。
ゲーム系の話はちょっと変わっているにしても、中々ドラマらしいストーリーの流れを持っているのが特徴と言えるでしょう。
日常のギャグを孕みながらも、シリアスなところはしっかりシリアス。
まさに刑事ドラマです。
犯人を桂馬と一緒に探し当て、追い詰める面白さもこのシナリオ独自の魅力と言えるでせう(誤字じゃないよ!)。

同じようなサスペンス系シナリオとしては、謎の組織七曜会に脅迫され加入させられ、脅迫の仕事を強要させられる「七曜会」の篠田正志が挙げられます。こちらも七曜会という組織に巻き込まれるものの、正志が逆に七曜会の目的などを暴くために尽力するサスペンスチックなストーリーとなっています。

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最後に、前述した見た目で勘違いされヤクザと役者で入れ替わっちゃう、時代先取り「君の名は。」のようなストーリーの「The Wrong Man 牛」と「The Wrong Man 馬」を紹介します。
どちらも入れ替わったことにより片一方の人の負担や責任を担ぐというもので、互いの苦労を学びながらもとある事件の解決に迫っていくとストーリーです。
早く自分の居場所に戻りたい、なんとかしてこの状況を打開したいと考えるうちに、双方のサブキャラとの関係性がどんどんややこしくなっていくのが魅力で、どうにもできないもどかしさがとても面白いです。
二人で一つのようなシナリオですが、双方にドタバタ劇が起こるため、どちらもプレイヤーを飽きさせないシナリオになっています。

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といった具合で、この作品のストーリーはどれも一筋縄では説明できない尖りっぷりがあります。
しかも、この尖ったシナリオが相互に連関していくことで、より面白くなっていくのです。
革命的システムを導入しながらも、サウンドノベルのキモであるストーリーは面白く描く。
名作として語り継がれる理由の一端と言えるでしょう。

4.超次世代的なシステム「TIPS」

最初に述べた革新的システムの中で「ザッピング」を紹介しましたが、実はもう一つ大事なシステム的要素があります。

それが「TIPS」です。

簡単に説明すると、電子書籍の辞書的なものです。
難しい言葉には注釈がついていて、説明書きが残してあるというものです。とっても現代的ですね。Amazon Kindleとかね。

このゲームの発売は1999年なので、今から20年以上前にこんなシステムを作っていたんです。ただただ脱帽です。
時代の波を読んだかのようなシステムは読む者の知的好奇心を駆り立てることができるので、見事な配置と言えるでしょう。

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しかし、これは興味のない人からすればとことん興味のないことでもあります。
一般的に、本を読むときはわからない単語はよほど気にならない限りすっ飛ばすと思います。かく言う自分がそうです。
だから難しい言葉をわざわざ調べる必要なんてない、ストーリーの概観さえ分かればいい。
そんな風に思われる方もいらっしゃると思います。

そんなTIPSの弱点を、この作品はユーモアで解決しています。
例えば、制作者側の意図的なメタ要素。
TIPSの中には時々作っている人の体験談が記載してあり、メタ要素的一面が垣間見えます。
普通の電子書籍だと注釈はかなり機械的なので、意味しか知ることはできないしあんまり興味も出ないでしょう。
しかし、注釈自体を面白くすればたちまち魅力的なコンテンツになるのです。「街」はこれを見事にやってのけました。

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しかも、一部のシナリオではキャラクターに沿ったような注釈がつくこともあります。
例えば市川シナリオ。
彼は純文学的作品への憧れが強いためか、TIPSに哲学的、文学的な文体で記述や用語説明がされることが多いです。
「死」や「愛」という言葉にTIPSがつき、彼の思想が断片的に見えるような文章がつづられています。
これにより、TIPSを通してより主人公に感情移入することができるのです。

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さらにさらに、サブキャラクターのストーリーや行動の内容までもTIPSを使いこなして紹介しています。
これにより、TIPS内で語られる、写真のない小説のようなストーリーが新たに別の場所で形作られており、一粒で二度おいしいと言わんがばかりの得をすることができます。
透明人間で見えないキャラとかの話を書いちゃったり、他のストーリーのサブキャラが出てきたときに「この人裏でこんなことしちゃってたんですよ」的な紹介が書かれていたりと、TIPS一つでストーリーの新規創造とシナリオ間の補完までやってのけます。とんでもねぇ…

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このように、このゲームでは新しく作られていくような技術を生み出しただけではなく、それらを巧みに使いこなしてゲームをより面白く、言葉一つをより複雑に、より考えさせるように表現しています。
こんなゲームを僕は今まで見たことがありませんでした。
TIPSが体に馴染んでいけばいくほど、そのユーモアセンスや裏のストーリー、言葉の意味の面白さに惹かれていく。
唯一無二の面白さであると言えるでしょう。

5.現実世界だから表せた1990年の渋谷

忘れちゃいけないのが、このゲームが実写であることにより、完璧と言えるレベルで1990年代後半当時の画像、映像を楽しむことができる点です。
自分は「ペルソナ2 罪」をプレイした時点で1990年代の日本の都会に興味を持っていました。
当時の都会の表現はどこか独特であり、今の都会にはない喧噪や美しさを持っている気がします。
それは1990年後半がおそらく自分が生まれて間もない時期であったこととか、郊外の田舎に住んでいたことなどにも理由があると思います。
現代の都会を実際に見ることも確かにいいことではあるのですが、当時の景色をゲームやニュースなどのコンテンツを通して見ることも僕は大好きです。

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その上で、「街」は1990年代後半を知るのにもってこいの作品と言えます
実写であることはもちろん、サウンドノベルとして、文章やTIPSが世界観の引き立て役として一役買ってくれています。
当時の語句の説明であったり、彼らの過ごし方であったり。背景一つとってもどこか当時の雰囲気が漂っており、1990年代の日本の都会を味わうことができます。
ネットが電話回線しかなかったり、テレカが当たり前に使われていたり、パソコンが妙に古いものであったりと、電子的な部分はまさに時代そのものを表現していると言えます。

完全に余談ですが、市川のホテルにあったPCは自分の家にもあったので、見たときに昔を思い出してしまいました。あの妙に奥行きのあるモニターのPCがあったのが2000年前半ぐらいの話ではあるんですけど。

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20年経った今だからこそ、自分より年上の方々に当時を思い出してもらう、という意味合いでも自分はこのゲームをお勧めしたいです。
おそらくこの独特な世界観(というか現実なんですけど)を味わうことができるのは、実写であり1990年代であり、当時のゲーム機であるPS1のソフトである、「街」しかないと思います。

6.総評

もう語りに語りまくりましたが、この作品は間違いなく名作で、サウンドノベルにおける革命と言えるでしょう。
じっくりと読み進めるだけの従来のサウンドノベルではなく、頭を使わせたりユーモアたっぷりの語句説明を加えたりとプレイヤーを飽きさせない工夫が随所にあり、プレイしていてのめり込んでしまいました。
まさに副題にあるような「サウンドノベル・エボリューション」であり、現代のサウンドノベルの中でも、20年経った今でも最高峰に君臨するような作品であると僕は思います。
今やっても新鮮な気持ちで遊べると思うので、あらゆる人におススメしたい作品です。
ゲームショップなどで見かけたら、是非購入してプレイしてみてください。新しいゲームの扉が幕を開けると思います。

ちなみに、シナリオ的繋がりはないものの「街」から10年が経過した作品「428-閉鎖された渋谷で」は現行機種、PCでもプレイ可能です。
PSPやPSVitaをお持ちの方は「街」のPSP版を遊ぶこともできます。
気になった方は是非どうぞ。

渋谷に花火が上がるとき、その時は…。



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