自分が生きてもいい理由を探して髪の毛を伸ばすことにした話

物心ついた時から両親に疎まれ、やっとの思いで入った大学を中退させられて鬱になってそのことをまた両親に毎日ネチネチと責められていた20歳の頃、私は必死に自分が生きてもいい理由を探していた。何度死のうとしても死ねなくて、ならばとなんとかして今生きていることを許されたくて必死だったのだ。
当時既にインターネットがあったことは本当に幸運だった。

私は高校生になって献血ができるようになってから、献血ルームに足しげく通っていた。その頃から既に誰かの役に立たなければ生きてはいけないという刷り込みは完成していた。しかし、抗うつ薬を飲み始めて献血はできなくなった。それを知った時本当に目の前が真っ暗になった思いがした。
では代わりに他に何かないか、骨髄バンク、臓器提供。これらは服薬のことは調べていないが、なんと家族の同意が必要になる。家族は私が人の役に立つことを阻止していた。お伺いをたててみたところ見事却下された。

そうして、私は誰の役にも立てない、人の迷惑になるばかり、死ぬこともできない、と両親に罵られるままに38歳までを過ごした。

そしてなんやかんやあって40歳になった私は今、髪を伸ばしている。
薬を飲んでいても、家族の許可がなくても、髪の毛の提供はできる。すっかり忘れていた。

ただ、ここで万が一私と同じことを考える人のために(いるのか……?そんな人)先に言うが、精神がギリギリで風呂に入るのが苦痛な時に髪を伸ばすのはあまりにも悪手である。だからおすすめはしない。ただ、調子が良くなった時何かを提供したくなったら髪の毛って手がありますよ、だけ心の隅に置いておくと何かお守りみたいになるんじゃないかと思う。

私の話に戻る。ヘアドネーションという存在自体は小学生の頃に知った。小学生の頃の私といえば、年間30センチ以上髪の毛が伸び、毛量も人の3倍、ヘアドネーションを知った時、まだ親がやべえと知らなかった私は無邪気に親にやりたいと言い、あっさり却下された。
今思えば、私が何かしらの「人の役に立つ」経験を必死に止めたかったんだろうと思う。「あんたには無理」を連呼され、なんで?と当時精神年齢赤ちゃんの私はしつこく問い詰めたが、「とにかくあんたの髪の毛なんか誰もいらない」で押し切られ、私は月2で親の知り合いの美容院に連行され(伸びるのが速いから)、似合わないベリーショートヘアにされるようになった。ヘアドネーションという概念はそれを機に私の中から2年前まで完全に吹っ飛んでいた。

2年前、ふと、なんのきっかけか思い出し、でもな〜くせ毛だし白髪染めもしてるし……と検索したところ、切れ毛レベルのダメージさえなければどんな髪でもOKとのこと。知らなかった。その時ちょうど美容院に行こうとしていた、つまり髪がそれなりに伸びていたため、よし今日から伸ばすぞ!と決意を固めたのだった。

しかしそこは悲しいアラフォー、髪が伸びる速さはすっかり衰え、毛量も減ってせいぜい人の2倍程度、年間12センチ伸びているかどうか、にまで退化してしまっていた。こんなことならもっと早くにやりたかった。10代の頃なんか切っても切っても伸びる髪に本当に困っていた。でも逆に、今やらなかったら今後もっと難しくなる、そして今やらなかったら絶対に後悔する、と思って今頑張って伸ばしている。

今の私の髪の長さは乳首を少し超えたあたり、目標の40センチ(一般的に言われる31センチではショートのウイッグしか作れないらしいため)かつ肩の少し上で切ることを考えると、あと最低10センチ、できれば15センチ伸ばしたい。そしてそれには1年かそれ以上の月日が必要。
もう既に何度も心が折れかけたが、何かしらのいよいよ無理な事態が発生しない限りは伸ばしていこうと思っている。

しかし、やはりというか、今の私のようにここまで色々とすり減らしてまで髪を伸ばしている人はいない。皆、ヘアケアに気をつけて大切に伸ばしている、そういう余裕のある人がするべきことだとしみじみ思っている。
それに、寄付サイトを見て、髪の寄付はたくさんあっても寄付金が足りなくてウイッグが作れないということも知った。私にお金があれば、1台いくらですか?じゃあそれもセットで!と言いたいが、毎日節約のことばかり考えている私は正直100円たりとも寄付はできない。100円あったら何か食べたい。

私と同じく、精神に問題を抱えている人はおおむねお金に余裕がないと思うので、髪の毛を伸ばす代わりに寄付しよう!とも言えない。

けれどもしも偶然、私と同じに献血、骨髄バンク、臓器提供がダメで詰んだと感じた人がいたとして、ここにこんなものがありますよと書き留めておきたい。
もちろん、風呂がますます億劫になる+ガス代水道代がかさむというリスクがあることも同時に書かねばならないが。

そして以下はいつもの愚痴なのだが、髪を伸ばすと決意して以降、美容院で「なんで髪伸ばしてるんですか?」と聞かれるようになり、ヘアドネーションのために……と言うとウチで切りましょう、なんならショートにすれば今でもギリいけますよ!と迫られるようになり、髪を切る時の美容院は慎重に選ばないといけないなというか、団体に登録されている美容院(遠い)で切ろうと固く誓うことになった。しかも話を聞いていたら、美容師さんの知識は私がネットで得たものよりもあまりに薄くて……お客さんがヘアドネーション希望じゃなくても、これ送っていいですか!送りますね!と団体に送り付け、そうすると寄付してくれた方の名前は、と団体に聞かれるから毎回困っているとか言われて私が困った。サイトでは普通に名前のところに美容院名が書いてあったりするし、美容院の名前でええやん……。あと困るなら頼まれてもないのに送らなきゃ良くないか。なぜその程度のことを相手に聞いたり調べたりしないんだろうかとぞっとした。ので、今は傷んだところだけをセルフカットする日々である。お金の節約にもなるし。

ともあれ、髪を伸ばすにあたり鬼門はこれから来る夏である。無事に夏を乗り越え、いずれ40センチ……には届かないかもしれないけれど、髪を寄付することができたらいいなと思っている。たとえ、お金が伴わなければただの迷惑かもしれなくても……。


《追記》
髪が多い・長い私がドライヤーをさほど苦痛に思わないのは、相性のいいドライヤーの力が大きいと思う。
去年の夏、強い冷風が出るドライヤーがないと死ぬと思って買い直したのだが、これがそれほど高くない(8000円ほど)割にとても私の髪に合っていて、今も日々のドライヤーに10分もかからずに済んでいる。
ドライヤーにありがちな、熱いのに風量が弱い!ということがなく、ぶっちゃけ冬は少し寒いくらい温風の温度が低いが、とにかく乾くのが速いので満足している。音も前のドライヤーより小さい。もっとお金を積めば色々あるだろうけれども、ドライヤーに何万も出せない私にしては、買い物下手くそな私にしてはいい買い物をしたと思う。

せっかくだからシェアしよっと♪とAmazonを開いたら、既に新型が出ていて、新型の方が安くて高性能でちょっとだけ寂しくなった。でも今の子がダメになるまで使い続けようと思う……。不自由してないし……。

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